華燭の城

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「お前に拒否権は無い」
 
 シュリがまだ何か言いかけるのを、ガルシアの強い声が遮った。

「お前が拒否すればこの国はどうなる?
 この程度の国、我が軍ならば……そう……一日。
 明日にはこの国は地図から消えているだろう。
 ああ、働ける男は連れ帰り捕虜として使ってやってもよいが、女、子供はいらぬ」

「国を……滅ぼすと言うのか……」

「有無を言わさず欲しい物は手に入れる。それがワシのやり方だ。
 お前が嫌だと言うなら、そうなるだろうな。
 今も一気に攻め込み、国を滅ぼし、お前を奪っても良かったのだ。
 それをわざわざこうして出向き、順立てて話しをしてやっているだけでも恩情だ。
 ああ、そうだ、言っておくが……。
 1対1で始まった国同士の争いに、他国は“不戦不介入”
 誰も手出しならぬのは、お前も知っておるはず」



 この時代、世界中で次々と国同士の戦さが勃発していた。
 そのほとんどが自国の領土拡大と労働力を狙うものだ。

 そんな終わりなき戦いが続く中、各地の小さな争いが次々と隣国を巻き込み、世界の大戦にまで発展させぬようにと自然発生的に決まっていたのがこの“不戦不介入”の暗黙の掟。言わば不文律だった。


「この戦、誰も助けてはくれぬぞ?
 それ以前に、我が大国が相手と知って刃向かおうと言う馬鹿な国も無いだろうがな。
 なぁ、シュリよ、利口になれ。
 大人しくワシについて来れば、この国も、家族である国王一家も、そして自国の民も全て今まで通り。
 いや、今まで以上に平和に暮らせる。
 包囲され、大砲を向けられた事さえも、今なら何も知らずに済むのだ。
 だが、お前が自分可愛さに拒否すれば……」

 ガルシアは感情の無い冷めた薄い目で、床に散らばる砕けたガラスの破片を見つめ、そして侍従達の後ろ……かばわれるように隠されるジーナをジロリと見た。
 
「見たところ、この国にはもう一人皇子がいるではないか。
 お前がどうしても嫌だと言うなら、そこの弟皇子でも構わんぞ?
 さぁ、どうする。お前の気持ち一つだ」

 自分の名を呼ばれ、驚いたように顔を上げたジーナは、無意識に小さく首を振る。
 その幼い手は、しっかりと母親のドレスの端を握り締めていた。


「ジーナ様! ヤツを見てはなりません!」
 ジルが自らの背で、ガルシアの視線からジーナを遮る。

「やめろ……! 弟は病気だ! 絶対に手を出すな……!」

「そうか、ならば話は決まりだ。すぐに出発する、用意をして来い。
 見送りは要らん。
 全員ここで、おとなしくしていろ」
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