7 / 199
- 6
しおりを挟む
「……キャッぁ!!」
入口近くに居た侍女が悲鳴をあげる。
「……!! 皆、こっちへ……!」
シュリは咄嗟に神儀の双剣を握り、動揺する母や弟、侍女達を背後にかばうように現王の横に並び立った。
儀式に使う剣と言えども、それは紛れもなく両刃の真剣。
その剣は既に鞘からわずかに引き抜かれ、銀に輝く剣身をのぞかせている。
そのシュリの後ろで一塊になった侍従、侍女達は、皇后と弟皇子を守り、向けられた銃口からジリジリと身を引こうとしていた。
睨み合う両者。
室内に緊迫した空気が張り詰める。
「ジル……早く二人を部屋の外へ……」
視線は男と銃兵を睨み付けたまま、肩越しに指示するシュリの声に、
「はっ、すぐに!」
侍従長が一礼し、二人を外へと促そうとした時だった。
「話があるのは国王一家……全員にだ。
皇后も……それは弟君かな……? ここに居てもらおう。
他の者に用はない。
さっさと出て行ってもらって結構」
突然の来訪者は、凍りついた部屋の空気を楽しむように銃兵の前に出ると、棚の調度品を一つずつ手に取り眺めながら悠然と近付いてくる。
そして一つのガラス細工も見事な杯を取りあげた。
繊細なカットを施したガラスにテラスからの日差しが反射し、まるで一個の宝石の様な美しさを見せる。
だが男は、そこに聖母の姿を見ると、
「……ふん……これは要らぬ」
そう呟くと同時、取り上げたその腕の形のまま、スッと掌を開いた。
重力に逆らえず落ちていく杯は、
――パリンッ!
数秒で高い音と共に床で砕け散った。
ガラスの破片となった聖母を分厚い靴底でグシャリと踏み、男は薄い笑みを浮かべる。
「……!!」
その非礼極まりない姿をグッと睨みながら、今にも剣を引き抜こうとするシュリの手を現王が抑えた。
「シュリ……逸るな……」
横に立つ我が子の怒気を鎮めるように、静かな声で名を呼んだ。
「しかし……! 父上っ……!」
「だめだ、お前は神の子だ。
たやすく剣を抜くでない。
それに外にはまだ多くの客人が居る……。
今、ここで銃戦など起こすわけにはいかぬ。
皆の安全が最優先だ」
「くっ……」
シュリは剣柄を一度強く握りしめた後、そのままゆっくりと鞘に納め入れた。
「シュリと言うのか。
ワシの名はガルシアだ。
辺境の小国とはいえ、この名ぐらい聞いた事があるだろう?
お前が神の子か……」
ガルシアと名乗った男は、現王の横に立つシュリの前まで来ると、調度品と同じように……まるで品定めでもするように、上から下まで何度も舐めるような視線でジロジロと見返した。
「ほう……美しい皇子と聞いてはいたが、たしかにこれは噂に違わず素晴らしい。
さすが神と呼ばれ崇拝されるだけの事はある。
直に見に来た甲斐があったというものよ。
……今日は、お前を貰いに来たのだ」
薄い唇がニヤリと動いた。
それはあの葬儀の日、役人達を叱責した王だった。
入口近くに居た侍女が悲鳴をあげる。
「……!! 皆、こっちへ……!」
シュリは咄嗟に神儀の双剣を握り、動揺する母や弟、侍女達を背後にかばうように現王の横に並び立った。
儀式に使う剣と言えども、それは紛れもなく両刃の真剣。
その剣は既に鞘からわずかに引き抜かれ、銀に輝く剣身をのぞかせている。
そのシュリの後ろで一塊になった侍従、侍女達は、皇后と弟皇子を守り、向けられた銃口からジリジリと身を引こうとしていた。
睨み合う両者。
室内に緊迫した空気が張り詰める。
「ジル……早く二人を部屋の外へ……」
視線は男と銃兵を睨み付けたまま、肩越しに指示するシュリの声に、
「はっ、すぐに!」
侍従長が一礼し、二人を外へと促そうとした時だった。
「話があるのは国王一家……全員にだ。
皇后も……それは弟君かな……? ここに居てもらおう。
他の者に用はない。
さっさと出て行ってもらって結構」
突然の来訪者は、凍りついた部屋の空気を楽しむように銃兵の前に出ると、棚の調度品を一つずつ手に取り眺めながら悠然と近付いてくる。
そして一つのガラス細工も見事な杯を取りあげた。
繊細なカットを施したガラスにテラスからの日差しが反射し、まるで一個の宝石の様な美しさを見せる。
だが男は、そこに聖母の姿を見ると、
「……ふん……これは要らぬ」
そう呟くと同時、取り上げたその腕の形のまま、スッと掌を開いた。
重力に逆らえず落ちていく杯は、
――パリンッ!
数秒で高い音と共に床で砕け散った。
ガラスの破片となった聖母を分厚い靴底でグシャリと踏み、男は薄い笑みを浮かべる。
「……!!」
その非礼極まりない姿をグッと睨みながら、今にも剣を引き抜こうとするシュリの手を現王が抑えた。
「シュリ……逸るな……」
横に立つ我が子の怒気を鎮めるように、静かな声で名を呼んだ。
「しかし……! 父上っ……!」
「だめだ、お前は神の子だ。
たやすく剣を抜くでない。
それに外にはまだ多くの客人が居る……。
今、ここで銃戦など起こすわけにはいかぬ。
皆の安全が最優先だ」
「くっ……」
シュリは剣柄を一度強く握りしめた後、そのままゆっくりと鞘に納め入れた。
「シュリと言うのか。
ワシの名はガルシアだ。
辺境の小国とはいえ、この名ぐらい聞いた事があるだろう?
お前が神の子か……」
ガルシアと名乗った男は、現王の横に立つシュリの前まで来ると、調度品と同じように……まるで品定めでもするように、上から下まで何度も舐めるような視線でジロジロと見返した。
「ほう……美しい皇子と聞いてはいたが、たしかにこれは噂に違わず素晴らしい。
さすが神と呼ばれ崇拝されるだけの事はある。
直に見に来た甲斐があったというものよ。
……今日は、お前を貰いに来たのだ」
薄い唇がニヤリと動いた。
それはあの葬儀の日、役人達を叱責した王だった。
0
お気に入りに追加
84
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。


鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。


塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる