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第16章 大使就任とアルトレリア健康計画編

第428話 ネッココだけ特別検査

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 ここからはネッココの詳しい診察。診察医はフリアマギアさん。
 みんな検査は終わったものの、私の希望で外から見えない部屋へ移動してもらった。

「ではまずは、ネッココちゃんに付けられた魔道具を外して真の姿を見せてもらえますか?」
「えっ!?」
「見せるのがまずいほど珍しい植物なんですか? まさか樹の国からの持ち出しが違法とされている植物とか、危険な植物とか?」
「い、いや、どうなんでしょう? ネッココ、あなたって珍しい植物なの?」
『そんなことないわ! 樹の国ならそこら中に歩いてるし! 友達だって多かったのよ!?』
「持ち出しが禁止されてる植物?」
『そんなの知らないわ! 亜人たちが勝手に言ってることだし!』
「き、危険だったりは?」
『私に亜人を傷つけるほどの力は無いわ! アルトラなら私が力弱いの知ってるでしょ!? 捕まってすり潰される仲間が大勢いるくらい弱いんだから! マンイーターくらい大きければ捕まらなかったのにね!』
「あ、そう」

 た、多分問題無いかな?

「い、一応フリアマギアさんにお願いしておくんですが、この子の正体をこの町の誰にも教えないでほしいんです」
「守秘義務は守りますよ」
「ホントですね?」
「何だか、私に対するアルトラ殿の信用度が著しく低い気がするんですが? 気の所為ですか?」
「…………いや、まあ……」

 そりゃ初対面で、『身体を調べさせてくれ』って言われたり、古代遺跡の場所を知るためにストーカー紛いのことをされればね…… (第340話、第380話参照)

「私は定められたルールの中で好き勝手やってるだけですから、守秘義務に抵触すると言うのならちゃんと守ります。ただ、ネッココちゃんが持ち出しが禁止されているような珍しい植物であった場合、樹の国ユグドマンモンへ帰さないといけませんけど」

 そ、そうなのか……返さなきゃいけないってのは考えもしなかった。情が湧いてしまった今、帰るとなるとちょっと寂しいな……
 惚れ薬の原料って言うくらいだし、多分ありふれてる植物だとは思うんだけど……

「わ、わかりました。信用します。じゃあ――」

 ネッココに付けてある魔道具を外す。

「おお! これが変身の魔道具の効力! はたして真の姿は!? …………ああ……なるほどマンドレイクですか……つまりこれの効力を知ってる者にすり下ろされないように、周りには知られたくないということですね?」

 何だか急に声のトーンが下がった?

「はい、そういうことです。トロル族のみんなはマンドレイクについて知らないかもしれませんが、国が開かれた現在、外国から大勢訪れるようになりましたから。外部から来た者にはもしかしたら知っている者がいる可能性があるので」
「確かに樹の国では特別珍しい植物ではないですね。少量であれば持ち出しも違法ではありません。大量に持ち出されると危険なことに利用できるので違法になりますが。ネッココちゃん一本いっぽ……一人くらいなら大丈夫でしょう」

 今「一本」って言おうとしたところを、わざわざ「一人」って言い直してくれたのかな?
 こっちの事情に配慮してくれたのかも?

「しかしひた隠しにしてるのでちょっと拍子抜けてしまいました。アルトラ殿が連れているので珍しい植物なのかと……」

 あ、やっぱりちょっとガッカリしてる。

「もうこの子のことを食材としては見られないので、食べられるのは困るんですよ」
『私も食べられたくないのよ!』
「なるほど。あれ? しかしこの植物って話すことができないはずですが……どうやって話してるんですか? 疑似的に人型に変身させる魔道具を付けられていたので、魔道具の方にそういう機能まで付いてるのかと思ってましたが……」

 直後にネッココの額 (?)に貼ってあるシール (魔道具)に気付く。

「まさか……これですか?」

 ペリッと剥がされた……

「? 特別変化は無いようですね……アルトラ殿、このシール何のために貼ってあるんですか? おや? 何だかネッココちゃんの動きが騒がしくなりましたね」

 シールを剥がされたネッココは、黙ってはいるものの、慌てふためくようにフリアマギアさんに対して何かを訴えるような動きになった。
 シールを貼ってあった場所に戻すと――

『何するの!? それ取られたらしゃべれなくなるでしょ!』
「おぉっ!? このシールが植物がしゃべれるようになる魔道具なんですか!? しかもこんなに薄く!? どうやって作られたのでしょう!?」

 ああ……また展開が厄介な方向に……

 思わず片手で顔を覆う。

「わ、私たちエルフですら木の下位精霊を介してしか植物と話せないのに!? こんな高度なものまで!? これも古代遺跡からですか!?」
「え、ええまあ……」
「凄い! こんなものがあれば植物と話し放題じゃないですか!? ネッココちゃん! ちょっと、もう一度見せてもらえますか!?」
『え? ええ……良いわよ! でもすぐ返してよ!』

 もう一度シールを剥がす。
 じっくり見て――

「あれ? これって我々の用いる紋章術と似てますね。でも……細かっ!? 複数の術式がビッシリ書かれてます! 何ですかこれ!? これ作ったヒト凄いですよ!」

 凄く興奮し始めた……

「誰が作ったんですか!?」
「さ、さあ? 発掘されたものなので……」

 というてい

「でも……現状では全く仕組みが分からない『ゼロ距離ドア』と違って解析すれば再現できそうです。是非とも私に譲ってもらえませんか!?」
「ま、まだそれ一枚しか見つかってないのでダメですよ……それ無いとネッココと会話することができなくなりますし」

