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「誤算……?」
ナギがラウを見る。
ラウはその視線を受け止め切れぬように目を逸らすと、自分の腕の中で息絶えるガルシアに視線を移した。
藻掻き苦しんだのか、見開かれたままの瞳……。
ラウはそれを、そっと指で閉じた。
「私の誤算は3つ。
1つは、ガルシアが帝国に親書を頼んだ事。
あれさえなければ、すぐにでもガルシアを殺るはずだった。
2つ目は、シュリにあの悪魔の紋章まで刻んだ事……。
私はガルシアの性癖を身を持って知っていた。
美しいシュリをみれば、当然そうなるだろう事もわかっていた。
だが、私は……それでも構わないと、思っていた……」
その言葉に、シュリが伏せていた顔を上げた。
そんなシュリの目を見ながらラウは続けた。
「神国の事をガルシアに進言する前、私はシュリについて多くの事を調べあげた。
産まれた時から神の子として羨望と期待とを一身に背負い、溢れる程の愛情を注がれ、何不自由無く育った美しき皇子……。
だが、私は……。
同じ皇子として生を受けながら、城を追われ、身を隠し、最愛の母は失意の中で死んだ……。
その上、実の父に石牢で弄ばれ、歩くことさえ儘ならない凌辱の日々。
私は調べるうちに……シュリに嫉妬したのです。
本当の “神の子” がどれほど辛い重責を背負っているのかも知らず、愚かにも私と同じ苦しみを味わえばいいと……心のどこかで、そう思ってしまった……。
だが、まさかあの紋まで刻むとは……」
「もういい……ラウ……。
お前が居なければ、私も今日まで生きてはいなかった。
それに、この傷は……もう浄化された……そうだろう?」
「来るな、シュリ!」
ラウに歩み寄ろうと、一歩踏み出したシュリにラウが怒鳴った。
「その優しさだ……。
その優しさが私の最後の誤算……」
「ラウ……」
「ガルシアは私の口車に乗り、策略通りあなたを攫って来た。
見張りの目的で私に世話をさせたが、でも、私の真の目的は……あなたが、ガルシアの日々の責めに耐え切れなくなって逃げ出さないように、そして自死しないように……時には手を握り、時には抱きしめて、心の拠り所となる甘い飴を与え続ける事……。
あなたが居なくなってしまうと、私の長年の計画が遂行できなくなりますからね……」
「だから初めて会った日に、自分は何があっても味方だと……」
「ええ……。呆れるほど、ずるいのですよ、私は……。
優しく笑みながら、あなたをここから逃がさないように騙していた。
でも……たまに私の中の闇の部分が顔を出した……。
あなたが私の前に跪くと、抑えていた嫉妬心が、優越感を覚え、ついキツくあたってしまったかもしれません……」
それは初めてシュリがラウの前に跪き、男のモノを口に含んだ日の事だろう。
「嫌になりましたか? 軽蔑するでしょう?
あの時、私はあなたを……神の子を自分の前に跪かせ、服従させた事に歓喜していたのですよ。
憎み続けてきたこの人……ガルシアと同じようにね……。
そして私は『あなたの身代わりとしてガルシアに抱かれる』と……わざとそう言って、自ら名乗り出た。
その事であなたに恩を売り、罪悪感を植え込んだ。
17年も弄ばれたこんな身体……もう痛みなど感じもしないのに……」
ラウは腕の中のガルシアをチラと見た後、思わず顔を伏せたシュリを見ながら、からかうようにクスリと笑った。
だがシュリの返事は、ラウの予想を裏切るものだった。
「嫌いになど……。
軽蔑など……するわけがない……」
その言葉にラウの顔が曇った。
「……本当に! あなたはどこまでお人好しなのですか!
私はあなたを騙していたのですよ!?
それでも……」
「それでもだ……!
私はお前を……ラウを愛している!
その気持ちに偽りはない!」
そう言うシュリの言葉にも、ラウは黙ったまま、頑なに首を振った。
「どうしてだ、ラウ……!
もういい! こんな事……!
