その男、有能につき……

大和撫子

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第三十五話

「元の世界をちょいと拝見」~パクリ男の現在とソイツの可能性の高い未来・後編~

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「やっぱり、人にした事って自分に返ってくるもんなんでしょうか?」

 早速気になる事を聞いてみる。

「ええ、良い事でも悪い事でもね。ですが、そっくりそのままの形、または分かり易い形では返って来ない事の方が多いようです。特に、この彼のように盗作に対しての罪悪感がない場合は、その報いが返ってきても『何で自分がこんな目に……』と理不尽に感じるだけで終わったりね。善行でも悪行でも、期待されるような形で返ってくる事の方が少ないようです。一応は、した事と同じくらいのものが返って来る仕組みのようですが。ただ、悪い行いの度が過ぎれば過ぎるほど倍以上にものが返って来ると言われています。本人に影響がなかったりしても、その子供とか親兄弟、或いは可愛がっていたペットが肩代わりをする形で、本人にダメージを受ける場合もあったりね。良い事をした場合、例えば……そうですね、あなたのいた世界で言えば。その日は何故かスムーズに通勤出来た、とか。偶然綺麗な花をみて心が和んだとか。家族にラッキーな事が起こるとか。意外とちょっとした事だったりする事が多いです。でも、それでなんだかほっこり笑顔で長い間過ごせたりね」

「あぁ、何となく分かります。だから、見返りを求めて良い事をしても意味がないとか。お天道様は見ている、とか。昔からの言葉にありますね。でも、良い事ならともかく、悪い事をして周りが肩代わりするのは理不尽過ぎませんか?」

 ホント、これだよ。

「その場合、肩代わりした方の魂のランクが上がりますから。その方のその後の人生が楽に生きられたり。大きな幸運に恵まれたり。来世で幽世に転生なんて可能性もあるようですね。悪行の代償が、いつ返って来るかは不明ですが。その他にある代償の例としては、そうですね……虚しさに襲われて悲観的にしか考えられなくなったり、とか。好きだった趣味のものが楽しめなくなったりとか。或いは病気になったりして苦しむとかも有り得ますが、それらの事の全てが悪行の代償なのかどうかは我々人間では判別つきません。もしかしたらそうなる運命、または宿命だったのかもしれないし、たまたま偶然そうなっただけかもしれない。いずれにしても、人間が代償だなんだと判断すべき事では無いかもしれませんね」

 あぁ、そうだな。さっきチラッと思ったけど。俺の宿命が『ムササビの五能』で終わるとか。例えば王子とは別れる宿命とか。そんなの知らない方が希望を持って頑張れるもん。努力次第で変えられる運命とやらなら知ってもいいけどさ。でもほら、『予言の自己成就』てのもあるし。

「そうですね。知らない方が良い事もあると思います」
「私も同意見です。因みに、今のこの彼の苦悩が、今までして来た事への代償の一つのようです。彼にしてみたら、体調不良という事にして執筆を休む形を取り、何カ月も引きこもって相当悩んでいるようですね」
「なるほどねぇ。それが代償の形ですか。正直それだけ? と、何だか複雑な心境です」
「まぁ、後で説明しますが、まだ代償はありますから。さて、この彼の可能性の高い未来、見てみますか?」
「はい、お願いします!」

 まだ代償がある、そうだよ。他の人からもパクってるんだもんさ。

「では、これからこの彼は、まずは選択肢の一つめ。ここで心を入れ替え、筆を折る。二つめは、誰彼構わず色んな作家から設定やアイデアを盗み、寄せ集めの小説を無理矢理書いて続けようとする。三つめは、何とか自分でオリジナルを書こうともがく。余談ですがこの彼、あなたの作品を盗作する前も、何人もの著名な作家の設定やアイデアを少しずつ拝借していたようですよ。ですから二番目の選択肢は以前に戻った、という感じでしょうか」

「えー? 呆れた奴ですねぇ……」

「罪悪感がないから、ある意味怖いモノ知らずですね。だけど、公に盗作しているようには見せない分、心のどこかに後ろめたい部分はあるのでしょう。小狡い人ですね」

 思わず笑ってしまった。最早ギャグだな。リアンは再び右手を軽く上げ、人差し指で空を弾くような仕草をした。さて、三つの運命……さぁ、奴はどれを選択する可能性が高い?

