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第二十三話
王太子殿下のお気に入り・中編
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……『救世主』という名を持つ第一王子は、どちちらかと言えばそう、堕とされても尚その美貌は損なわれなかったという元熾天使。背徳や放埓など、邪悪を司る闇の存在、魔王だ……。まさに『氷の美貌』と呼ぶに相応しい、見た途端背筋がゾクリとするほど端正な顔立ち。よく、アニメキャラの悪役で出て来そうなタイプだ。
次に目が覚めた時は、眠りに落ちる寸前に感じた事の続きを思った。なんだか全身が熱くて頭がひどくぼんやりする。呼吸の度、吐き出す息が熱くて、少し胸が痛い……。
……あぁ、銀色の髪に月光を湛えた瞳って、ミステリアスだなぁ。ラディウス様とは正反対の魅力だ。ラディウス様は太陽、クリスティアン様は月。勿論、学術的な意味合いではなくあくまでも視覚上の例えな? そう言えば、衣装、モスグリーンの直裾っぽいのに着替えられたんだな。血がついちゃったもんな。
ベッドの傍らに置かれたマホガニーっぽい棚。その上に置かれていた純白の陶器の桶に白い布をつけ、両手で絞っている。王太子殿下も、布を絞ったりするんだなぁ。人を人とも思わない冷血漢を想像してたけど、そんな事ない……て、え? あれ?
焦った。非常に焦った。だってその絞った布を丁寧に畳んで俺の額に乗せたんだ! やべっ! 夢じゃねーや! ぼんやり見惚れている場合じゃなかった!
「あ、あの、お、王太子殿下っ!」
「だーかーら、大人しく寝ておれと言ったであろう! 熱が高いのだぞ」
「で、ですがこ、このような……」
「聞こえなかったか?」
「……し、失礼しました」
起き上がって平伏して謝罪しようとしたけど、冷たい声と一睨みであえなく撃沈……。大物主要キャラと雑魚キャラの違いをまざまざと感じた。
だって見たところ近侍もいないみたいだし、この異世界全てを統べる一族の正当な王位継承者がさぁ、一介のモブな転移者の看病なんてあり得ないじゃんか。不敬罪に値するとかで俺、その内処刑されるんじゃないかなぁ。それともファンタジー(そうかな? まぁ、一部な)設定でそういう例もありなんか? いずれにしても畏れ多過ぎて……
「それとも何か? 私がそなたを看病してはいけない理由でもあるのか?」
王太子殿下はそう言って面白そうに俺を見つめる。揶揄われてるのかなぁ……。でも答えないと。
「それは……王太子殿下ともあろう御方が、私のような地位も能力も何もない転移者などを……」
「そう自分を貶める事もあるまい? 特にそなたの場合、無意識に溜め込んだ自虐の癖が病の原因らしいしな」
「え? あの……病って……」
「まぁ詳しくはリアンにでも聞くんだな。そなたの体調不良についての原因を必死で追究していたらしいからなぁ」
あぁ、そうか。リアン、ごめん……。俺、何かの病気だったのか。ん? ちょっと待て! でも、そしたら異世界に病原菌ばら撒いてるんじゃ……やべーじゃんそれ、疫病神じゃん俺。箸にも棒にも引っかからないモブのままの方が人畜無害でまだマシじゃん、どうしよう……
「私が説明してやっても良いが何ぶん、あちらの世界とこちらの世界の説明からでは面倒でな」
クスリと笑う王太子殿下。面倒…。ですよねー。てか、俺、ここに居たら駄目なんじゃね? つーか、この世界に居たらアカンてやつ?
