その男、有能につき……

大和撫子

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第二十三話

王太子殿下のお気に入り・後編

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 それは高熱のサインの時に感じる悪寒では無く、得体の知れない恐怖に感じるそれだ。やはり魔王ルシファーorルシフェル的なキャラなのは間違いなさそうだ。王太子殿下は更に続けた。

「私は元来飽きっぽいタイプのようでな。まぁ、元々の興味を持つ矛先は弟の奴への嫌がらせから始まっているから余計にな。クックックッ……お陰で我が国及び各国の民の就職先の斡旋役を兼ねているような感じになっている」

 あぁ、ラディウス様が言っていた王の華やかなりし交際相手たちやその子供たちの……

「まぁ、最近では明らかに私の好みとはかけ離れた者には興味を示さない事にしたのだがな」

 面白そうに俺を見つめる。嫌がらせって随分ハッキリ言い切るんだな……

「そなたの場合は、今までのあやつが気に入ったタイプと毛色が異なるようだったのでな」

 見たところ、ご機嫌は悪く無さそうだ。様子を見ながら、質問してみようか。長年の人間関係で培われて来た俺の勘がGoサインを出している。今なら少々突っ込んで聞いても大丈夫そうだ。

「……少し質問をさせて頂いても宜しいでしょうか?」
「いいだろう。気が向いた事なら、答えてやろう」

 あはは、やはり自分に正直な御方……なのかな?

「有難うございます。では、お言葉に甘えまして早速失礼致します。王太子殿下は、ラディウス様の御動向、よくご存じなのですね?」
「それは私に奴を監視しているのか? と言う意味か?」

 こわっ! さすがにいきなり過ぎたか? 熱で勘が鈍ったか? 氷の矢のように鋭い眼差しに狼狽えそうになる。だが、ここは目を反らして怯えては不敬に当たる上俺自身の品位が問われる場面だ。真っすぐに視線を受け止めた。落ち着け、動揺してはいけない。他意はないのだ、堂々としていろ!

「いいえ、そのような事はございません。ただ思ったままを質問させて頂いただけにございます。ですが、王太子殿下のお人柄に甘え過ぎてしまったようです、浅慮故にぶしつけ過ぎました。御不快な思いをさせてしまいましたら、申し訳ございません」

 クレーム処理係みたいだなぁ。でも、お蔭で視線が穏やかになったぞ!

「ふふふ、私の人柄か。そのような事を申したの、そなたが初めてであるぞ? 誰も彼もが私を怖がるものでな。まぁ、そう思われても一向に構わんがな。……まぁ良い、質問に答えてやろう。確かに、そなたからしたら疑問に感じる点だろうからな。一応、私の公務の一部でな。各国に一つ王国がある訳だが……我が国を始め全ての王国内の人事に関する事は報告が入るようになっているのだ。破ると王位剥奪という厳しい罰則がある故、律儀に報告が入るのだ。また、どこぞの国に転移者が現れたという情報は、王族以外でも報告が義務づけられていてな。発見者が一般人の場合は発見した地域の警護に当たる者に報告するようになっている。義務を怠ると国外追放という罰則があってな」

 へぇ? 王位剥奪やら国外追放やら、何だかラノベや漫画の『悪役令嬢』物のテンプレ―トみたいだよな。書いてみた事はないけどさ。

「ちなみに、報告が入るとここに映し出されるようになるので容姿や会話などはいつでもここで確認する事が可能でな」

 と王太子殿下は直裾っぽい衣装の左袖からキラッと光る丸っこいものを取り出した。そこに色々入れてあるのか。

「綺麗です。水晶でしょうか?」

 思わずそう呟いた。それは直径およそ15cmほどのクリアな水晶玉に見えた。グレードA5ランク以上の最高級品質と見た!

「そうだ。その辺に飾っておいても普通の水晶玉と変わらん。我が国の王位継承者しか映し出されるモノは見えないからな。更に言えば、王位継承者が見たいと望むことはここに全て映し出される。つまびらかにな」

 と意味あり気に微笑んだ。凄いな、やっぱりファンタジーだ! あれ? ふと、真顔になった?

「……私は弟の奴が憎くてな」

 と声を潜めてぽつりと言った。月光の双眸に、暗雲が立ち込める。

「それは、どうい……クッ、ゴホッゴホゴホッ……」

 くそ! 肝腎な時に……。咳が込み上げて来て両手で口元を抑え反射的に王太子殿下に背を向けて咳く。移らないと言ってもどうどうと咳く訳にはいかない。すぐに布団がまくられ、背中を軽く叩いてくださる。

「すまなかったな、少し長居し過ぎた。もう少し体調が安定してから色々話そう」
「……こ、こちら……こそっ、ゴホッゲホッこ……」
「無理にしゃべるな。気を遣う必要ないと言ったであろう? 私の気まぐれなんだからな」

 幸いな事に、咳はほどなくして治まった。咳き込んで目に溜まった涙を拭いながら、王太子殿下の方に向き直る。礼を述べようと口を開く瞬間、

「何も言わなくて良い。頭の上にあるベッドの棚に、タオルが置いてある。一人でいる時、万が一喀血しそうになったらそれを使え。その隣に解熱と咳を穏やかにする薬湯があるから、傍においてあるコップで飲め。コップ一杯で大分楽になる筈だ。それでもしんどい時は、棚の上にあるベルを鳴らせ」

 そう説明し席を立った。せめて一言お礼を述べようとしたが、何も言うなというように右手人差し指を唇にあてた。

「なるべく一人にはしない。私が来れない時は、代わりに近侍を一人よこそう」

 そう言って、部屋を後にした。有り難い待遇で恐縮だ。だけど、弟が憎いって……。何か根深い訳があるんだろうな。ラディウス様に、迷惑かかってないと良いのだけど……。

 あ、今気づいた。このベッド、いつも寝ているのと広さも同じくらいで天蓋つきだけど、こっちはインド風なんだ。そういえば、部屋の雰囲気もインドの宮殿っぽいな……。何だか少し疲れた。何の病気か分かんないけどさ、寝よう、早く治さないと。





 ゲホゲホゴホッ……ゴホッゴホッ……突如、激しい咳で眠りが妨げられた。どのくらい寝ていたのか? 胸が苦しくて痛い。そうだ! 薬湯! 這い付くばるようにしてベッドから状態を起こす。あ! 起座呼吸の方が少し楽だぞ! 薬湯を取ろうと棚……あれ? 無い?!

「早く死ねよ、図々しい」

 驚いて声のする方を見る。さっきまで王太子殿下が居た場所だ。銀色のポットを右脇に抱え、白のマグカップを左手に持った、小麦色の肌のエキゾチックな美少年(?)が座っていた。プラチナブロンドの髪を持ち、子猫を思わせる大きなピーコックグリーンの瞳に、激しい敵意を滲ませて。

 
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