その男、有能につき……

大和撫子

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第三十五話

「元の世界をちょいと拝見」~パクリ男の現在とソイツの可能性の高い未来・中編~

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「……へぇ? 平安時代のネイリストの話かぁ。面白そうじゃん」
「うん、清少納言や一条天皇、藤原定子始めとした中関白家を絡めて。道長とその娘彰子も絡めて書こうかなーって。勿論、ヒロインとの恋愛もね」

 あぁーあ、包み隠ずベラベラしゃべって。俺って本当に馬鹿……。

「それ、もうしてる?」

 パクリ男め、狡そうな顔しやがって。何がしてる? だ。はしてるさ、たっぷりとな。

「いや、まだ。もう少し平安時代の事調べてからにするから、は半年くらい先かなー」

 時期はズレてるけどしたじゃん、予言したか? なんてな。あーぁ、何だかなーもう。

「俺、歴史系苦手だから書けないわ。頑張ってな」
『……こいつの作品、流行りのテンプレもの一切ねぇし、古臭いし、変なところ拘って書いててクソつまんねーんだよなぁ。でもアイデアは面白そうじゃん、まともにこいつの作品読んだ事なかったけど、早速漁ってみよう。ま、先ずは俺が、その平安時代のネイリストの話、歴史ファンタジーとして書いてやるよ』

「これが彼の本音ですね」

 とリアン。心の声は、台詞だけ響いてくる感じだ。

 悪かったな、古臭い上にクソつまんなくて。ていうか最初からパクる気満々やったんかーーーい! な-にが歴史系苦手だから書けない、だよ全く!

「なるほど。やっぱり確信犯だったんですねぇ」

 もう苦笑しか出ねー。場面はいきなり、パクリ男が何やらニヤニヤしながらパソコンに向き合っている姿となった。

『へぇ? 惟光の奴すげー詳しく調べてあるじゃん。神々に、天使と悪魔か、まーた古臭いネタだなぁ。でも、西洋系ファンタジーを書く時は下調べしなくて済むし使えるぞ! この俺、八雲祐理やくもゆうり様が有り難くベースに使ってやるよ』

 まさかコイツ、俺の他の作品からパクろうとしてるんか? 少しは自分で調べろっつーの! あ、八雲祐理はコイツのペンネームな。余談だが俺のペンネームは『陽月蓮矢ひづきれんや』だ。

 そりゃ、これだけ世に作品が溢れてりゃ偶然にネタが被るのはよくある事さ。ある作品を読んで閃いた、とかさ。だけどそれはパクリとは言わないし。ネタが被っても自分なりにアレンジして工夫するのが書き手の醍醐味じゃないか!

『こっちは日本神話がモチーフか。……へぇ? これもまたよく調べてあるなぁ。これも頂き決定! こりゃ調べなくて済むから楽ちんだ』

 くそっ! 味をしめやがったな? そりゃ、小説に書く為に資料や本沢山読むし。必要とあれば体験教室に行ってみたり、行ける範囲であれば取材の旅に出たりして金と手間暇がかかってるんだぞ! ……殆ど読まれないし、賞も何もない無冠王だけど。人のふんどしで相撲取って恥ずかしくないのか! しかも底辺からパクッて……いや、そもそもそんなプライドがあったら最初からパクろうなんて発想自体が無いわな……

「彼、ペンネーム八雲祐理……」

 お! リアンがスマホみたいのを左手に持って右手で何かを打ち込んでいるぞ!