もう止めよう……! もう何も聞きたくない!」
「……あなたの着ているコートのポケットに、鍵が入っています」
ナギがラウを見る。
ラウはその視線を受け止め切れぬように目を逸らすと、自分の腕の中で息絶えるガルシアに視線を移した。
藻掻き苦しんだのか、見開かれたままの瞳……。
ラウはそれを、そっと指で閉じた。
「私の誤算は3つ。
1つは、ガルシアが帝国に親書を頼んだ事。
あれさえなければ、すぐにでもガルシアを殺るはずだった。
2つ目は、シュリにあの悪魔の紋章まで刻んだ事……。
私はガルシアの性癖を身を持って知っていた。
美しいシュリをみれば、当然そうなるだろう事もわかっていた。
だが、私は……それでも構わないと、思っていた……」
その言葉に、シュリが伏せていた顔を上げた。
そんなシュリの目を見ながらラウは続けた。
「神国の事をガルシアに進言する前、私はシュリについて多くの事を調べあげた。
産まれた時から神の子として羨望と期待とを一身に背負い、溢れる程の愛情を注がれ、何不自由無く育った美しき皇子……。
だが、私は……。
同じ皇子として生を受けながら、城を追われ、身を隠し、最愛の母は失意の中で死んだ……。
その上、実の父に石牢で弄ばれ、歩くことさえ儘ならない凌辱の日々。
私は調べるうちに……シュリに嫉妬したのです。
本当の “神の子” がどれほど辛い重責を背負っているのかも知らず、愚かにも私と同じ苦しみを味わえばいいと……心のどこかで、そう思ってしまった……。
だが、まさかあの紋まで刻むとは……」
「もういい……ラウ……。
お前が居なければ、私も今日まで生きてはいなかった。
それに、この傷は……もう浄化された……そうだろう?」
「来るな、シュリ!」
ラウに歩み寄ろうと、一歩踏み出したシュリにラウが怒鳴った。
「その優しさだ……。
その優しさが私の最後の誤算……」
「ラウ……」
「ガルシアは私の口車に乗り、策略通りあなたを攫って来た。
見張りの目的で私に世話をさせたが、でも、私の真の目的は……あなたが、ガルシアの日々の責めに耐え切れなくなって逃げ出さないように、そして自死しないように……時には手を握り、時には抱きしめて、心の拠り所となる甘い飴を与え続ける事……。
あなたが居なくなってしまうと、私の長年の計画が遂行できなくなりますからね……」
「だから初めて会った日に、自分は何があっても味方だと……」
「ええ……。呆れるほど、ずるいのですよ、私は……。
優しく笑みながら、あなたをここから逃がさないように騙していた。
でも……たまに私の中の闇の部分が顔を出した……。
あなたが私の前に跪くと、抑えていた嫉妬心が、優越感を覚え、ついキツくあたってしまったかもしれません……」
それは初めてシュリがラウの前に跪き、男のモノを口に含んだ日の事だろう。
「嫌になりましたか? 軽蔑するでしょう?
あの時、私はあなたを……神の子を自分の前に跪かせ、服従させた事に歓喜していたのですよ。
憎み続けてきたこの人……ガルシアと同じようにね……。
そして私は『あなたの身代わりとしてガルシアに抱かれる』と……わざとそう言って、自ら名乗り出た。
その事であなたに恩を売り、罪悪感を植え込んだ。
17年も弄ばれたこんな身体……もう痛みなど感じもしないのに……」
ラウは腕の中のガルシアをチラと見た後、思わず顔を伏せたシュリを見ながら、からかうようにクスリと笑った。
だがシュリの返事は、ラウの予想を裏切るものだった。
「嫌いになど……。
軽蔑など……するわけがない……」
その言葉にラウの顔が曇った。
「……本当に! あなたはどこまでお人好しなのですか!
私はあなたを騙していたのですよ!?
それでも……」
「それでもだ……!
私はお前を……ラウを愛している!
その気持ちに偽りはない!」
そう言うシュリの言葉にも、ラウは黙ったまま、頑なに首を振った。
「どうしてだ、ラウ……!
もういい! こんな事……!
もう止めよう……! もう何も聞きたくない!」
「……あなたの着ているコートのポケットに、鍵が入っています」
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