Staring at the light and darkness ~光と闇を見つめて~

大和撫子

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第一話

苦悩するゼウス

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「ゼウス様、こちらにいらしたのですね」

 不意に、やや高めの凛とした声が響き渡る。ゼウスは振り向いた。

「ミカエル(神に似たもの)か?」

 ミカエルと呼ばれた青年は、金色の長い睫毛に縁どられた、ロイヤルブルーの澄み切った瞳を、真っ直ぐゼウスに向けた。その高貴な深い青は、さながら最高ランクのサファイアのようだ。金色に波打つ豊かな髪は肩の下まで伸ばされ、まるで太陽の輝きを思わせる。大理石のようにきめ細やかな美しい肌。端正な顔立ち。そして白く輝く大きな翼そのを背に持っていた。

 炎を思わせる緋色に輝く甲冑に身を包み、同色のローブを纏っている。腰に差されている純白の剣にはルーン文字が刻まれ、気高く咲く白い百合を連想させる。

 ミカエルが何かを言い出す前に、ゼウスはこう問いかけた。

「ミカエルよ、ワシは間違っていたのか?」

 ミカエルは、先ほどまでゼウスが見下ろしていたものを見つめながら応じる。

「ゼウス様、今日も地球を御覧になっていたのですね」

 彼はそれには直接答えず、更に

「人間たちは、幸せではないのか?」

 とミカエルに続けた。ミカエルは焦る。そして

「ゼウス様、何をおっしゃるのです! あなたはこの宇宙を創られた創造主! 全知全能の神なのです!あなたの迷いは、この宇宙をも迷わせる! 滅多な事をおっしゃるものではありません!!!」

 と叫ぶようにして答えた。ゼウスは、悲しげな眼差しをミカエルに向ける。

「では、何故人間界は争いが絶えぬ?」

 と静かに問いかけた。ミカエルは、一瞬言葉につまる。

「天界は今日も平和です! 私は、この剣を未だ使った事はありません!」

 と叫んだ。

「フッフッフッフッ……笑止な!」

 突如として、嘲り笑う声が響く。それはミカエルより少し低めの、それでいて不思議とよく通る声だ。コントラバスのようだと表現出来ようか。

「ルシフェル(明けの明星・光をもたらすもの)か?」

 ゼウスとミカエルはほぼ同時に、声のするほうを見やるとその者の名を呼んだ。

 ルシフェルと呼ばれた青年は、ミカエルよりやや高めの身長。宇宙を思わせるインディゴブルーの甲冑に身を包み、同じ色のローブを纏っている。腰にはミカエルと同じようにルーン文字が刻まれたパール色に輝く剣を差していた。プラチナ色に輝く艶髪は見事なほどのストレートだ。足首まで流れている。そして純銀色に輝く翼を背に持っていた。

 まるで蝋細工のように青白く透き通るような美しい肌。見たものが、思わずゾクリとするような美貌の持ち主である。そして、プラチナ色の長いまつげを上げ、伏せていた瞳を二人に向けた。その瞳は深い紫。それは神秘的な輝きを放つタンザナイトを思わせた。その美貌を例えて一言で言うなら、「氷の美貌」と言うべきか。

 ミカエルの炎のような情熱的な美とは、明らかに対極の位置にある。

「ミカエルよ、相変わらずだな。臭い物には蓋をして見ないようにせよ、という事か。それでは何の解決にもなるまい」

 ルシフェルは、可笑しくてたまらない、というような面持ちでミカエルを見やる。だが、その表情とは裏腹に、その瞳は冷たく冴えた光を放っていた。

「貴様! 何が言いたい?」

 ミカエルは思わずカッとなり腰の剣に手を伸ばす。しかしゼウスは、それを手で制しながら、

「ミカエル、下がれ」

 と穏やかに命じた。

「し、しかし……」

 ミカエルは、かねてよりルシフェルとゼウスを二人きりにするのは危険な気がしていたのだった。それには根拠はなかったが、本能か警告している、そんな感じだった。

「いいから、下がれ」

 静かに、だが有無を言わさないゼウスの態度に、引き下がらざるを得ない。

「御意」

 ゼウスに一礼し、渋々この場を後にしようと白く輝く翼を広げた。去り際に、

「ルシフェル! ゼウス様には指一本たりとも触れるでないぞ!」

 と、鋭い視線とともに言い放ち飛び立って行った。




「やれやれ、随分と信用をなくしたものですな……」

 肩をすくめ、苦笑しながらミカエルを見送るルシフェル。そして振り返り、ゼウスに跪いた。

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