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第二話
ミカエルとルシフェル
しおりを挟むミカエルはゼウスとルシフェルの元を離れた後、稽古場に来ていた。
この稽古場は、天使達のみが自由に出入り出来る場所となっている。ある意味、天界では唯一の神々禁制の場となっている。
時は一人稽古、偶然他の天使と一緒になった時は共に、自由に体術や剣術を始めとした武器、そして魔術などを鍛え高めあっていた。
その内容は非常に多岐に渡り、例えばチャクラを高め、オーラで攻撃と防御。または剣の技術を。あるいはペガサスの乗りこなし方。更に弓の稽古、魔術や錬金術、ヒーリング等、実に様々な設備が整っている。
ミカエルは誰も居ない中、一人で剣の稽古をしていた。だが、先ほどのゼウスとルシフェルの様子が気になって集中出来ない。そこで集中力を高める為、弓の稽古をしようと思いたった。的に集中し、矢を放つ。矢は真ん中より僅かに右にズレた。今一つ集中し切れない自分に悔しさを感じつつ、今一度矢を放とうと背中の矢に手を伸ばした。
不意に何者かの気配を感じ、振り返る。
「随分と気が乱れておるのぅ、ミカエルよ」
「ルシフェル!」
弓矢を下に置き、咄嗟に身構えた。ルシフェルはやれやれ、というように肩をすくめながら
「そう警戒する事もあるまい。私は別にそなたと戦うつもりはない」
と答えた。ミカエルは尚も身構え、腰の剣に手を当てながら
「ルシフェル!貴様何を考えている?」
と剣を抜き、ルシフェルの首筋に剣の切っ先を構えた。面白そうに笑みを浮かべながら、微動だにしないルシフェル。ミカエルは更に苛立ちを募らせる。
「もし私が何かを企んでいる、と言ったら?」
挑発をするようにルシフェルは笑みを浮かべる。
「答えよ! ルシフェル!」
ミカエルは叫び、剣を振りかざす。その攻撃を剣の持ち手で難なくかわしたルシフェルは、
「相変わらず短気だな。隙だらけだ」
と、瞬時にミカエルの背後に立った。慌てて振り向こうとする彼に、
「無駄だ!」
彼の背中に剣を構える。
「案ずるな。少なくともそなたが思っているような事ではない」
と続けた。悔しさを滲ませるミカエル。
「ミカエル、そなた、戦いたくて仕方がないのであろう?」
ルシフェルは冷たく問いかける。その言葉にカッとなったミカエルは、深紅の炎のオーラを体の内側から放ち、己の全身にまとった。そして振り向きざま、ルシフェルに切りかかる。だが、ルシフェルが瞬時にまとった白い防御のオーラに、その剣はなんなく弾かれてしまう。
「無駄だと言っておろう? 今のそなたでは私には勝てぬ」
認めざるを得ない現実に、ミカエルは唇を噛みしめた。しばらく沈黙が二体を包み込む。やがてルシフェルは重々しく口を開いた。
「おかしいとは思わぬか? 天界は平和で争い事は皆無な筈なのに、何故このような稽古場があるのだ?」
「そ、それは人間界に争いが絶えぬから……」
と言いかけたミカエルに
「不可侵条約があるのにか?」
とすかさず遮るルシフェル。言われてみれば最もな事であるのだが、暗黙の了解で誰もその事を声に出して言ったりはしない。ミカエルの脳裏に、幼い頃繰り返し覚えた不可侵条約がかすめる。
不可侵条約とは、天使をはじめとした天界の者は、人間の「自由意思」を最大に尊重し、極力介入しない事。もし万が一介入が必要な場合は、次のような場合である。
一、その人間が予め設定された寿命より早くこちらの世界に来てしまいそうな時。
二、人間各自が設定してきた課題を、クリアするのを避け過ぎて、本人だけでなく他の人間にも影響が出てしまう時。
あとはただ見守る事。ゼウスが定めた規則である。
更に言葉に詰まるミカエルに、ルシフェルは追い打ちをかける。
「ミカエル! そなたは自身が正義でありたいが為に悪の存在を欲しているのだ!」
驚愕するも即座に
「違う!」
と強く否定するミカエル。
「では、何故光がある? 何故天界がある? 何故、正義と呼べるものが存在する?」
ルシフェルは尚もたたみかける。必死で否定の言葉を探すミカエル。
「ミカエル! 真実から目を背けるな!」
珍しく激しい感情を露わにしたルシフェルの瞳は、何故か悲しみに溢れている。それは紫の泉を思わせ、揺らめいていた。両者はそのまま沈黙を続けた。
どれくらい時間が経過したであろう?
「盗み聞きとは良い趣味だな。そこにいるのは解っているぞ、ガブリエル(神の人)」
と、ルシフェルは背後に潜んでいる何者かに向かって声をかけた。
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