「彼は例の書籍化でかなり人気が出て売れているようですねぇ……」
「ははは(乾いた笑いな)、そーですかぁ……」
 あー……これが俺なら爆死……それ以前に無冠王連覇更新、て感じだろうな。何だかなー。

「今現在のこの彼ですが……担当の編集がついて、二作目も売り上げ好調のようです。一作目の後、異例の早さで出版されたようですね。あなたの作品から沢山拝借した天使と悪魔のファンタジーです。聖書から魔術書までしっかりと調べて書かれていて重厚ながらも気軽に楽しめる内容、との触れ込みのようですね。三作目は日本神話がモチ-フの作品らしいです」

 さようでっか……そりや俺、新約聖書から旧約聖書、分厚い魔術書、民俗学も読んでしっかり調べたもん。調べる手間暇金一切かからないからそりゃーもう早いでしょう、ええええ、そうでしょうとも……

「大丈夫ですか?」
「あ、はい。大丈夫です。あの、その手にしているのって……」
「あぁ、これはあなたが居た世界でいうところの携帯電話に近いでしょうか。こちらでは『携帯用パソコン』と呼ばれています。まぁ、言葉の通りですね。因みに、今回の映像の件、近未来探索の件は事前にエターナル王家の名で『魂の歴史を司る役所』に許可を得て居います。この件は後日詳しく説明しますが」
「分かりました。有難うございます」


 『魂の歴史を司る役所』かぁ。色々あるんだなぁ、後日詳しく聞いてみよう。

 それにしても……奴は今後もこうしてパクリで成功し続けるんだろうか。何だかなー。原案・『陽月蓮矢』とか明記して欲しいわ。

 よし、覚悟決めるか! 大体において俺の場合、元々現実世界なんて理不尽で思い通りにいかない事が大半だったんだし。人を羨んでも俺がソイツになれる訳じゃねー……いや、コイツにはなりたくないな。逮捕とかされなくても、やっぱり人のものを盗んだらいけないと思う。そんな事して手に入れた栄光なんて、虚しいだけさ。

「この彼の可能性の高い近未来を見てみますか?」

 リアンは俺の心の中を見透かしたように言った。

「はい! お願いします!」

 するとリアンは、右手を軽くあげて人差し指で空を弾くようにした。すると、ボサボサ頭のパクリ男がパソコンを前に頭を抱えている姿に場面が切り変わった。腹がブクブクとメタボ体型になっている。

「この彼は、あなたが行方不明になったのを良い事に、四作めもあなたの作品から盗用・剽窃して小説を書いてますねぇ。デビュー後、物凄い勢いで本を出したので、現役大学生作家としても話題になったようです。アニメ化、コミカライズ化もされてますね」

 ……そうか、行方不明になったから文句を言われない、とふんで。どこまでも卑怯で汚い野郎だ。まぁ、コイツには作品をヒットさせる才能があるんだろうけどさ。
 それにしても、行方不明になった俺の事、家族はどう思ってるんだろう? いいや、これはもう少し後だ。

 リアンは説明を続けた。

「ですが五作めからはさすがにあなたの作品からではネタが尽きてどうしようかと考えた挙句、趣味で小説を書いている人の中で、更新が止まっていてかつ殆ど読まれていない作品を見つけ出し、その中で斬新だったり面白そうなものだったり、緻密に調べられていたりする部分を盗用して作品を書き続けたようです」

 絶句! 呆れ果てた野郎だ、ムカムカするぜ反吐が出そうだ!

「コイツ、少しは自分の頭でアイデアを生み出そうと考えないんですかね?」
「私にも理解出来ませんが、この人の中では悪い事だとは思っていないようです。お菓子をつまむような感覚ですね」
「そうですか……」

 そうか、そもそも常識の感覚が違うんだ……。

「しかしそれも、六作めを書き終えた時に、限界が来たようです。この場面の彼は、これからの作品をどうしようか悩んでいるところですね」

 だから、髪も髭も伸び放題で。よく見たら机の上にはビールや焼酎の缶が散乱してる。

「この時の彼には、三つの道が残されています」
「三つの道、ですか?」
「ええ、まさに運命の分かれと言うべきでしょうね。ただ、どの道を選択するにしても。人にした事はいずれ何らかの形で自らに返ってきますから」

 まさに運命の別れ道か。ゴクリと生唾を呑んだ。
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