華燭の城

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 すでに灼き開かれていた傷の中から、白い気煙が立ちのぼり、人間の体組織が灼ける匂いがする。

 直に触れば、皮膚をも灼くとも言っていたあの液体だ。
 薬を手渡した小男でさえも、原液をそのまま使うというその光景は初めてだったのだろう。顔が恐怖に引き攣り歪んでいる。

 だが、ガルシアは笑っていた。
 その手が止まる事はない。

「……ンンッンンン”っっーー!!」
 
 シュリはガラガラと激しい滑車の音をさせ身を捩る。
 頭を振り、身を反らせて、その薬と針から逃れようと……。
 だが、その行為は痛みを増すだけで、ガルシアの狂気から逃れる事はできなかった。

 ジュッ――
 同じ音を立て、二本目の針が再びシュリの傷だらけの体に押し当てられ、すかさず、そこへ劇薬が垂れ落とされる。

「んんっッ!! ……ンァアアアア”ッッ!!」

 鞭で裂かれた皮膚を、再び灼かれる痛み。
 その中に垂らされた薬で、自分の体が灼け崩れ、溶けていく感覚……。
 耐え切れずシュリが叫ぶ。

 その声に、ガルシアは嬉しそうに微笑んだ。

「いい声だ、もっと鳴け!
 痛みに泣き叫ぶ神の声を聞かせろ!
 “助けて下さい” と言ってみろ!」

「……ンっ”っ!! ……ァアアアアアアッッ……ッ……!!」

 言葉など出はしない。
 ただ痛みを振り払うように、シュリの悲痛な叫びだけが響き続ける。


 体を灼いた針の温度が下がり、灼熱の色が薄れていくと、ガルシアは小男に手を差し出す。
 それと交換するように、新たな針がガルシアに手渡され、そしてまた、薬が内側から体を灼き壊していく。
 その交換のわずかな間、薄っすらと目を開けたシュリの顎を掴み、ガルシアが顔を寄せた。

「……痛いか?
 だが本当の苦しみは、これからだ。
 お前の望みが全て神にあると言うなら、二度と “神” などと口にできぬ体にしてやるわ」

 たった今、男が釜から抜き出し、手渡されたばかりの真っ赤に灼けた針を、シュリの目の前に突きつける。

「……何を……。……や、やめっ……」

 シュリが首を振る。
 今以上の何か……。
 その恐怖から逃れようとした。
 だがそれは、虚しい抵抗に過ぎなかった。

 笑いながら押し当てられた灼熱の針、それがガルシアの手の先でゆっくりと……何かの形を描くように、幾筋もの線を引き始める。
 その引かれた線に沿って、更に薬が垂らされ、傷は大きくただれ、口を開けた。

「ンッ! ンッ……!! 
 ……や……やめッ…………ンッッ!!
 ……っンぁ……あああああっっっーーっっ”!!」

「どうだ? 痛いか? 苦しいか? これが何かわかるか?
 さぁ、ワシからの贈り物だ。受け取れ。
 本来なら神の子であるお前に相応ふさわしく、その身に十字を刻んでやりたいところだが……あいにくとワシは神など信じておらん。
 神か悪魔……どちらかに決めよと言われれば、ワシは当然悪魔を選ぶ」

 次々と手渡される巨大な針。
 ジリジリと自分の体を灼きながら動いていくそれが何を描いているのか……。
 シュリには全て見えていた。
 それが何を意味するのかも……。

「……な、何を……っ……!
 …………や……やめろ……ガルシア!! 
 ……やめろっっーー!!」

 シュリは、わずかに床に触れる足先で必死に身体を捩った。
 激しく首を振る度、ギシギシと身体が揺れ、その手にも体重が掛かる。
 
 だが、その引かれて行く線……自分の体に刻み込まれていくものへの恐怖に、折られた右手の痛みなど、もう判らなくなっていた。

「ガルシア! やめろっっ!!!
 ……! やめっ…………!!」

 だが、ガルシアの手は一度も止まる事はなかった。
 幾筋もの直線、それと複雑に交差する線と線が描き出すもの……。
 それがシュリの傷だらけの胸に、ハッキリと灼き付けられていく。


 その壮絶な叫びに、台に繋がれたままのラウが顔を上げた。

「陛下……」
 わずかに首を振った。

「いけません……陛下……それは……」

 小さく声が震えた。
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