 次の場面では、文字通り血眼になってパソコンに向き合っている奴がいた。これは……

「可能性の高い未来は、どうやら二つめの選択肢ですね」

 リアンは右人差し指で眼鏡のエッジを弾きながら言った。

「最初の形に戻る、て感じですか……」
「そうですね。やはり、過去に浴びた羨望と栄光の注目の的になった高揚・万能感は忘れられないようです」
「馬鹿だなぁ、本当に。ふと今思ったんですけど、コイツには自分で物語を創り出す力はなくても、編集の才能があると思うんです。小説に限らず、新人を発掘してヒットさせる力やプロデュース力もありそうだから、そっちに生かせば良いのに。勿体無い」

 俺はしみじみと言った。本当にそう思う。ある意味、才能の無駄遣いだぜ。パクリに命をかけるなんてさ。

「その通り。さすがです、人の本質を見抜く目は確かですね」
「いやいや、色々対人関係では苦労しましたから。場数を踏んだだけですよ」
「いえいえ、大した才能です」

 褒めて貰えるような事じゃないけど、嬉しい。素直に「有難うございます」と伝えた。

「話の時系列が少し前後しますが、彼が苦悩している間にも代償の形の一つとして、盗作された作家の何人かが声をあげ始め、かなり大きな問題となります。あなたの作品の事もどなたかが突き止め、明らかになるでしょう。インターネットの力ですね。悪運も尽きる、そういう事です。築いてきた名誉も栄光も地位も信頼もがた落ちです。その後三年の間引きこもって苦悩した結果、三つの選択肢の内の二つめを選ぶ可能性が高い、という経緯です」

 そうか、やっとパクリが明るみに出るのか。そうだよな、俺みたいに泣き寝入りする奴ばかりじゃないよな。あれ? でも……

「そしたら二つめの選択は拙いんじゃぁ……」

「ええ、当然致命傷となります。もう執筆活動自体出来なくなりますね。この後の人生は住所不定無職、不摂生で病気に……という可能性が高そうですねぇ」

「馬鹿だなぁ、本当に。編集とプロデュースの才能があるのに」

 これ、ある意味今流行りの『ざまぁ』系作品のテンプレになりそうな結果だろうけど。でも、勿体ないよなぁ。せっかく抜きんでた才能あるのにさぁ。一つの視点に拘り過ぎるから……

「本当に優しい方ですね。因みに、一番めを選択したら。そう遠くない未来に編集担当として転職出来る機会に恵まれそうです。三番めを選択すれば、三年ほど遠回りしますが同じようなチャンスが訪れそうです。まぁ、そのチャンスを活かすも殺すも彼次第ではありますがね。この彼の場合、分かり易い代償の形になるようですね。いずれにしても、因果応報ってやつです。個人的意見ですが、真面目に全うに生きるのが一番だと思いますよ。まぁ、悪行につけ善行につけ、なかなか分かり易い形で返って来ないですから、時として理不尽極まりないように思えてもね」

「そうですねぇ……」

 あー、自暴自棄になった時期もあったけどさ、何だかんだ、真面目に生きて来て良かった。心の底からそう思ったし、これからもそうしようと思ったよ。

「コイツがなるべくなら選択肢の一番、または三番めを選ぶ事を祈ります」

 しみじみと思いながら、レオナードが淹れてくれた紅茶を一口飲んだ。冷めていても、薫り高くて仄かに甘みがある。ホッと和むような味がした。
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