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しばらくすると、
「どうだ? 上手く出来たと思わんか?」
ガルシアは後ろの小男へ振り返り、満足げに笑った。
「神の子の体に、この印。
面白い趣向だろう?
もし、この姿のシュリが戦さに出たとしたらどうだ?
もう誰も手を出せぬぞ」
「それは素晴らしい!
そこまでお考えとは……!」
人体の内部を劇薬で直に灼くという惨状……。
それを目の当たりにし、最初は戸惑い、顔を引き攣らせ見ていた小男。
下手をすれば死ぬのではないか……。
皇子を殺してしまっては、自分もその咎を負わされるのでは……。
そう思い、内心、恐怖に震えていた。
だがそのシュリが、まだ生きて痛みに喘いでいる事に安堵したのと同時に、その痛々しい姿に……今まで自分が行ってきた拷問とは全く桁違いの責めに、未だかつて味わったことの無い、抗えない程の興奮を覚えはじめていた。
爛々と目を輝かせ、妖しく笑み、ガルシアに応えながらも、すでに自身の猛りを押さえきれず、顔は上気している。
「このシュリ様の体は “最強にして最悪の武器” となったわけですな……」
「ああ、そういう事だ。
聞けば北方に、地下資源が豊かな小国があるらしいではないか。
手始めに、そこでも落としてみるか」
「さすがは陛下。
これだけ傷み、灼きつければ、この印はもう一生消えぬ呪縛。
ならば、そう使われるのが、シュリ様も喜ばれましょう。
親愛なる陛下のために、自らの体を活かす事ができるのですからな。
……しかし……。
北の小国などと言わず、この際……帝国を……というのは如何でしょう?
……ガルシア閣下」
ガルシアは、小男の媚びた返事を聞くと、
「お前の口車などに乗るものか」
言葉ではそう言いながらも、満更でもない様子でフンと鼻で笑い、そのままシュリへと向き直った。
「さて、これで仕上げだ。
どうせ、その手では当分無理だろうが……」
そう言うと、グイとシュリの脚を開かせ持ち上げ、露わになった内腿に、真っ赤な針を押し当てた。
胸や背中より柔らかく薄いその白い皮膚は、いとも簡単にビリビリと灼き切れる。
「ンッ……っっ……」
シュリの叫びは意外にも小さい。
あまりの激痛に声さえ出せず、すでに意識を失いかけていた。
目の前で行われる暴虐を直視できず、ずっと下を向いていたラウは、その小さな呻きに顔を上げた。
薄暗い石牢の天井から、滑車と鎖で吊るされたシュリ。
釜の炎に炙られるように映されるその体に描かれた物に、ラウは絶句したように言葉を詰まらせる。
「手も砕いた。脚も灼いた。
これで当分、自慢の馬にも乗れまい?
どうした? もう声は出ないか? 終わりか?」
ガルシアは、シュリの顎を掴み顔を覗き込むと、もう一度、逆脚の……その開かれた内腿から脚の付け根へと、灼熱の針を押しつけた。
「ンッぁ……グッ……っ……」
閉じかかっていたシュリの瞳が一度だけ見開き、ガルシアを睨むように小さく呻いたまま……ガクンと頭を垂れた。
「ふん、気を失ったか。
……まぁいい。今日は面白い物ができた」
そう満足気に言うと、台の脚に繋がれたままのラウの横に、手枷のカギを放り投げた。
「ラウム、明日の宴の受書の件、絶対に忘れるなとシュリに言い聞かせておけ。
もしできなければ、あの小僧の命は保障しないとな」
「陛下、あの皇太子でしたら、そのような面倒なことはなさらず、今夜にでも、こっそり殺ってしまえばよろしいのに。
そうすれば親書など簡単に……」
そう小男が冗談めかすのを、ガルシアは豪快に笑い飛ばした。
「一国の王ともなれば、いろいろ気苦労も絶えぬのだ。
お前のように、身軽に好き勝手できる者には判らぬだろうが “王” とは何かと大変なのだぞ?
まぁ、明日になれば親書はワシの物だ」
悠々たる笑い声を残し、ガルシアと小男が部屋を出て行くと、ラウは床に投げられたカギに手を伸ばした。
それを拾い、自分の手枷を外し、気を失ったまま吊るされているシュリの元へと這いずった。
そしてゆっくりと滑車を下げ、グッタリと床に倒れ込んだその傷だらけのシュリの身体を、台の下にあった布でそっと包み込み抱き寄せる。
「まさか……こんな……。
これほど惨い事をするとは……。
……シュリ…………」
ラウが呼び掛けても、頬に触れても、シュリは何の反応も示さない。
ラウはそのまま、気を失ったシュリを抱き、部屋を出て廊下を歩き始める。
蹴り上げられた古傷が痛む。
杖も使えず、足を引きずるためにゆっくりしか進む事ができない。
その間にも、シュリを包んだ布は見る見るうちに血に染まっていった。
「……シュリ、頑張ってください……」
ラウはそう話しかけ続けたが、シュリの返事は無く、どんどん冷たくなっていく体に、意識さえもない様子だ。
近付くラウの足音に、あの黒の扉番が、いつものようにその扉を開けながら振り返った。そして、その異様な姿にゴクリと息を呑む。
グッタリと蒼白の顔をした皇子が、大量の血に染まった布に包まれている。
それはまるで死人だった。
「……シュリ……様……」
思わず無言の掟を忘れ呟いた。
その声にラウも顔を上げる。
「すまない……廊下を汚した。
後で片付けておいてくれ……」
すれ違い様、そう告げた。
そのラウの足元……。
布からわずかに覗くシュリの白い足先から、ポタポタと床に血が滴っている。
「……承知……しました」
二人は掠れた声でゆっくりと頭を下げた。
「どうだ? 上手く出来たと思わんか?」
ガルシアは後ろの小男へ振り返り、満足げに笑った。
「神の子の体に、この印。
面白い趣向だろう?
