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第二十話
第二王子の孤独
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「殿下、本日は午後夢夜界に御公務でございますね?」
蛍光ピンク頭は、ネイル施術の準備が整うと跪き、王子にそう確認を取る。
「あぁ、そうなっているね」
穏やかな微笑を浮かべてそう答える王子。あぁ、まさに花が笑う微笑……。花笑みだ。まるで蕾から花びらが開くような……。よく小説にそう表現して書いていたけれど、実は想像で書いていたんだ。だけど今ならリアルな表現が出来そうだ。
「では、本日のネイルのお色はタンザナイトのようなお色をベースに、星と月、そして夢夜界の街並みのシルエットを。左手の右手の人差し指にアクセントでダイヤモンドの小粒を数個あしらうのは如何でしょう?」
「……あぁ、とても素敵だ。お任せするよ」
「承知致しました」
王子は穏やかにそう言うと、ゆったりと椅子の背もたれに背中を預けた。フルートみたいな、時折微かにビブラートが入る癒しの声。素敵だ。だけどやっぱりどこか寂しそうだ。
王子と蛍光ピンク頭がネイルについての会話をしてる間、蛍光ブルー頭はせわしなく、されど上品さを損なわずに動き回り二人の会話を聞きつつ直ちにネイルアートに必要なアート道具などを取り揃えていく。一部の隙もない、本当に見事だ。
「では、始めさせて頂きます。どうぞごゆるりとお寛ぎ下さいませ」
蛍光ピンク頭はそう言って頭を下げた。
「あぁ、宜しく頼むよ」
王子はそう答えると、静かに目を閉じた。本当、睫毛エクステでもつけてるみたいに長くてびっしりと生えていて。それでいて穏やかな弧を描いてカールまでしている。俺なんか、睫毛長くて沢山生えてはいるけど、重すぎて重力に素直に従って真っすぐだけど少し下がり気味生えているってのに。弟の睫毛も王子と同じタイプだったな。さすがに、王子ほどの長さはなかったけど。
おっと、感傷に浸ってる場合じゃねーや。そんな事している内に、ネイルケアが終了、これはあっちの世界と変わらないな。そして次にネイルのアートに入るらしい。ジェルネイルかスカルプチュアか? と思ったけど、どうやらあっちの世界でのマニキュアかな? よく似た感じのものを片手ずつ丁寧に塗っていく。勝手な推測だけど、ジェルやスカルプだと頻繁にネイルアートをする場合爪を傷めるから、かなぁ。まぁ、あっちの世界とこちらとは材質が異なるだそうし、何ともいえないけどさ。
ブルー系、紫系のものを何色か重ね塗りする事で微妙な色合いを出せるらしい。すぐ渇く上に、マニキュア特有のツーンとした匂いもない。これは便利そうだ。
蛍光縦ロール頭兄弟の連携プレーは本当に見事だ。二人ともジェルかスカルプかそれとも自爪か知らないけど、指先より余裕で二センチは長い爪で。アートは上品にフレンチネイルだけど、よく施術の邪魔にならないよな、やっぱりプロだな。
だけど、王子の爪、元々綺麗な薔薇色だった。アートをして隠すのは勿体無い気がする。俺ならお手入れをして爪の形を整えて、最大に自然のままの美しさを活かしたいなぁ。それに、やっぱり王子、どこか寂しそうなんだ。気のせいかな……。
「お休み中失礼致します。殿下、仕上がりました。如何でしょうか?」
「あぁ、完璧だ。今日も有難う」
ほら、仕上がった爪、見ているようで見ていない……。どこか上の空だ。蛍光縦ロール頭兄弟は気づいてないみたいだけど。
「では、殿下。次はヘアメイクと衣装選びに入ります。恐れ入りますがこのまましばらくお待ち下さいませ。準備が整いましたら、お迎えにあがります」
蛍光ピンク頭は跪き、そう告げると蛍光ブルー頭と共にお辞儀をし、速やかにされど静かに部屋を出て行った。去り際、ジロリと俺に一瞥をくれていく事を忘れない蛍光縦ロール頭兄弟。何だかなー。相当嫌われてねーか? 俺。
だけど、ほんの少しの間、王子と二人きりだ! ラッキー。まずは『オーロラの涙』の礼をしよう! 王子の前に進み、蛍光縦ロール頭兄弟の真似をして跪いた。
「やっと二人きりになれたね」
嬉しそうに目を細める王子に、思わず頬が熱くなる。だって、さっきまで虚ろなロンドンブルートパーズみたいな瞳の色が、急に鮮やかなロイヤルに変化して満点の星空みたいに輝き出したから。
「殿下、お蔭様で体調は改善致しました。そして『オーロラの涙』、有難うございます。早速お力を頂いております」
すかさず礼を述べた。だって今を逃したらいつ言えるか分からないから。もっとタイミングが良い時、なんて狙っていたら結局チャンスを逃すんだ。元の世界で何度も経験済みさ。
「そう。喜んで貰えて良かった」
ホッとしたように言う王子。ほら、言えて良かった。だけど次の瞬間、王子の瞳は虚空を見上げ、寂しそうな灰紫色の瞳の色へと変貌を遂げた。どうしたんだろう? 王子、何だか酷く傷ついたような感じがする。
「ね、惟光」
「は、はい」
不意に呼ばれた名前に、ドキンと心臓が跳ね上がった。
「君だけは、僕の傍を離れないで欲しいな……」
そう言って、両手を広げると背中を預けていた背もたれから上体を起こし、そのまま俺の首に抱きついた。ふわっと薔薇の香りが鼻をかすめる。王子の髪が、俺の頬や鼻に触れる。まるで羽毛のように。
「で、殿下……?」
反射的に王子を受け止めながら、呆然とする俺……。いきなり、どうした?
蛍光ピンク頭は、ネイル施術の準備が整うと跪き、王子にそう確認を取る。
「あぁ、そうなっているね」
穏やかな微笑を浮かべてそう答える王子。あぁ、まさに花が笑う微笑……。花笑みだ。まるで蕾から花びらが開くような……。よく小説にそう表現して書いていたけれど、実は想像で書いていたんだ。だけど今ならリアルな表現が出来そうだ。
「では、本日のネイルのお色はタンザナイトのようなお色をベースに、星と月、そして夢夜界の街並みのシルエットを。左手の右手の人差し指にアクセントでダイヤモンドの小粒を数個あしらうのは如何でしょう?」
「……あぁ、とても素敵だ。お任せするよ」
「承知致しました」
王子は穏やかにそう言うと、ゆったりと椅子の背もたれに背中を預けた。フルートみたいな、時折微かにビブラートが入る癒しの声。素敵だ。だけどやっぱりどこか寂しそうだ。
王子と蛍光ピンク頭がネイルについての会話をしてる間、蛍光ブルー頭はせわしなく、されど上品さを損なわずに動き回り二人の会話を聞きつつ直ちにネイルアートに必要なアート道具などを取り揃えていく。一部の隙もない、本当に見事だ。
「では、始めさせて頂きます。どうぞごゆるりとお寛ぎ下さいませ」
蛍光ピンク頭はそう言って頭を下げた。
「あぁ、宜しく頼むよ」
王子はそう答えると、静かに目を閉じた。本当、睫毛エクステでもつけてるみたいに長くてびっしりと生えていて。それでいて穏やかな弧を描いてカールまでしている。俺なんか、睫毛長くて沢山生えてはいるけど、重すぎて重力に素直に従って真っすぐだけど少し下がり気味生えているってのに。弟の睫毛も王子と同じタイプだったな。さすがに、王子ほどの長さはなかったけど。
おっと、感傷に浸ってる場合じゃねーや。そんな事している内に、ネイルケアが終了、これはあっちの世界と変わらないな。そして次にネイルのアートに入るらしい。ジェルネイルかスカルプチュアか? と思ったけど、どうやらあっちの世界でのマニキュアかな? よく似た感じのものを片手ずつ丁寧に塗っていく。勝手な推測だけど、ジェルやスカルプだと頻繁にネイルアートをする場合爪を傷めるから、かなぁ。まぁ、あっちの世界とこちらとは材質が異なるだそうし、何ともいえないけどさ。
ブルー系、紫系のものを何色か重ね塗りする事で微妙な色合いを出せるらしい。すぐ渇く上に、マニキュア特有のツーンとした匂いもない。これは便利そうだ。
蛍光縦ロール頭兄弟の連携プレーは本当に見事だ。二人ともジェルかスカルプかそれとも自爪か知らないけど、指先より余裕で二センチは長い爪で。アートは上品にフレンチネイルだけど、よく施術の邪魔にならないよな、やっぱりプロだな。
だけど、王子の爪、元々綺麗な薔薇色だった。アートをして隠すのは勿体無い気がする。俺ならお手入れをして爪の形を整えて、最大に自然のままの美しさを活かしたいなぁ。それに、やっぱり王子、どこか寂しそうなんだ。気のせいかな……。
「お休み中失礼致します。殿下、仕上がりました。如何でしょうか?」
「あぁ、完璧だ。今日も有難う」
ほら、仕上がった爪、見ているようで見ていない……。どこか上の空だ。蛍光縦ロール頭兄弟は気づいてないみたいだけど。
「では、殿下。次はヘアメイクと衣装選びに入ります。恐れ入りますがこのまましばらくお待ち下さいませ。準備が整いましたら、お迎えにあがります」
蛍光ピンク頭は跪き、そう告げると蛍光ブルー頭と共にお辞儀をし、速やかにされど静かに部屋を出て行った。去り際、ジロリと俺に一瞥をくれていく事を忘れない蛍光縦ロール頭兄弟。何だかなー。相当嫌われてねーか? 俺。
だけど、ほんの少しの間、王子と二人きりだ! ラッキー。まずは『オーロラの涙』の礼をしよう! 王子の前に進み、蛍光縦ロール頭兄弟の真似をして跪いた。
「やっと二人きりになれたね」
嬉しそうに目を細める王子に、思わず頬が熱くなる。だって、さっきまで虚ろなロンドンブルートパーズみたいな瞳の色が、急に鮮やかなロイヤルに変化して満点の星空みたいに輝き出したから。
「殿下、お蔭様で体調は改善致しました。そして『オーロラの涙』、有難うございます。早速お力を頂いております」
すかさず礼を述べた。だって今を逃したらいつ言えるか分からないから。もっとタイミングが良い時、なんて狙っていたら結局チャンスを逃すんだ。元の世界で何度も経験済みさ。
「そう。喜んで貰えて良かった」
ホッとしたように言う王子。ほら、言えて良かった。だけど次の瞬間、王子の瞳は虚空を見上げ、寂しそうな灰紫色の瞳の色へと変貌を遂げた。どうしたんだろう? 王子、何だか酷く傷ついたような感じがする。
「ね、惟光」
「は、はい」
不意に呼ばれた名前に、ドキンと心臓が跳ね上がった。
「君だけは、僕の傍を離れないで欲しいな……」
そう言って、両手を広げると背中を預けていた背もたれから上体を起こし、そのまま俺の首に抱きついた。ふわっと薔薇の香りが鼻をかすめる。王子の髪が、俺の頬や鼻に触れる。まるで羽毛のように。
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