王子の僕が女体化して英雄の嫁にならないと国が滅ぶ!?

蒼宮ここの

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第15話 オトメの絆

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ユーステンは城の地下に投獄された。死罪にまではしないでほしいと頼んでおいたが、あの父上のことだ、どうなるだろう。襲われている時は僕も取り乱したが、殺したいほど憎いわけじゃない。
結局助かったのだし‪……‬
それに、あの後はジャオにたっぷり、キス‪……‬してもらったし‪……‬‪……‬。

「ベル?」

ハッ。いけない。本人がまだ隣にいるのについ浸ってしまった。

城の者にユーステンを引き渡した僕らは、共にジャオの家へと向かっていた。ジャオと離れがたくて僕がお願いしたのだ。
こういう思考はほんとうに良くない、自制したほうがいいと、わかっているのだけれど‪……‬がっちりと指を絡めて繋がれた手を見下ろしてつい、ニヤけてしまう。なんかもう‪……‬末期だ。

「さっきのこと、母さんに話してもいいのか?」
「うん‪……‬今は僕がオトメなんだし、同じオトメとして相談しておきたいっていうか」

そう、今やこの国で僕と同じ境遇といえるのはオトメであるジャオの母親・ミヤビさんだけだ。まあ王子である僕は当然この国に慣れ親しんでいる、単身異国に飛ばされた境遇の彼女と一緒にしたら失礼かもしれないが‪……‬それでも、彼女は聞いてくれるはずだと信じていた。
こういう時、普通の女子なら実の母親に泣きつくものなのだろうか。僕の母親は‪……‬僕より先に折れてしまいそうだ。とてもじゃないが、頼れない。

「ただいま」
「あの、おじゃましますっ」

奥にいる彼女に聞こえるように大声で言うと、やはりというか先に大勢の妹たちが玄関になだれ込んできた。そしてにわかに黄色い声が上がる。
しまった、手‪……‬。
気づいた時にはもう遅い。妹たちに冷やかされてもジャオは無視を徹底している。さすがだ。僕もこんなふうに鈍感になれたらどんなに楽だろう‪……‬。

「ベル様、いらっしゃい‪……‬あら、あらあらまあまあ」

ジャオの母親が出てきた。かたく繋がれた僕らの手を見ると、そういうことかと言わんばかりに口元を両手で覆って喜びを噛み締めているようだ。いや全然そう言うことじゃないんですけど。今はその、危機的状況に遭った後で少し心細いというか‪……‬それに強引に繋いできたのはジャオだし、僕はあくまでその好意を受け取っているだけで‪……‬なんて、まわりくどい説明をするのはもう諦めた。

「ジャオ、手、もういいからっ」
「‪……‬ああ」

ジャオはさも「手を繋ぎっぱなしだったことに今気付いた」的な涼しげな顔で僕を解放する。いつも通り奥の部屋に通されて、僕とジャオは横並び、ミヤビさんと対面する形でソファに腰掛ける。

「今日はどうしたの?」
「実は、僕、今しがた学校の先生に‪……‬」

話しながら、やはり他人にこんな話をするべきではなかっただろうかとよぎる。でももう話し始めてしまったのだから仕方ない。僕はひと息に、簡潔に、なるべく感情を入れずに事実だけを述べた。それでも僕の受けた屈辱に共感したのだろう、彼女は涙目になって細かく震えている。

「そんな、ベル様‪……‬無事でよかった‪……‬」
「また、ジャオに助けられました」
「ジャオ、本当によくやったわ。あなたは私の誇りよ」

「‪‪……‬声が、聴こえたんだ」

母親に褒められたジャオは照れ臭そうに、ポツリ、ポツリと話し始める。

「『ベルが危ない!理科室に行って!』と‪……‬少女の、声だった‪……‬ベルは先に帰ったかと思い校門を出ていたが、すぐに校舎内に引き返した」
「声‪……‬?」

少女の声。僕にはすぐに声の主が思い浮かんだ。トルテだ。
だけど一つ不思議なことがある。僕はトルテの声を聞いたことがない。産まれた時からずっと一緒で、毎日たくさんの時間を過ごしているのに。トルテはいつも微笑んで僕の話を聞いてくれるだけで、自分からは話すことをしなかったから‪……‬こちらの言語はわかっても、話すことはできないのだと思い込んでいた。

「天啓‪……‬だろうか。ベルには守り神がついているのかもしれないな」
「姿なき少女の声なら私も聞いたことがあるわ。あなたが産まれた時よ」

それまで黙って話を聞いていたミヤビさんが、やおら興奮して身を乗り出す。

「あなたが産まれるまで、十五人の女の子を出産したわ。私は嬉しかったけれど‪……‬英雄一族の嫁として、男子を産まなければ意味がないと周囲に叱られ続けていて‪……‬そんな折、ようやくあなたが来てくれた。産まれた瞬間にね、その声が「待たせてごめんね、おめでとう」って言ってくれたの!」
「待たせて、ごめんね‪……‬?」
「と、いうのも‪ね……‬はじめて子どもを出産した時から、その声は毎回聞こえてきていたの。子どもが女の子だと知り、落胆している私に‪‬「ごめんね」って‪……‬まるで耳元に囁かれているかのように、近くて、やさしくて‪……‬それだけで、どれだけ私の心が癒されたか。ジャオが産まれて以降、声は聞こえなくなってしまったんだけど」
「精霊‪……‬‪……‬」

ジャオがポツリとつぶやく。

「精霊だ。この国を守る精霊が、すべての生命の誕生に寄り添い祝福すると、本で読んだことがある」
「あら‪、精霊さんだったのね!」
「普段は森の奥深くに眠っているらしいが‪……‬俺のことも祝福してくれていたのか」
「あなたの時は特別だったわ。小さな光の玉が、一瞬だけどあなたの頭に舞い降りたの」

トルテ‪……‬‪……‬?

