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第六十八話
精霊たちのとの交渉・後編
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うわっ! なんだなんだなんだ??? すっげー! 勝手に体が動く!!!
今、リアンと模造刀で一対一の試合をしているところだ。さっき火の精霊と風の精霊に「短時間で試合に勝てるだけの力を貸して欲しい」と心の中でお願いしただけなんだけどさ。そしたら火の精霊からは纏っていた炎の一欠片が……手の平サイズの炎が俺の胸に向かって飛んで来て、そのまま胸の中に溶け込むようにして消えて。風の精霊からは飛んでいた上空から羽が一枚俺の額に舞い降りて、それがスッと額の奥に消えた。全くなんの刺激も感じなかったが、戸惑う間もなくすぐに体が勝手に動き出し、試合に備えて構えていた。
二体の精霊たちが言うには、剣術のイロハも知らなくても、勝手に体が動くから心配ないらしい。だけどさすがにそんなチート能力ある訳ねーべ、と思ったら……マジだった。
火の精霊は俺から少し離れた場所にまるでスフィンクスみたいに優雅に伏せ、風の精霊は悠然と俺の頭上を旋回している。お願いしてからすぐに、先手必勝とばかりにリアンに切りかかった。体は勝手に動くけれどとても軽やかで、何よりも体中に力が漲って息一つ乱れやしない。すげーや! これ、マジでチート能力じゃん! ついにさ、ついにさ! 憧れの『異世界転移☆チート能力で主人公無双』なんてな。異世界転生じゃなくて転移、てのがミソ。……などとしょうもない事を考える余裕もあって。
カキーン、とくぐもった金属音と共に、リアンの持つ模造刀が後方に飛ぶ。同時に彼の喉元に剣先を突き付けている俺が居た。くぅーーー! かっけーな、俺! ……勿論、精霊たちの力が働いただけなんだけど。時間にしたら一分もかかってないと思うんだな。
「お見事です」
とリアンは両手をあげた。まぁ、俺の力じゃないんだけどね。
「力、貸してくれて有難うな」
二体に声をかける。すると俺の額からクリアブルーの羽が一枚、胸からは手の平サイズの炎が湧き出てきた。それはそのまま元の持ち主へ吸い込まるようにして戻っていった。すぐさまレオとノアが駆けつける。そうか、借りた「力」を戻したという事は、どっと疲れが出るって事か。
『大丈夫カ?』
そう声をかける火の精霊を始め、風の精霊もリアンも。左右で見守るレオとノアも、心配そうに俺を見つめる。だけど……
「大丈夫だ! 何の支障もない!」
と答え、笑顔で応じた。自然に口元が綻んだ、という感じだ。だって、ほんの僅かに息切れと体の怠さを感じただけで全く何ともなかったから。レオとノアが安堵している様子が可愛らしい。
「時間にしたら……」
「35秒ッテトコダナ」
風の精霊はリアンに答えると、火の精霊の右隣に舞い降りた。
「……コレ以上戦闘二時間ヲカケタルノハ危険過ギル」
火の精霊は重々しく口を開いた。ふと、疑問に感じた事を聞いてみる。
「今のは二体の『力のみ』をお借りした、て事だけど。もし体ごと借りるという場合は、言い換えたら俺の体を二体に貸す、という表現で良いのかな?」
二体はほぼ同時に頷いた。
「なるほど。その場合、俺の意識はない、て事になるかな?」
その間は無双状態、て言ってたから。『無双』って痺れる憧れの響きだよなぁ! およそ、俺の辞書にはない言葉だしな。
「ソノ通リ。気付ケバ決着ガツイテイル状態ダ。但シ、主ノ体ガ持ツ時間内二終ワレバ、ノ話ダガ」
火の精霊が答えた。
「長ク見積モッテモ17秒程ダロウ。ソレ以上掛レバ命ノ保障ハナイ。絶対二オ薦メハ出来ヌ!」
ピシャリと風の精霊は言った。そうか、そのまま『あの世』行きの可能性が高いのか……。けどまぁ。せっかくの無双状態、意識がないんだったらつまらないしな。……なんて呑気に言ってる場合じゃないんだけど。
「確かに、体ごと……というのは危険過ぎますね。ですが、万が一の事を考えて、『力』のみをお借りした場合、ギリギリどのくらいの時間が耐えられるのか知っておきたいのですが」
リアンは右人差し指を眼鏡のエッジにあてながら切り出した。
「何故ソノヨウナ危険ヲオカス?」
火の精霊は立ち上がるとリアンに鋭い視線を向けた。
「それを知る事で、惟光様自身と私たちに窮地に備えての対策を立て易くする為です」
リアンは少しも動じず、また表情一つ変えずに淡々と応じた。さすがだ……
「ダガ、余リ二モ危険ダ」
風の精霊はそう言って首を横に振る。だけど……
「大丈夫だ!」
俺は一歩前に出て二体を諭すように言う。俺がしっかりと意思を伝えないとな。
「俺自身、どのくらい持つのか? タイムオーバーした場合どうなるのか知っておきたい。それを知らずに成功体験だけでいつ何が起こるか皆目見当もつかないままピンチを乗り切れるなんて思うのは、あまりにも浅はかだ」
「シカシ……」
「大丈夫さ! 虎穴に入らずんばば虎子を得ず、てヤツさ。それに、俺には回復魔法に長けた者が二人もついているしな」