もし、この姿のシュリが戦さに出たとしたらどうだ?
もう誰も手を出せぬぞ」
「それは素晴らしい!
そこまでお考えとは……!」
人体の内部を劇薬で直に灼くという惨状……。
それを目の当たりにし、最初は戸惑い、顔を引き攣らせ見ていた小男。
下手をすれば死ぬのではないか……。
皇子を殺してしまっては、自分もその咎を負わされるのでは……。
そう思い、内心、恐怖に震えていた。
だがそのシュリが、まだ生きて痛みに喘いでいる事に安堵したのと同時に、その痛々しい姿に……今まで自分が行ってきた拷問とは全く桁違いの責めに、未だかつて味わったことの無い、抗えない程の興奮を覚えはじめていた。
爛々と目を輝かせ、妖しく笑み、ガルシアに応えながらも、すでに自身の猛りを押さえきれず、顔は上気している。
「このシュリ様の体は “最強にして最悪の武器” となったわけですな……」
「ああ、そういう事だ。
聞けば北方に、地下資源が豊かな小国があるらしいではないか。
手始めに、そこでも落としてみるか」
「さすがは陛下。
これだけ傷み、灼きつければ、この印はもう一生消えぬ呪縛。
ならば、そう使われるのが、シュリ様も喜ばれましょう。
親愛なる陛下のために、自らの体を活かす事ができるのですからな。
……しかし……。
北の小国などと言わず、この際……帝国を……というのは如何でしょう?
……ガルシア閣下」
ガルシアは、小男の媚びた返事を聞くと、
「お前の口車などに乗るものか」
言葉ではそう言いながらも、満更でもない様子でフンと鼻で笑い、そのままシュリへと向き直った。
「さて、これで仕上げだ。
どうせ、その手では当分無理だろうが……」
そう言うと、グイとシュリの脚を開かせ持ち上げ、露わになった内腿に、真っ赤な針を押し当てた。
胸や背中より柔らかく薄いその白い皮膚は、いとも簡単にビリビリと灼き切れる。
「ンッ……っっ……」
シュリの叫びは意外にも小さい。
あまりの激痛に声さえ出せず、すでに意識を失いかけていた。
目の前で行われる暴虐を直視できず、ずっと下を向いていたラウは、その小さな呻きに顔を上げた。
薄暗い石牢の天井から、滑車と鎖で吊るされたシュリ。
釜の炎に炙られるように映されるその体に描かれた物に、ラウは絶句したように言葉を詰まらせる。
「手も砕いた。脚も灼いた。
これで当分、自慢の馬にも乗れまい?
どうした? もう声は出ないか? 終わりか?」
ガルシアは、シュリの顎を掴み顔を覗き込むと、もう一度、逆脚の……その開かれた内腿から脚の付け根へと、灼熱の針を押しつけた。
「ンッぁ……グッ……っ……」
閉じかかっていたシュリの瞳が一度だけ見開き、ガルシアを睨むように小さく呻いたまま……ガクンと頭を垂れた。
「ふん、気を失ったか。
……まぁいい。今日は面白い物ができた」
そう満足気に言うと、台の脚に繋がれたままのラウの横に、手枷のカギを放り投げた。
「ラウム、明日の宴の受書の件、絶対に忘れるなとシュリに言い聞かせておけ。
もしできなければ、あの小僧の命は保障しないとな」
「陛下、あの皇太子でしたら、そのような面倒なことはなさらず、今夜にでも、こっそり殺ってしまえばよろしいのに。
そうすれば親書など簡単に……」
そう小男が冗談めかすのを、ガルシアは豪快に笑い飛ばした。
「一国の王ともなれば、いろいろ気苦労も絶えぬのだ。
お前のように、身軽に好き勝手できる者には判らぬだろうが “王” とは何かと大変なのだぞ?
まぁ、明日になれば親書はワシの物だ」
悠々たる笑い声を残し、ガルシアと小男が部屋を出て行くと、ラウは床に投げられたカギに手を伸ばした。
それを拾い、自分の手枷を外し、気を失ったまま吊るされているシュリの元へと這いずった。
そしてゆっくりと滑車を下げ、グッタリと床に倒れ込んだその傷だらけのシュリの身体を、台の下にあった布でそっと包み込み抱き寄せる。
「まさか……こんな……。
これほど惨い事をするとは……。
……シュリ…………」
ラウが呼び掛けても、頬に触れても、シュリは何の反応も示さない。
ラウはそのまま、気を失ったシュリを抱き、部屋を出て廊下を歩き始める。
蹴り上げられた古傷が痛む。
杖も使えず、足を引きずるためにゆっくりしか進む事ができない。
その間にも、シュリを包んだ布は見る見るうちに血に染まっていった。
「……シュリ、頑張ってください……」
ラウはそう話しかけ続けたが、シュリの返事は無く、どんどん冷たくなっていく体に、意識さえもない様子だ。
近付くラウの足音に、あの黒の扉番が、いつものようにその扉を開けながら振り返った。そして、その異様な姿にゴクリと息を呑む。
グッタリと蒼白の顔をした皇子が、大量の血に染まった布に包まれている。
それはまるで死人だった。
「……シュリ……様……」
思わず無言の掟を忘れ呟いた。
その声にラウも顔を上げる。
「すまない……廊下を汚した。
後で片付けておいてくれ……」
すれ違い様、そう告げた。
そのラウの足元……。
布からわずかに覗くシュリの白い足先から、ポタポタと床に血が滴っている。
「……承知……しました」
二人は掠れた声でゆっくりと頭を下げた。
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