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第七十話
そしてその後……
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……なるほどなぁ。火、水、風、土、光、闇、植物の全ての力を借りようにも、そもそも体が持たないから不可能って事か。火と風の精霊の力を借りただけで、一分も持たなかったもんなぁ。しかも俺が限界になると精霊も消えちゃうっつー……
溜息しかでねー。そもそも、35秒で決着がつくようなピンチの程度なら、窮地に陥って命の危険があるだなんて話になってないよなぁ。
「どうなさいました? 何か心配ごとでも?」
魅惑のバリトンボイス、央雅の声で我に返る。栗色の短髪は少し伸びて、そこはかとなく男の色気を感じさせる。相変わらずの男前だ、鋭い土色の瞳が気遣わし気に俺を見つめる。
「あぁ、ごめん。ちょっと考え事をしていた」
下手に誤魔化したら余計に心配かけそうだ。取りあえず、嘘は言わないでおこう。今日は王子たちと『宝土界』に訪問予定だ。朝食後、レオとノアに衣装や髪型を整えて貰ったところに、央雅が部屋にやって来たのだ。王子とリアンは後から部屋にやって来る事になっている。
「……そう言えば、レオとノアから聞きましたよ。何でも、火と風の精霊を使いこなしてリアン様に剣術の試合で勝ったんだとか。時間にしてものの30秒程でとてもお見事だった、と。それはもう目を輝かせて興奮していました。素晴らしいですね。初めての体験で、精霊を使いこなすなんて」
あぁ……レオとノア。目を輝かせて話す様子がアリアリと想像出来る。痘痕もエクボ、てヤツだな。アイドルに憧れる感じに似ていて。今はいいけど、その内夢から醒めたように本当の俺に気付いたら……幻滅して失望するんだろうな……。
そうか、そんな話、本人たちの前で話したら照れてあたふたしそうだから、央雅の奴二人に下がるように言ったのか。
「ハハハ……精霊の力を借りただけで俺は何もしていないし。それに、30秒程度強くなるだけの事だし、何の役にも立ちやしないさ」
どうしても自嘲気味になってしまう。だけどホント、せっかくリアンに貴重な時間を割いて貰ったのに、申し訳無いよな。
「いいえ、決してそのような事は。リアン様にはたまに剣術の稽古をつけて頂くのですが、私はまだ一度も勝てた事はありません」
へぇ? 改めてリアン、すげーなぁ! 本当に何でもずば抜けているんだなぁ。……でも……
「というか、そもそも精霊たちの力を借りているだけで俺もの力じゃないしな」
「いいえ、惟光様だから使いこなせるのです」
「借りにそうだとしても、一分も持たないんじゃ意味がねーよ。せっかく貴重な時間を割いてくれたリアンに申し訳ない、ていうか……て、あ! ごめん! 俺、何愚痴ってんだか、最低だな、俺。ホント、ごめん!」
話している内に、央雅に自己嫌悪の感情を吐き出している事に気付いた。何やってんだよ、俺。だけど央雅は穏やかに笑みを浮かべた。こんな優しい表情も出来るんだ……思わず見惚れちまうほど、普段とのギャップが著しい。
「いいえ。私が一足早くこちらに来たのは、惟光様の本音を引き出して伝えて欲しい事がある、とリアン様に命じられた為です」
「そうなのか?」
「はい。恐らくはご自分を責めてらっしゃるだろうから、と」
そうか、お見通しか……益々、情けねー。
「そうか……」
「リアン様はこうおっしゃってました。自分が直接伝えては余計に気に病んでしまうだろうから、と。『それぞれに担当という役割というものが仕事にはある。今回の件は特例中の特例で、本来なら戦闘には関係のない惟光様を巻き込んでしまった。むしろ謝らないといけないのは戦闘を担当する自分たちの方だ。だからどうか気に病まないで欲しい』と。恐れながら私も同感です。およそ30秒過ぎた後どう対処すべきか? それは私たちと一緒に考えましょう」
……なんというか。その……そこまで気遣って貰って……やべ、涙が出そうだ。
「……うん、そうか。そうだな……有難う」
それしか言えなかった。そうか、だから央雅はレオとノアに下がるように伝えたのか。
「本当はですね。この事は私の発言であるかのように伝えろ、と命じられらのですよ」
央雅の意外な言葉にハッとして彼を見つめる。任務に忠実な彼には似つかわしく無い台詞だったからだ。
「本来なら、そうすべきなのでしょう。ですが、何だかリアン様のお気遣いを私が独り占めするような感じがして気が咎めたので。正直に申し上げました」
と照れたように笑った。笑うと少し幼く見える。そんな彼もまた意外だった。
「正直で誠実なお前らしい選択だな。気もちはよく理解出来る。分かったよ。今の話はお前の意見だ、て事にしておくよ。有難うな、本当に」
少しだけ、気もちが和らいだ気がした。そうだな、自分を責めても何の解決にもならん。それより、どうすべきかに気もちを注いだ方が建設的だもんな。
「さて、そろそろ殿下とリアン様がお見えになる頃ですね」
央雅は話を切り替えるようにしていつもの真顔に戻った。
溜息しかでねー。そもそも、35秒で決着がつくようなピンチの程度なら、窮地に陥って命の危険があるだなんて話になってないよなぁ。
「どうなさいました? 何か心配ごとでも?」
魅惑のバリトンボイス、央雅の声で我に返る。栗色の短髪は少し伸びて、そこはかとなく男の色気を感じさせる。相変わらずの男前だ、鋭い土色の瞳が気遣わし気に俺を見つめる。
「あぁ、ごめん。ちょっと考え事をしていた」
下手に誤魔化したら余計に心配かけそうだ。取りあえず、嘘は言わないでおこう。今日は王子たちと『宝土界』に訪問予定だ。朝食後、レオとノアに衣装や髪型を整えて貰ったところに、央雅が部屋にやって来たのだ。王子とリアンは後から部屋にやって来る事になっている。
「……そう言えば、レオとノアから聞きましたよ。何でも、火と風の精霊を使いこなしてリアン様に剣術の試合で勝ったんだとか。時間にしてものの30秒程でとてもお見事だった、と。それはもう目を輝かせて興奮していました。素晴らしいですね。初めての体験で、精霊を使いこなすなんて」
あぁ……レオとノア。目を輝かせて話す様子がアリアリと想像出来る。痘痕もエクボ、てヤツだな。アイドルに憧れる感じに似ていて。今はいいけど、その内夢から醒めたように本当の俺に気付いたら……幻滅して失望するんだろうな……。
そうか、そんな話、本人たちの前で話したら照れてあたふたしそうだから、央雅の奴二人に下がるように言ったのか。
「ハハハ……精霊の力を借りただけで俺は何もしていないし。それに、30秒程度強くなるだけの事だし、何の役にも立ちやしないさ」
どうしても自嘲気味になってしまう。だけどホント、せっかくリアンに貴重な時間を割いて貰ったのに、申し訳無いよな。
「いいえ、決してそのような事は。リアン様にはたまに剣術の稽古をつけて頂くのですが、私はまだ一度も勝てた事はありません」
へぇ? 改めてリアン、すげーなぁ! 本当に何でもずば抜けているんだなぁ。……でも……
「というか、そもそも精霊たちの力を借りているだけで俺もの力じゃないしな」
「いいえ、惟光様だから使いこなせるのです」
「借りにそうだとしても、一分も持たないんじゃ意味がねーよ。せっかく貴重な時間を割いてくれたリアンに申し訳ない、ていうか……て、あ! ごめん! 俺、何愚痴ってんだか、最低だな、俺。ホント、ごめん!」
話している内に、央雅に自己嫌悪の感情を吐き出している事に気付いた。何やってんだよ、俺。だけど央雅は穏やかに笑みを浮かべた。こんな優しい表情も出来るんだ……思わず見惚れちまうほど、普段とのギャップが著しい。
「いいえ。私が一足早くこちらに来たのは、惟光様の本音を引き出して伝えて欲しい事がある、とリアン様に命じられた為です」
「そうなのか?」
「はい。恐らくはご自分を責めてらっしゃるだろうから、と」
そうか、お見通しか……益々、情けねー。
「そうか……」
「リアン様はこうおっしゃってました。自分が直接伝えては余計に気に病んでしまうだろうから、と。『それぞれに担当という役割というものが仕事にはある。今回の件は特例中の特例で、本来なら戦闘には関係のない惟光様を巻き込んでしまった。むしろ謝らないといけないのは戦闘を担当する自分たちの方だ。だからどうか気に病まないで欲しい』と。恐れながら私も同感です。およそ30秒過ぎた後どう対処すべきか? それは私たちと一緒に考えましょう」
……なんというか。その……そこまで気遣って貰って……やべ、涙が出そうだ。
「……うん、そうか。そうだな……有難う」
それしか言えなかった。そうか、だから央雅はレオとノアに下がるように伝えたのか。
「本当はですね。この事は私の発言であるかのように伝えろ、と命じられらのですよ」
央雅の意外な言葉にハッとして彼を見つめる。任務に忠実な彼には似つかわしく無い台詞だったからだ。
「本来なら、そうすべきなのでしょう。ですが、何だかリアン様のお気遣いを私が独り占めするような感じがして気が咎めたので。正直に申し上げました」
と照れたように笑った。笑うと少し幼く見える。そんな彼もまた意外だった。
「正直で誠実なお前らしい選択だな。気もちはよく理解出来る。分かったよ。今の話はお前の意見だ、て事にしておくよ。有難うな、本当に」
少しだけ、気もちが和らいだ気がした。そうだな、自分を責めても何の解決にもならん。それより、どうすべきかに気もちを注いだ方が建設的だもんな。
「さて、そろそろ殿下とリアン様がお見えになる頃ですね」
央雅は話を切り替えるようにしていつもの真顔に戻った。
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