華燭の城

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「……キャッぁ!!」
 入口近くに居た侍女が悲鳴をあげる。

「……!! 皆、こっちへ……!」

 シュリは咄嗟に神儀の双剣を握り、動揺する母や弟、侍女達を背後にかばうように現王の横に並び立った。

 儀式に使う剣と言えども、それは紛れもなく両刃の真剣。
 その剣は既に鞘からわずかに引き抜かれ、銀に輝く剣身をのぞかせている。

 そのシュリの後ろで一塊になった侍従、侍女達は、皇后と弟皇子を守り、向けられた銃口からジリジリと身を引こうとしていた。

 睨み合う両者。
 室内に緊迫した空気が張り詰める。


「ジル……早く二人を部屋の外へ……」  

 視線は男と銃兵を睨み付けたまま、肩越しに指示するシュリの声に、
「はっ、すぐに!」
 侍従長が一礼し、二人を外へと促そうとした時だった。


「話があるのは国王一家……全員にだ。
 皇后も……それは弟君かな……? ここに居てもらおう。
 他の者に用はない。
 さっさと出て行ってもらって結構」

 突然の来訪者は、凍りついた部屋の空気を楽しむように銃兵の前に出ると、棚の調度品を一つずつ手に取り眺めながら悠然と近付いてくる。
 
 そして一つのガラス細工も見事な杯を取りあげた。
 繊細なカットを施したガラスにテラスからの日差しが反射し、まるで一個の宝石の様な美しさを見せる。

 だが男は、そこに聖母の姿を見ると、
「……ふん……これは要らぬ」
 そう呟くと同時、取り上げたその腕の形のまま、スッとてのひらを開いた。

 重力に逆らえず落ちていく杯は、
 ――パリンッ!
 数秒で高い音と共に床で砕け散った。

 ガラスの破片となった聖母を分厚い靴底でグシャリと踏み、男は薄い笑みを浮かべる。

「……!!」
 その非礼極まりない姿をグッと睨みながら、今にも剣を引き抜こうとするシュリの手を現王が抑えた。

「シュリ……はやるな……」
 横に立つ我が子の怒気を鎮めるように、静かな声で名を呼んだ。

「しかし……! 父上っ……!」

「だめだ、お前は神の子だ。
 たやすく剣を抜くでない。
 それに外にはまだ多くの客人が居る……。
 今、ここで銃戦など起こすわけにはいかぬ。
 皆の安全が最優先だ」
 
「くっ……」

 シュリは剣柄を一度強く握りしめた後、そのままゆっくりと鞘に納め入れた。


「シュリと言うのか。
 ワシの名はガルシアだ。
 辺境の小国とはいえ、この名ぐらい聞いた事があるだろう?
 お前が神の子か……」

 ガルシアと名乗った男は、現王の横に立つシュリの前まで来ると、調度品と同じように……まるで品定めでもするように、上から下まで何度も舐めるような視線でジロジロと見返した。

「ほう……美しい皇子と聞いてはいたが、たしかにこれは噂に違わず素晴らしい。
 さすが神と呼ばれ崇拝されるだけの事はある。
 直に見に来た甲斐があったというものよ。
 ……今日は、お前を貰いに来たのだ」

 薄い唇がニヤリと動いた。
 それはあの葬儀の日、役人達を叱責した王だった。
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