「あ、あの! お、恐れながら!」
王太子殿下に移したら大変だ! 何よりラディウス様、そしてリアンにももし、移してたら……
「何だ? 慌てて。体に障ると言ったろ?」
あぁ、お優しいのですね……このままここに居たいけど………
「俺、いや、自分は、この世界に居たら良くないのではないでしょうか?」
王太子殿下のお力で、さっさと元の世界に送り返して貰おう。
「何だ? 藪から棒に」
不機嫌そうに美しい銀色の眉を顰める。……だよな、いきなり。でも、早いとこ消えないと。あぁ、でもラディウス様には最後に一目だけでも、お逢いしたかったな……
「唐突に申し訳ございません。もし自分が何かの病気であるなら、病原菌を巻き散らしてしまい、王太子殿下を始めこちらの世界の皆様にとって多大な被害とご迷惑を……」
「ふふふふ、ははははは……」
「……え? あの……」
堪えきれないと言うように吹き出す王太子殿下に、呆然とする俺。
「あーいやいや、すまんな。そなたがあまりに純粋でな。なるほどな、自分の事よりも周りを気にかけるのか」
純粋? そんな事ないですよ、全然……だって……
「先に言っておけば良かったな。安心しろ、転移者が元の世界で罹患していた病はこちらでは移る事はない。それが伝染病であったとしてもな」
あぁ、良かった……
「ただ、あちらの世界での病はこちらで完治させる根本治療は出来ぬ事になっているのだ。いつ、転移者が何かの弾みで元に戻ってしまうとも限らないからな。そうなると、こちらで根本治療をしてしまった事で歴史が狂ってしまう事も考えられる。歴史を歪める事はこちらの世界でも幽世でも禁止されているからな」
そうか、ファンタジーでもよく言われる事だ。歴史を歪めてはならない、てやつ。あの設定、本当だったんだな!!! でも、いつか何かの拍子にあっちに戻る事もあるのかぁ……嫌、かも。
「……良かったです。もし、移してしまっていたらと思ったら……」
安心したせいか、何だか一気に疲れた。ちょっと、息苦しいような……
「大丈夫か? もう息が上がってるぞ。何も心配する事はないのだ。根本治療が出来ぬ故に、本人の免疫力が高めるよう養生させるしかないのだからな。さて、面倒になって来た。これ以上の詳しい説明はリアンに求めよ」
そう言って、額の布を裏に返して乗せ直してくれた。ひんやりして気持ちいい。
「畏れ多い……有難うございます」
「礼を言う必要もない。全ては私の気まぐれなのだからな。私の噂は聞いておろう?」
王太子殿下はニヤリと悪戯な笑みを浮かべた。自分に正直な御方なのかな? はい、なんて素直に言ないからここは日本人特有の曖昧な笑顔で誤魔化しておこう。
「退屈な公務の間の気分転換のようなものだ。だからそなたが気を遣う必要もない。飽きたらさっさとラディウスに迎えに来させるさ。今のところ、そなたの事は気に入った。ラディウスの奴がお前を気に入った理由が一つ分かったような気がするぞ。先程も言ったが、あちらの世界の事も色々聞かせて欲しいし。私の話も聞かせてやろう。よって、そなたを私のお気に入りの一つに加える!」
一気に捲し立てる王太子殿下。ボーッとしている頭では、言葉の意味を追うのに手一杯だ。えーと、それってつまりどう解釈したら良いのかな?
「ま、飽きるまでの間、だがな」
と念を押すように言う。ははは、怖いなー
「……そなたはいつまで持つかな?」
と冷たい笑みを浮かべた。ゾクッと背筋に寒気を覚えた。
次に目が覚めた時は、眠りに落ちる寸前に感じた事の続きを思った。なんだか全身が熱くて頭がひどくぼんやりする。呼吸の度、吐き出す息が熱くて、少し胸が痛い……。
……あぁ、銀色の髪に月光を湛えた瞳って、ミステリアスだなぁ。ラディウス様とは正反対の魅力だ。ラディウス様は太陽、クリスティアン様は月。勿論、学術的な意味合いではなくあくまでも視覚上の例えな? そう言えば、衣装、モスグリーンの直裾っぽいのに着替えられたんだな。血がついちゃったもんな。
ベッドの傍らに置かれたマホガニーっぽい棚。その上に置かれていた純白の陶器の桶に白い布をつけ、両手で絞っている。王太子殿下も、布を絞ったりするんだなぁ。人を人とも思わない冷血漢を想像してたけど、そんな事ない……て、え? あれ?
焦った。非常に焦った。だってその絞った布を丁寧に畳んで俺の額に乗せたんだ! やべっ! 夢じゃねーや! ぼんやり見惚れている場合じゃなかった!
