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 突き当たりだ……。

 正確には、そこは突き当たりではなく、ダクトトンネルの出口。
 そこから薄明かりが入ってきていて、深月の周囲も徐々に明るくなっていった。

 そのポッカリとあいた出口から、深月は次に広がる空間へと頭を覗かせた。
 途端に体ごと持って行かれそうな強い風が深月を襲う。
 空調から巻き上がる風なのか、少しひんやりとした風がとても心地よかった。
 息苦しかった狭い通路から一気に強風にあおられ、思わず大きく息を吸い、ひとしきり冷たい風で体を冷やして落ち着くと、深月は改めてその場所を見つめた。
 風が吹き上げ、風鳴りの音をさせるその場所は、8メートル四方程の四角い大きな縦穴だった。

 なんだ……これ……。

 上を見上げると、その先は頂点が目視できない程の高さがあり、下は10メートル程度の所でコンクリート打ち放しの床が見える。

 筒抜けの空間――。
 その横穴から深月は顔を出していた。

「透さん、聞えますか?
 大きな縦穴まで来ました。
 ここ、何だかわかりますか?」
 透に繋がったままの携帯に向かって深月が尋ねた。

「たぶん……エレベーター…………副坑……。 
 位置的……その……向こうがVIP用のエレベーター……はずだ……」
 風鳴りの音でハッキリとは聞き取れない、途切れ途切れの透の声がした。

「エレベーター……」

 確かにその縦穴は、ビルの上から下まで貫くように走っている。
 壁には多くのケーブルが束になり、その脇に金属製の細い鉄梯子が真っ直ぐに伸びていて、数メートルごとに、今、自分が居るのと同じような横穴があった。

 VIP用エレベーターの副坑か……。
 高速道路のトンネルの、非常用出口に繋がる並行する通路……みたいなもんか……。
 下が10メートル程ってことは、ここが32階だから……ちょうど2階分ぐらいで、あそこが30階と言う事か。

 ということは……。 
 深月は先の見えない上方を見上げた。
 
 このビルのテッペンは80階。
 高さで約……ヨン……400メートル…………!!

 そこまで考えて思わず背筋が冷たくなった。
 さっきまで暑さで汗びっしょりだった体が、冷たい風で急激に冷やされたせいもあるのだろうが、それが高さへの恐怖だと、深月も自覚せざるを得なかった。

 でもこの鉄梯子を登りながら、順番に横穴へ潜り込む、というルートなら確実に各階へ行ける……。
 そして、目的の76階へも……。

 400メートル……。
 改めてその高さを思い、思わずゴクリと唾を飲む。

 深呼吸をしながら目を閉じると匠の顔が浮かんだ。
 少し悲しそうな顔、優しく笑う顔……苦痛に歪む顔……。

「匠さん……。
 匠さんが待ってるんだ……。
 匠さんが、僕を…………!
 怖いなんて……もう……もう、、もう!!! 
 行くしかないでしょっ!!」

 深月は自身に言い聞かせるように大声で叫んだ。
 その声を携帯を通し、透も聞いていた。


 深月は再びホルダーにタブレットを挟むと、鉄梯子に手をかけ、体をダクトから前に滑り出させた。
 ここはまだ高さ10メートル程だ。
 巻き上げる強風にも一定のリズムがあるらしく、今はさほど強くない。

 今なら……! 
 深月は思い切ってダクトから体を引き抜くと、鉄梯子に取り付いた。

 両腕で抱えるように梯子を抱くと、それは思ったよりも細く冷たかった。
 そこに強風が吹くと、手の感覚が無くなる気がする。

 非常時には、ここに予備のエレベーターの箱が下げられ、避難用とされるのかもしれない。
 万が一、この梯子で人間が移動するような事態になっても、厳重に命綱を装着しての事だろう。
 こんなシャツ一枚の軽装で、手袋も命綱も無く、体一つで登り降りするなど、常識の範囲を超えている。

 それでも……。

 深月は両手の掌に、ハァーと息を吹きかけると、カンカンと高い音を響かせ梯子を上り始めた。
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