 というてい

「それは残念……」

 と言いながら再びネッココの額 (?)にシールを戻す。

『アルトラ、フリアマギアと何話してたの!?』
「その額 (?)に貼り付けた翻訳魔道具シールを譲って欲しいってさ」
『ダメよ! これ無いとアルトラたちが何言ってるか分かんないんだから!』
「ああ、大丈夫ですよ。きっぱり断られましたから。しかしこれ一枚見つかってるってことは、今後見つかる可能性があるということですよね? 今後にね……」

 何か含みがある言い方だな……私のことを相当怪しんでいる。それ作ったの私じゃなくてカイベルなんだけどな……

「もう一枚見つかった時には是非とも優先して私に回してくださいね!」
「う、はい……一存では決められないかもしれませんが、善処します……」

 う~ん、また面倒な展開になってしまったな……
 カイベル、クリュー、ネッココと、私は一体いくつの爆弾を抱えてるんだ……?

「ま、何はともあれ、ネッココちゃんの診察に入りましょうか。土はどうしてます?」
「部屋に鉢植えを置いてその中に土と肥料を入れてます」
「水は? きちんと湿るくらいあげてますか?」
「さあ? それはネッココが自分でやってるので……」
「自分でやってる? マンドレイク自身が? そんな行動初めて耳にしますが……」
『だって樹の国は土ばっかだから、自分で寝床用意する必要無いもの! 寝る時は心地良いとこ探してそこに埋まるだけよ!』
「ほうほう、なるほど! 場所が違えば行動も変わるんですね! 興味深い!」

 これ、『我が家ではオレンジジュース飲んでるんですよ~』なんて言おうものなら、相当興味をそそる結果になってしまいそうだ……フリアマギアさんの前では絶対言ってはいけない……
 考えてみれば、植物自身が自分の寝る鉢植えの管理するってのもおかしい話だしね。
 人間で言えば、自分の寝床を整えてるだけなんだけど。

「それで寝床は自分で作ってるんですね?」
『きちんと作ってるわ! 水が無いとお肌も乾いてきちゃうもの! 寝る前にたっぷりね! 土も傷まないように毎日混ぜて空気の通りを良くしてるし!』
「寝る前? 一日一回ですか? それだと少ないと思いますよ」
「ああ、この子昼間は大体庭の花畑に埋まってるので。庭に居る間は水やりもカイベルがせっせとやってくれてますし」
「そうですか。自分で管理しているなら問題は無さそうですね。自己管理してるなら土の心地よい状態も把握しているでしょうし。樹の国に自生するマンドレイクと比べても多少ふっくらしているので栄養状態も悪くないでしょう。じゃあちょっと葉っぱを診させてもらいますね」

 ……
 …………
 ………………
 じっくり葉の表と裏を確認している。
 と思ったら、

 ブチッブチッ

『あ! 何するの!?』
「少ないですが虫に食われてる葉があったのでむしりました。ここ以外は特に問題は無さそうですね。葉を食べた虫も特別悪いものではないようです。マンドレイクは動き回る植物なのであまり虫が付かないようですが、それでも付くことはありますので、寝る前にでもチェックして、見つけた場合は払ってあげてください。中には穴を開けて潜り込み、中に卵を産み付けるような悪質なものもいますから。―――」

 それって……亜人に当てはめたら、お腹に穴開けて卵産み付けられるってことなんじゃ……?
 怖わぁぁ……ネッココのお腹に穴開かないように注意しておかないと!

「――虫に食われた葉もそのままにしておくと枯れて体調不良の一因になる可能性があるので見つけたらむしってください」
「わ、わかりました、あとさっきの肺活量を診る検査で、ほとんど呼吸できてなかったみたいなんですけど、これは大丈夫なんですか?」
「ネッココちゃんは植物なので大丈夫だと思いますよ。全身で息吸って吐いてます」

 光合成しているから高い肺活量があるのかと思いきや、フリアマギアさん曰く、ネッココは全身で呼吸してるらしく、それに反比例してクチ一点からの呼吸は極端に少ないそうだ。なお、亜人とは違って肺も存在しないためほぼ口で呼吸してるわけではないとのこと。

 その後、握力、背筋力、身体の柔らかさについて、筋力が弱すぎるんじゃないかと聞いてみたところ、ネッココに筋力自体が少ないためだそうだ。身体が小さいために亜人で言うところの筋繊維に当たる部分を上手く使えてないらしい。しかも今がもう既に成体のため今後の成長は望めないとのこと。
 なお、亜人とは違い、トレーニングによって筋肉を増やすということもできないらしい。
 まあ、彼女は木の『幹』の部分じゃなくて、『根っこ』の一部分だし、力が弱いのは仕方ないか。

「概ね良好な状態でしょう。筋力の弱さについてもアルトラ殿たちと生活しているなら深刻に考えるほどのものでも無いと思います。――」

 魔道具を付けて、再び小人の姿に変身させる。

「――と言うか……彼女はマンドレイクの中でも相当幸せな部類に属すると思います。普通のマンドレイクはユグドの大森林の弱肉強食のルールの中で生きているので、マンドレイクほど小さく弱い植物だと上位の動物や植物の捕食対象ですので」

 確かに……これだけ弱いと大森林では簡単に死んでしまいそうだ。

「研究目的以外で亜人たちと生活しているマンドレイクは初めて見ましたが、健康上の問題は無さそうですので普通に生活を送って大丈夫でしょう」
「そうですか、ありがとうございました。あの……くれぐれも他言はしないでくださいね」
「大丈夫ですよ。それよりも私はあなたと話したいです」
「あ、ああ、今日のところは……ありがとうございました! さよなら!」

 追及されないように急いで診察室を出る。
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