いや‪……‬‪……‬。

今日僕を助けてくれたのは十中八九トルテだろう。僕とユーステンの間に割り込む光の玉を見た。でもジャオの誕生を祝福、なんて‪……‬。
トルテは僕が産まれた時から僕の傍に居る。つまり僕が産まれるより前からこの国に棲んでいたことになる。ジャオは僕よりも少し誕生日が遅いから、誕生時にはトルテは確実に存在していた――――いやでも、十五人の姉の祝福は‪……‬?
オトメは一年に最大四人の出産ができるから、最短で見積もっても四年だ。四年‪……‬トルテは僕がこんなに大きくなってもまったく見た目が変わっていない。もしかしたら‪……‬もしかするのか‪……‬?

「それなら、どうして僕とは話してくれないんだろう‪……‬」
「どうしたの?」

ミヤビさんが立ち上がる。落ち込んだ僕を見て寄り添い、背中を撫でてくれる。
温かい‪……‬。

「話を逸らしてごめんなさいね。大変な目に遭ったのよね」
「あ、それはもう別に‪……‬いや‪……‬えーっと‪……‬」

トルテのことで頭がいっぱいだったなんて言えない。僕は不本意ながら、ユーステンに投げかけられた言葉を思い出して話し始める。

「アイツは‪僕の身体に対しての知的好奇心と、やはり‪……‬王座への執着があったようです」
「王座ね‪……‬そんなにいいものなのかしら」
「え?」

今のは、彼女が言ったのか?
ずいぶん刺々しくて軽蔑に満ちた声色だった。信じられない心地でジャオの母親を見る。彼女は目が合うと途端に焦り出し、パタパタと手を振りだした。

「ごめんなさい! 私、ここに来るまでは庶民だったから‪……‬オトメというだけで特別扱いされて大変だったのに、王族ともなれば、ねえ?」
「ああ‪……‬僕は不自由を感じたことはないです。だけどオトメは大変ですね。ここが故郷の僕ですら、不自由でがんじがらめの気分だ」

ミヤビさんの境遇を思い出す。ある日異国に飛ばされ勝手にオトメにされて、やれ英雄と結婚しろ、子作りをしろ、子どもができたらできたで男子でないと周囲から責め立てられるだなんて‪……‬女性の尊厳を踏み躙る行為ばかりじゃないか。
僕も今なら少しは気持ちがわかる。ありえないことだ。でもそれが今日までこの国を支えるシステムだったのだ。狂ってる、こんなのは。僕は知っている気でいて何も知らなかった。いや、知ろうとしなかったんだ。

「……僕は幸い王子です。今までのオトメよりも発言権はある。闘います。幾多のオトメが奪われた大切な時間に報いる。今世までこの王国の生命を繋げてくれた感謝を胸に、この国を、変えます」

具体的にどうすればいいのか、今はわからない。でも僕がオトメになったことがきっと革命の始まりなのだ。今日散々な目に遭って身に沁みた。僕にはやらなきゃいけないことがある。外道の手にかかって泣いている場合じゃない。ジャオやトルテがいれば、僕にだって、乗り越えられる気がする。
整理できた。ここに来るといつも思考が前向きになる。ありがたいことだ。
ふと見ると、ジャオの母親はほろほろと泣いている。机の端に縋り付いて、涙に濡れた声で必死に言葉を紡ぐ。

「ありがとうっ‪……‬私、ほんとは国への不満とか‪……‬ずっと、誰にも言えなくっでっ‪……‬ずっと、一人ぼっちで、ウッ」
「つらかったですよね。もう大丈夫です。僕が引き受けます」

ジャオも母の背中をさすってなだめている。驚いていないところを見ると、彼も母の気持ちには気付いていたのだろう。
儀式の翌日、屋上でジャオと出逢ったあの時。ジャオが僕に謝り倒していた理由が、少しわかった気がした。






ジャオの家を出ようとすると、取っ手に手をかける前に外側からドアが開いた。入ってきたのはジャオの父親だ。今日も美しい蒼髪と老けていない顔面が美しい。僕は緊張で一瞬にして石像になった。彼は、深々と一礼する。

「王子。息子がお世話になっております」
「いえいえ逆です! 僕、今日もジャオに助けてもらって」
「なに?」

ギロッ。ジャオと同じ色の、しかしどこか冷たい氷の眼光で射抜かれて心の中で悲鳴を上げる。麗人の怒った顔は怖い。
……まあ無理もないよな。ジャオには僕の危険を被ってもらってばかりで‪……‬親として、息子が何度も危険に晒されるのはいい気がしないだろう。

「また厄介ごとに巻き込まれたのですか?」
「え……ハイまあ‪……‬」
「ジャオ。城まで送って差し上げなさい」
「元よりそのつもりです」

ジャオは父親と目も合わせずにそう言う。僕の肩を抱いて颯爽と家の外へとエスコートしてくれた。なんだか意外だ。送って差し上げなさいだなんて‪……‬ジャオのお父さん、怖い人だと思っていたけど、意外とやさしいのかな‪……‬?
だけどジャオとはあまり折り合いが良くなさそうだ。いつもと同じ無表情だけど僕にはわかる。

不機嫌そうな横顔のほっぺをつついてこちらを向かせる。ジャオは驚いたようにこちらを向くと、ふわり、花が咲くように微笑んだ。クールな男の気を許した笑顔、たまらない。
心の中でその美しさと愛らしさに悶えながら、僕はジャオと束の間のデート気分を楽しむ。
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