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第二十一話
憂いの影
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「……ごめん、少しだけ。ほんの少しだけこのままいさせて……あの二人が入れないように、聞こえないように魔術をかけたから……」
小刻みに震える声。微かに震える肩。そのどれをとっても、王子が泣いてるように思えた。そして無力で小さな子供のように感じた。
「殿下……」
それしかかける言葉が見つからない。何だか酷く傷ついたように見える。気の利いた言葉が全く思い浮かばない。やっぱりここでも『ムササビの五能』は健在か。こんな時、もしラノベや漫画の異世界転移チートものだったら、何か特別な力に目覚めてヒーリング能力が授かるとか。じつは最強勇者の力を秘めていて、王子を傷つけた原因をやっつけて取り除くとか。または弟ほど全てにおいて優秀だったら、最適な言葉を選んで楽にしてやれたり解決に導いたり出来るだろうけれど……。
残念ながらそんな都合の良い展開にはならなかった。だけどそれで良いと思った。王子の悲しんでいる事情を知らない上に立ち場もある。仮に事情を知ったにしても、残念ながら俺では何もしてやる事は出来ない。せいぜい、とことん話を聞くぐらいしか出来ないだろう。故に今はただ、抱きしめそして全ての感情をただひたすら受け止めてやるだけで良い。そう思った。
ホントはさ、もし俺が何かで酷く傷ついた時、そうしてくれる人が傍にいてくれたら……そう思う事が何度もあったんだ。
どんなに頑張っても、弟の引き立て役にしかなれないという現実を思い知った時。誰も彼もが、俺よりも弟を気に入るという事実を受け入れざるを得なくなった時。弟と俺が同時にインフルエンザにかかった時、父も母も弟しか気にかけず放置された俺は肺炎で死にかけた時もあったっけ。それでも母さんも父さんも、さほど気にかけてくれなかったよなぁ。そんな時、ただ抱き締めて虚しさや口惜しさ、悲しさをただ受け止めてくれる存在があったら……。それだけでまた、前を向いて進めるのに、て。厳しい現実を思い知って傷つく度に思ったなぁ。
もし王子が解決策が欲しいのであれば、リアンを選んだろう。敢えて俺なんかにそうしたって事は、解決策を求めている訳ではないと見た。だって、王子は俺の空気を読む力と順応力を認めて褒めてくれた唯一の方だもの。それに、人ってさ。表向きは容姿とか性格とか能力とか色んな鎧で自分を武装したり、その場に応じて仮面を被ったりして演じて生きるものだけど、そういうのを全部とっぱらって魂だけを見たなら、人間てそう大差ないんじゃないかと思うんだよな。まぁ、ここは異世界だけどもさ。
だから、ただひたすら王子の涙を受け止め抱きしめ続けた。
ちょっぴり悔しいな、王子って細身に見えるけど意外と逞しいんだ。俺が痩せたせいか、余計にそう感じる。もっと鍛えないと王子を守る事は疎か自分の身すら守れないや……とも思うけど、守って貰うのもいいかな、なんて思ったりもして。そんな事も思いつつ、ちょっとおこがましいかなとも思ったけど。右手で軽く王子の背中をさすってみた。だって、辛くて悲しい時、そうして欲しかったんだ。
……まぁ、俺自身の涙を受け止める相手は、ここだけの話……もっぱら『My枕』だったんだけどね。
……あぁ、良かった。少しずつ王子の感情が落ち着きを取り戻してきた。それに伴い、背中をさする腕もゆっくりにしていく。王子の呼吸に合わせるように。更に気分があらかた落ち着いた時、自由に俺の腕から離れられるように腕の力を緩めた。
やがて王子は、ゆっくりと俺の腕から離れ、心持ちはにかんだように微笑んだ。あぁ……そんな表情も素敵だ。自然に口元が綻んでしまう。
「ごめんね、有難う」
「いいえ、とんでもないです」
「実はね…」」
「はい」
あ、また寂しそうな表情。『瞳に、憂いの影が差す』この表現が一番しっくりくる。煙るような色合いになるんだ。今さっきまで澄んだロイヤルブルーだった瞳が、煙るような青色になったんだ。さぁ、王子のお話を傾聴しよう。
「……兄はね、僕が気に入ったもの全て欲しがって取り上げようとする傾向にあるんだ。……昔から、そうなんだ」
え? それって……
「殿下がお気に召したもの全て、ですか?」
「うん。子供の頃は食べ物から、気に入った縫いぐるみとか。そして衣装とか。全部取り上げないと気が済まないみたいで。だけど成長していくにつれて、食べ物や衣装などは僕とは好みが異なるのが分かったみたいでやらなくなったけど、今度は僕が気に入った友達とか、近侍たちとかを取り上げるようになって……。一族には、正当な王位継承しである王太子の命令は絶対! というしきたりがあるから。Noとは言えなくてね。だから、本当に気に入った近侍は傍に置くのを辞める事にしてたんだ」
え? じゃぁ、俺の事も……。なんだ、やっぱり『神様、やっぱり俺の事お嫌いなんですね』……。正直、ここに転移する直前に起こった出来事よりもショックを受けた。俺ってやっぱりどこに行っても、どうでもいい存在なんだな……
「だから、ナサニエルとジェレミアを兄専属の美容系担当にする、て指令が来て。やっぱり、て思った。でも、君の事だけは絶対に失いたくないって、強く思ったんだ」
え? え? 今、なんて? 色々突っ込んで聞きたい事はあったけど、今のその一言でそんなの吹っ飛んじゃったよ!?
小刻みに震える声。微かに震える肩。そのどれをとっても、王子が泣いてるように思えた。そして無力で小さな子供のように感じた。
「殿下……」
それしかかける言葉が見つからない。何だか酷く傷ついたように見える。気の利いた言葉が全く思い浮かばない。やっぱりここでも『ムササビの五能』は健在か。こんな時、もしラノベや漫画の異世界転移チートものだったら、何か特別な力に目覚めてヒーリング能力が授かるとか。じつは最強勇者の力を秘めていて、王子を傷つけた原因をやっつけて取り除くとか。または弟ほど全てにおいて優秀だったら、最適な言葉を選んで楽にしてやれたり解決に導いたり出来るだろうけれど……。
残念ながらそんな都合の良い展開にはならなかった。だけどそれで良いと思った。王子の悲しんでいる事情を知らない上に立ち場もある。仮に事情を知ったにしても、残念ながら俺では何もしてやる事は出来ない。せいぜい、とことん話を聞くぐらいしか出来ないだろう。故に今はただ、抱きしめそして全ての感情をただひたすら受け止めてやるだけで良い。そう思った。
ホントはさ、もし俺が何かで酷く傷ついた時、そうしてくれる人が傍にいてくれたら……そう思う事が何度もあったんだ。
どんなに頑張っても、弟の引き立て役にしかなれないという現実を思い知った時。誰も彼もが、俺よりも弟を気に入るという事実を受け入れざるを得なくなった時。弟と俺が同時にインフルエンザにかかった時、父も母も弟しか気にかけず放置された俺は肺炎で死にかけた時もあったっけ。それでも母さんも父さんも、さほど気にかけてくれなかったよなぁ。そんな時、ただ抱き締めて虚しさや口惜しさ、悲しさをただ受け止めてくれる存在があったら……。それだけでまた、前を向いて進めるのに、て。厳しい現実を思い知って傷つく度に思ったなぁ。
もし王子が解決策が欲しいのであれば、リアンを選んだろう。敢えて俺なんかにそうしたって事は、解決策を求めている訳ではないと見た。だって、王子は俺の空気を読む力と順応力を認めて褒めてくれた唯一の方だもの。それに、人ってさ。表向きは容姿とか性格とか能力とか色んな鎧で自分を武装したり、その場に応じて仮面を被ったりして演じて生きるものだけど、そういうのを全部とっぱらって魂だけを見たなら、人間てそう大差ないんじゃないかと思うんだよな。まぁ、ここは異世界だけどもさ。
だから、ただひたすら王子の涙を受け止め抱きしめ続けた。
ちょっぴり悔しいな、王子って細身に見えるけど意外と逞しいんだ。俺が痩せたせいか、余計にそう感じる。もっと鍛えないと王子を守る事は疎か自分の身すら守れないや……とも思うけど、守って貰うのもいいかな、なんて思ったりもして。そんな事も思いつつ、ちょっとおこがましいかなとも思ったけど。右手で軽く王子の背中をさすってみた。だって、辛くて悲しい時、そうして欲しかったんだ。
……まぁ、俺自身の涙を受け止める相手は、ここだけの話……もっぱら『My枕』だったんだけどね。
……あぁ、良かった。少しずつ王子の感情が落ち着きを取り戻してきた。それに伴い、背中をさする腕もゆっくりにしていく。王子の呼吸に合わせるように。更に気分があらかた落ち着いた時、自由に俺の腕から離れられるように腕の力を緩めた。
やがて王子は、ゆっくりと俺の腕から離れ、心持ちはにかんだように微笑んだ。あぁ……そんな表情も素敵だ。自然に口元が綻んでしまう。
「ごめんね、有難う」
「いいえ、とんでもないです」
「実はね…」」
「はい」
あ、また寂しそうな表情。『瞳に、憂いの影が差す』この表現が一番しっくりくる。煙るような色合いになるんだ。今さっきまで澄んだロイヤルブルーだった瞳が、煙るような青色になったんだ。さぁ、王子のお話を傾聴しよう。
「……兄はね、僕が気に入ったもの全て欲しがって取り上げようとする傾向にあるんだ。……昔から、そうなんだ」
え? それって……
「殿下がお気に召したもの全て、ですか?」
「うん。子供の頃は食べ物から、気に入った縫いぐるみとか。そして衣装とか。全部取り上げないと気が済まないみたいで。だけど成長していくにつれて、食べ物や衣装などは僕とは好みが異なるのが分かったみたいでやらなくなったけど、今度は僕が気に入った友達とか、近侍たちとかを取り上げるようになって……。一族には、正当な王位継承しである王太子の命令は絶対! というしきたりがあるから。Noとは言えなくてね。だから、本当に気に入った近侍は傍に置くのを辞める事にしてたんだ」
え? じゃぁ、俺の事も……。なんだ、やっぱり『神様、やっぱり俺の事お嫌いなんですね』……。正直、ここに転移する直前に起こった出来事よりもショックを受けた。俺ってやっぱりどこに行っても、どうでもいい存在なんだな……
「だから、ナサニエルとジェレミアを兄専属の美容系担当にする、て指令が来て。やっぱり、て思った。でも、君の事だけは絶対に失いたくないって、強く思ったんだ」
え? え? 今、なんて? 色々突っ込んで聞きたい事はあったけど、今のその一言でそんなの吹っ飛んじゃったよ!?
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