心配そうに尚も食い下がる二体を朗らかに遮る。意表を突かれて驚いて俺を見つめるレオとノアに微笑みかけた。
今、リアンと模造刀で一対一の試合をしているところだ。さっき火の精霊と風の精霊に「短時間で試合に勝てるだけの力を貸して欲しい」と心の中でお願いしただけなんだけどさ。そしたら火の精霊からは纏っていた炎の一欠片が……手の平サイズの炎が俺の胸に向かって飛んで来て、そのまま胸の中に溶け込むようにして消えて。風の精霊からは飛んでいた上空から羽が一枚俺の額に舞い降りて、それがスッと額の奥に消えた。全くなんの刺激も感じなかったが、戸惑う間もなくすぐに体が勝手に動き出し、試合に備えて構えていた。
二体の精霊たちが言うには、剣術のイロハも知らなくても、勝手に体が動くから心配ないらしい。だけどさすがにそんなチート能力ある訳ねーべ、と思ったら……マジだった。
火の精霊は俺から少し離れた場所にまるでスフィンクスみたいに優雅に伏せ、風の精霊は悠然と俺の頭上を旋回している。お願いしてからすぐに、先手必勝とばかりにリアンに切りかかった。体は勝手に動くけれどとても軽やかで、何よりも体中に力が漲って息一つ乱れやしない。すげーや! これ、マジでチート能力じゃん! ついにさ、ついにさ! 憧れの『異世界転移☆チート能力で主人公無双』なんてな。異世界転生じゃなくて転移、てのがミソ。……などとしょうもない事を考える余裕もあって。
カキーン、とくぐもった金属音と共に、リアンの持つ模造刀が後方に飛ぶ。同時に彼の喉元に剣先を突き付けている俺が居た。くぅーーー! かっけーな、俺! ……勿論、精霊たちの力が働いただけなんだけど。時間にしたら一分もかかってないと思うんだな。
「お見事です」
とリアンは両手をあげた。まぁ、俺の力じゃないんだけどね。
「力、貸してくれて有難うな」
二体に声をかける。すると俺の額からクリアブルーの羽が一枚、胸からは手の平サイズの炎が湧き出てきた。それはそのまま元の持ち主へ吸い込まるようにして戻っていった。すぐさまレオとノアが駆けつける。そうか、借りた「力」を戻したという事は、どっと疲れが出るって事か。
『大丈夫カ?』
そう声をかける火の精霊を始め、風の精霊もリアンも。左右で見守るレオとノアも、心配そうに俺を見つめる。だけど……
「大丈夫だ! 何の支障もない!」
と答え、笑顔で応じた。自然に口元が綻んだ、という感じだ。だって、ほんの僅かに息切れと体の怠さを感じただけで全く何ともなかったから。レオとノアが安堵している様子が可愛らしい。
「時間にしたら……」
「35秒ッテトコダナ」
風の精霊はリアンに答えると、火の精霊の右隣に舞い降りた。
「……コレ以上戦闘二時間ヲカケタルノハ危険過ギル」
火の精霊は重々しく口を開いた。ふと、疑問に感じた事を聞いてみる。
「今のは二体の『力のみ』をお借りした、て事だけど。もし体ごと借りるという場合は、言い換えたら俺の体を二体に貸す、という表現で良いのかな?」
二体はほぼ同時に頷いた。
「なるほど。その場合、俺の意識はない、て事になるかな?」
その間は無双状態、て言ってたから。『無双』って痺れる憧れの響きだよなぁ! およそ、俺の辞書にはない言葉だしな。
「ソノ通リ。気付ケバ決着ガツイテイル状態ダ。但シ、主ノ体ガ持ツ時間内二終ワレバ、ノ話ダガ」
火の精霊が答えた。
「長ク見積モッテモ17秒程ダロウ。ソレ以上掛レバ命ノ保障ハナイ。絶対二オ薦メハ出来ヌ!」
ピシャリと風の精霊は言った。そうか、そのまま『あの世』行きの可能性が高いのか……。けどまぁ。せっかくの無双状態、意識がないんだったらつまらないしな。……なんて呑気に言ってる場合じゃないんだけど。
「確かに、体ごと……というのは危険過ぎますね。ですが、万が一の事を考えて、『力』のみをお借りした場合、ギリギリどのくらいの時間が耐えられるのか知っておきたいのですが」
リアンは右人差し指を眼鏡のエッジにあてながら切り出した。
「何故ソノヨウナ危険ヲオカス?」
火の精霊は立ち上がるとリアンに鋭い視線を向けた。
「それを知る事で、惟光様自身と私たちに窮地に備えての対策を立て易くする為です」
リアンは少しも動じず、また表情一つ変えずに淡々と応じた。さすがだ……
「ダガ、余リ二モ危険ダ」
風の精霊はそう言って首を横に振る。だけど……
「大丈夫だ!」
俺は一歩前に出て二体を諭すように言う。俺がしっかりと意思を伝えないとな。
「俺自身、どのくらい持つのか? タイムオーバーした場合どうなるのか知っておきたい。それを知らずに成功体験だけでいつ何が起こるか皆目見当もつかないままピンチを乗り切れるなんて思うのは、あまりにも浅はかだ」
「シカシ……」
「大丈夫さ! 虎穴に入らずんばば虎子を得ず、てヤツさ。それに、俺には回復魔法に長けた者が二人もついているしな」
心配そうに尚も食い下がる二体を朗らかに遮る。意表を突かれて驚いて俺を見つめるレオとノアに微笑みかけた。
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