「あ、あの、お、王太子殿下っ!」
「だーかーら、大人しく寝ておれと言ったであろう! 熱が高いのだぞ」
「で、ですがこ、このような……」
「聞こえなかったか?」
「……し、失礼しました」
起き上がって平伏して謝罪しようとしたけど、冷たい声と一睨みであえなく撃沈……。大物主要キャラと雑魚キャラの違いをまざまざと感じた。
だって見たところ近侍もいないみたいだし、この異世界全てを統べる一族の正当な王位継承者がさぁ、一介のモブな転移者の看病なんてあり得ないじゃんか。不敬罪に値するとかで俺、その内処刑されるんじゃないかなぁ。それともファンタジー(そうかな? まぁ、一部な)設定でそういう例もありなんか? いずれにしても畏れ多過ぎて……
「それとも何か? 私がそなたを看病してはいけない理由でもあるのか?」
王太子殿下はそう言って面白そうに俺を見つめる。揶揄われてるのかなぁ……。でも答えないと。
「それは……王太子殿下ともあろう御方が、私のような地位も能力も何もない転移者などを……」
「そう自分を貶める事もあるまい? 特にそなたの場合、無意識に溜め込んだ自虐の癖が病の原因らしいしな」
「え? あの……病って……」
「まぁ詳しくはリアンにでも聞くんだな。そなたの体調不良についての原因を必死で追究していたらしいからなぁ」
あぁ、そうか。リアン、ごめん……。俺、何かの病気だったのか。ん? ちょっと待て! でも、そしたら異世界に病原菌ばら撒いてるんじゃ……やべーじゃんそれ、疫病神じゃん俺。箸にも棒にも引っかからないモブのままの方が人畜無害でまだマシじゃん、どうしよう……
「私が説明してやっても良いが何ぶん、あちらの世界とこちらの世界の説明からでは面倒でな」
クスリと笑う王太子殿下。面倒…。ですよねー。てか、俺、ここに居たら駄目なんじゃね? つーか、この世界に居たらアカンてやつ?
「あ、あの! お、恐れながら!」
王太子殿下に移したら大変だ! 何よりラディウス様、そしてリアンにももし、移してたら……
「何だ? 慌てて。体に障ると言ったろ?」
あぁ、お優しいのですね……このままここに居たいけど………
「俺、いや、自分は、この世界に居たら良くないのではないでしょうか?」
王太子殿下のお力で、さっさと元の世界に送り返して貰おう。
「何だ? 藪から棒に」
不機嫌そうに美しい銀色の眉を顰める。……だよな、いきなり。でも、早いとこ消えないと。あぁ、でもラディウス様には最後に一目だけでも、お逢いしたかったな……
「唐突に申し訳ございません。もし自分が何かの病気であるなら、病原菌を巻き散らしてしまい、王太子殿下を始めこちらの世界の皆様にとって多大な被害とご迷惑を……」
「ふふふふ、ははははは……」
「……え? あの……」
堪えきれないと言うように吹き出す王太子殿下に、呆然とする俺。
「あーいやいや、すまんな。そなたがあまりに純粋でな。なるほどな、自分の事よりも周りを気にかけるのか」
純粋? そんな事ないですよ、全然……だって……
「先に言っておけば良かったな。安心しろ、転移者が元の世界で罹患していた病はこちらでは移る事はない。それが伝染病であったとしてもな」
あぁ、良かった……
「ただ、あちらの世界での病はこちらで完治させる根本治療は出来ぬ事になっているのだ。いつ、転移者が何かの弾みで元に戻ってしまうとも限らないからな。そうなると、こちらで根本治療をしてしまった事で歴史が狂ってしまう事も考えられる。歴史を歪める事はこちらの世界でも幽世でも禁止されているからな」
そうか、ファンタジーでもよく言われる事だ。歴史を歪めてはならない、てやつ。あの設定、本当だったんだな!!! でも、いつか何かの拍子にあっちに戻る事もあるのかぁ……嫌、かも。
「……良かったです。もし、移してしまっていたらと思ったら……」
安心したせいか、何だか一気に疲れた。ちょっと、息苦しいような……
「大丈夫か? もう息が上がってるぞ。何も心配する事はないのだ。根本治療が出来ぬ故に、本人の免疫力が高めるよう養生させるしかないのだからな。さて、面倒になって来た。これ以上の詳しい説明はリアンに求めよ」
そう言って、額の布を裏に返して乗せ直してくれた。ひんやりして気持ちいい。
「畏れ多い……有難うございます」
「礼を言う必要もない。全ては私の気まぐれなのだからな。私の噂は聞いておろう?」
王太子殿下はニヤリと悪戯な笑みを浮かべた。自分に正直な御方なのかな? はい、なんて素直に言ないからここは日本人特有の曖昧な笑顔で誤魔化しておこう。
「退屈な公務の間の気分転換のようなものだ。だからそなたが気を遣う必要もない。飽きたらさっさとラディウスに迎えに来させるさ。今のところ、そなたの事は気に入った。ラディウスの奴がお前を気に入った理由が一つ分かったような気がするぞ。先程も言ったが、あちらの世界の事も色々聞かせて欲しいし。私の話も聞かせてやろう。よって、そなたを私のお気に入りの一つに加える!」
一気に捲し立てる王太子殿下。ボーッとしている頭では、言葉の意味を追うのに手一杯だ。えーと、それってつまりどう解釈したら良いのかな?
「ま、飽きるまでの間、だがな」
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と冷たい笑みを浮かべた。ゾクッと背筋に寒気を覚えた。
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