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33階のダクトはすぐに見えてきた。
おやっさんには、できるだけ各階をチェックすると言って来たが、32階で拉致した人間を33階へ監禁なんて有り得ない。
深月はもう少し上の階まで一気に上る事にし、顔を上へ向ける。
それは想像以上に冷たく、上り難い梯子のせいでもあった。
こんな下位階で無駄に体力を消費するわけにいかない。
一番疑わしいのは……黒幕がナンバーツーだと言うなら、その居室がある階だ。
他の誰が居るかもわからない公共のスペースへ連れ込むより、僕なら自分の部屋に……。
ふと、浅葱の部屋のベッドで寝ていた匠の姿を思い出した。
きっとあの時も……。
「匠さん……」
一瞬、体と思考が停止し、ただ梯子に取り付いているだけの自分に気が付く。
なっ……!
何考えてるんだ、こんな時に……!
ぼーーっとしてる暇は無いんだ……!
そう自分自身に言い聞かせ、深月はまた手足を動かし始めた。
右、左、右、左――
グレー1色の無機質な壁に、銀に光るどこまでも同じピッチの梯子。
機械的な、ずっと同じ動作の永遠にも思える繰り返し。
どれだけ必死に登っても、その周囲の景色は何も変わる事がなく、何の達成感も得られず、何の目印も無い。
平衡感覚さえおかしくなりそうな空間で、本当に自分は登っているのだろうかと、錯覚さえ覚えた。
ハァ……ハァ……
ハァ……ハァ……
息が上がり口で呼吸をすると、乾いた風のせいで、喉がヒリヒリと痛み、すぐに口がカラカラになった。
下は……。
下を見れば、少しでも達成感が得られるのだろうか……。
ここまで来たのだぞ。という……。
下を向きかけて、東京タワーって何メートルだっけ……ふとそう考えた。
そう思うと、なぜか急に笑いが込み上げてきた。
乾いた喉の奥から絞り出す苦笑だった。
まったく……何を考えてるんだか……。
こんなとこで下なんて見たら、もう二度とこの梯子から片手を離し、上段へ繰り出す……なんて無謀な事はできなくなる。
最初に見たあのコンクリートのザラついた床。
あそこへ落ちたら、即死……。
今の自分の状況を冷静に思うと、もう恐怖で下を見る事などできなかった。
その時だった。
また強風が巻き上がる。
……クソッ……!!!
両腕で梯子にしがみつき、風がおさまるのを待つが、体はみるみる体温を失い、指先に力が入らなくなっていく。
こうしているだけでも体力は消耗し、時間もロスする。
できるだけ止まらずに行かないと……。
ナンバーツーの居室は何階だったか……。
……恐怖から逃れるように、携帯へ話しかけた。
「透さん……ナンバーツーの居室って……何階からですか?」
だがゴウゴウと響く風切り音で、携帯からは何も聞えない。
ダメか……。
苦しい呼吸と渇き切った喉で、既に声は出にくい。
登りながら話をするのは無理だ。
だったら……風がある時に黙って登る。
……少々無理をしてでも……。
そして風がおさまったら、もう一度透さんと通話……。
今はできる限り少しでも上へ……だ。
右手を伸ばし、また一つ上段へ手を掛ける。
――!!!
握ったはずの梯子から右手が外れていた。
「……ンああッッ――っッ!!!」
おやっさんには、できるだけ各階をチェックすると言って来たが、32階で拉致した人間を33階へ監禁なんて有り得ない。
深月はもう少し上の階まで一気に上る事にし、顔を上へ向ける。
それは想像以上に冷たく、上り難い梯子のせいでもあった。
こんな下位階で無駄に体力を消費するわけにいかない。
一番疑わしいのは……黒幕がナンバーツーだと言うなら、その居室がある階だ。
他の誰が居るかもわからない公共のスペースへ連れ込むより、僕なら自分の部屋に……。
ふと、浅葱の部屋のベッドで寝ていた匠の姿を思い出した。
きっとあの時も……。
「匠さん……」
一瞬、体と思考が停止し、ただ梯子に取り付いているだけの自分に気が付く。
なっ……!
何考えてるんだ、こんな時に……!
ぼーーっとしてる暇は無いんだ……!
そう自分自身に言い聞かせ、深月はまた手足を動かし始めた。
右、左、右、左――
グレー1色の無機質な壁に、銀に光るどこまでも同じピッチの梯子。
機械的な、ずっと同じ動作の永遠にも思える繰り返し。
どれだけ必死に登っても、その周囲の景色は何も変わる事がなく、何の達成感も得られず、何の目印も無い。
平衡感覚さえおかしくなりそうな空間で、本当に自分は登っているのだろうかと、錯覚さえ覚えた。
ハァ……ハァ……
ハァ……ハァ……
息が上がり口で呼吸をすると、乾いた風のせいで、喉がヒリヒリと痛み、すぐに口がカラカラになった。
下は……。
下を見れば、少しでも達成感が得られるのだろうか……。
ここまで来たのだぞ。という……。
下を向きかけて、東京タワーって何メートルだっけ……ふとそう考えた。
そう思うと、なぜか急に笑いが込み上げてきた。
乾いた喉の奥から絞り出す苦笑だった。
まったく……何を考えてるんだか……。
こんなとこで下なんて見たら、もう二度とこの梯子から片手を離し、上段へ繰り出す……なんて無謀な事はできなくなる。
最初に見たあのコンクリートのザラついた床。
あそこへ落ちたら、即死……。
今の自分の状況を冷静に思うと、もう恐怖で下を見る事などできなかった。
その時だった。
また強風が巻き上がる。
……クソッ……!!!
両腕で梯子にしがみつき、風がおさまるのを待つが、体はみるみる体温を失い、指先に力が入らなくなっていく。
こうしているだけでも体力は消耗し、時間もロスする。
できるだけ止まらずに行かないと……。
ナンバーツーの居室は何階だったか……。
……恐怖から逃れるように、携帯へ話しかけた。
「透さん……ナンバーツーの居室って……何階からですか?」
だがゴウゴウと響く風切り音で、携帯からは何も聞えない。
ダメか……。
苦しい呼吸と渇き切った喉で、既に声は出にくい。
登りながら話をするのは無理だ。
だったら……風がある時に黙って登る。
……少々無理をしてでも……。
そして風がおさまったら、もう一度透さんと通話……。
今はできる限り少しでも上へ……だ。
右手を伸ばし、また一つ上段へ手を掛ける。
――!!!
握ったはずの梯子から右手が外れていた。
「……ンああッッ――っッ!!!」
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