華燭の城

文字の大きさ
上 下
193 / 199

- 192

しおりを挟む
「ポケット……?」

 唐突な話にシュリは戸惑いを隠せず、そう聞き返しながら、ラウに借りたコートの中を探る。
 そして、ポケットからそっと抜き出した手には、言われた通り、古い鍵が2つ握られていた。

「それは、この城の薬品庫の鍵。
 その薬品庫の地下に、ジーナ様の、これからの治療に必要な薬草を全て確保しています。万が一、追い詰められたガルシアが血迷い、城に火でも放っては……と、隠しておきました。
 詳しい処方は、もう1つの鍵……公用の館にある私の……としての部屋に。場所は北西端の黒扉……。行けば……オーバストならわかるはずです」

「ジーナの薬の……薬品庫の鍵……」

「ええ。あなたが一番欲しがっていた物です。
 あなたが、ただひたすら、ガルシアの仕打ちに耐えてきたのは、全てその薬のため、ジーナ様のため。
 その薬草が全てガルシアの手中にあると思っていたからです。
 でも本当は……。
 私はもうずっと前から、その鍵を持っていたのですよ。
 なのに私は、あなたを利用し続けるために言わなかった。
 薬草がすでにこちらにある事が判っていれば、あなたは、ガルシアの言いなりになる必要はなかった」

「これが……ジーナの……」

 シュリは自分の手の中にある鍵をじっと見つめた。
 
 自分が弟の薬のために耐えてきたのは本当だ。
 そのために、ナギにも本当の事を打ち明けられず、助けも求められなかった。
 今日でさえ、ナギを追い返そうとした程だ。
 もしすぐに話せていれば、この胸の印も無かったはず……。
 
 でも……。
 ……でも……。
 …………でも…………。


「それでも……。
 私の気持ちに……変わりはない……」

 シュリの声に、ガルシアのむくろを抱えるラウの腕に力が入った。
 そのままグッと唇を噛んでシュリを見つめると、スッと息を吸う。

「シュリ! いい加減に目を覚ましなさい!
 どこまで言えばわかるのですか!!」

「わからない! わかりたくもない!!」

「いいですか、よく聞きなさい!
 私は……。
 私はあなたを……。
 シュリを……自分の意のままに動く人形とするために……ずっと “薬” を飲ませていたのですよ……!
 私がシュリに渡していたあの薬湯と薬……。
 あれは…………麻薬…………」

「やめろ! それ以上言うな! ラウム!」

 叫んだのはナギだった。
 予想外の場所からの声に、ラウも驚きを隠しきれず、思わず視線を合わせる。

「もうこれ以上……シュリを傷つけるな……」


 ナギはこの事実をすでに知っていた。
 ヴィルが城からこっそり持ち帰った多くの薬の中で、ナギが注視していたのは二つ。
 “大量の麻薬成分が配合された薬瓶” と “毒薬の瓶”

 自国の検査で、これが麻薬だと判明した当初、ナギは、ガルシアがこれで財を成しているのでは……と考えた。
 違法な麻薬を、薬師であるラウに作らせ、その販路に西国を選んだのだ、と……。
 そして、西の男を秘密裏に呼び寄せ、城内で麻薬の取引……。
 そうだとすれば、あの異常な財力にも説明がつく。

 だがあの財は、大国の姫を次々とめとりながら増やしたものだった。
 ガルシアが婚姻の持参金として相手国に要求した金額は、小国ならば、かるく数年の国家予算に匹敵する。

 それでもの妃になれるなら……と、巨額の金と共に娘を差し出した国々……。
 その末路は、金のみならず、宝剣を含む財宝から武器、兵力、果ては自国の領土と、大事な娘の命まで、根こそぎ奪われる事となったのだが……。


 結局、麻薬の件は、ナギの中で説明がつかないままだったが、その謎について話したのは、思いがけずも、あの西国の男だった。
 自分の保身のため、最後の切り札として、ナギ達にこう密告したのだ。

 『シュリ皇子は麻薬を常習しているはずだ』と……。

 それは長年、西国であらゆる薬を作り出し、諜報してきた男の直感だった。

 自分の作った薬と針の痛みに、普通の人間が……まして、酒さえ飲まないという皇子が耐えきるなど、考えられない。というのが理由だ。
 
 もしそんな事ができるとすれば、答えはひとつ。
 薬に何か強い耐性……麻薬のような強いものを、毎日体内に取り込み続けて、初めてかなう事だと、あの男はナギに話していた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...