華燭の城

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「貰う……だと……?」

 名を名乗られれば、それに応えるのが礼儀。
 だが現王はそれを意図して放下した。

「何を馬鹿な事を……。
 ガルシアと言えば、あの帝国一の大国の王。
 そのアナタが……ふざけられるのもいい加減にしていただきたい」
 
 シュリの手を押さえたまま、静かだが強い現王の声が響く。


 ガルシアはその大きな体を、今しがたまでシュリが座っていたソファーの中央へドサリと沈めると、細い目で静かに二人を見つめた。

「知っているなら話が早い。
 いかにも、ワシはあの大国の9代国王、ガルシア・アシュリー。
 だが、別にふざけているわけではない。
 現にわざわざこうして、こんな辺境の地まで足を運んでやったのだ。
 いきなりで驚くのも無理はないが、ワシは本気だ。
 いくら戦さをしないとはいえ……国境に警備兵ぐらいは置いているのだろう?
 連絡を取って聞いてみるがいい。
 今、国境がどうなっているか、をな……」
 
「国境……。まさか……」

 王が入口の近衛に視線を送ると、近衛は無言で頷き、部屋を走り出て行った。


 しばらくして部屋に戻ってきた近衛は、額に大きな汗を浮かべていた。
 その顔は明らかに青ざめている。
 そしてそのまま睨むようにガルシアを牽制しながら王の下へと走り寄り跪いた。

「大変です……。
 国境は……。
 ……国境は、そのガルシアの国のものと思われる軍に既に包囲されている模様。
 一番近い町まで、すでに十数キロ……。
 ……砲がこちらを向いていると……」

「なんだと……!」
 シュリが思わず声を上げた。

「どうだ? これでワシの本気がわかっただろう。
 これでもまだ、大事おおごとにせずとも済むよう距離を置いてやっているのだぞ?
 ありがたく思え」

「我が国を……どうしようというのだ」

 現王が鋭い目でガルシアを見る。

「国? おいおい……。
 こんな辺境の小国、奪った所でワシに何の得がある?
 勘違いするな。
 ワシはこの国に戦さを仕掛けるつもりも無ければ、領地をいただこうと言うのでもない。
 無論、そこの皇子を殺そうと言うのでもない。
 言わば……両国の婚儀を望んでいる」

「婚儀……?」
  
 現王が懐疑の表情を浮かべる。

「ああ、そうだ。
 簡単に言えば、政略結婚というやつか?
 だが残念ながらワシには相手となる子がおらん。
 そこでワシの跡継ぎとして、そのシュリを連れ帰り、我が国の皇子として大事に育ててやろうと言うのだ。
 一緒に来れば贅沢三昧……そしてゆくゆくは大国の王。
 それに我が大国と縁続きともなれば、この国にとっても大きな後ろ盾。
 もう二度と他国に攻め入られるような事もなく、民は皆、救われる。
 どうだ? 悪い話どころか、お前達にとっても願ってもない話だろう」

 ガルシアは、いかにも、と言う風に両手を広げ、嬉しそうに熱弁をみせるが、その瞳は細く “喜” などという感情とは全くの対極だった。

「空々しい。
 そんな馬鹿げた話、私が受けるはずが……」

 ガルシアの言葉を黙って聞いていたシュリが、グッと拳を握り締め睨みつけた。
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