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第16章 大使就任とアルトレリア健康計画編

第427話 改めて身体検査再開

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 その後、検査が再開され、胸囲と腹囲を測られ、目と耳と味覚の検査。
 視力は一.五以上あった。もしかしたら二.〇以上あるかもしれない。生前は〇.一以下だったのに! メガネの必要も無いこの身体素晴らしい! ただし、暗所の視力は一般亜人並み。
 聴力は一般の亜人には聞こえない音まで聞こえてるとか。多分ジャイアントバットから『エコーロケーション』をコピーした影響かな? (第38話参照) あれのお蔭でレッドドラゴンたちが発する超音波も聞き取れる。ちなみに特別耳が良くなったというわけではないため、遠くで話している小声が聞こえるというわけではない。
 味覚にも問題無かった。味が強烈に感じられたりとかも無いちょうど良い味覚。

 他の者は、というと。
 ネッココは視力が〇.三程度らしい。植物だからあまり視力は発達していない? いや、それよりも根っこである彼女に視力があることに驚きだが。歩き回る植物だから視力に似た器官が発達したのかもしれない。
 聴力に関しては、リディアも超音波が聞こえているらしい。ネッココは平均的な亜人と同等。ただ、どうやら音の振動を感じ取って聞いてるらしく厳密には聴力ではないようだ。
 味覚は全員それなりの味覚。鋭くもなく鈍くもなく、一番味が感じられる味覚に収まった。
 なお、カイベルは味覚が無いものの、舌に垂らされた味を分析して人間の十六歳の平均的な味覚に留めたとか。視力聴力も人間の十六歳頃の平均値。多分そうなるように調整したんだろう。

 次に肺活量の検査、握力検査、背筋力検査、前屈による身体の柔らかさを検査する。どれも問題無し。前屈しても痛みが無いから限界まで前屈し続けたら心配された。

「リディアちゃん肺活量凄いですね~! それに身体の柔らかさも!」

 この検査で驚いたのはリディアは普通の亜人の三倍の肺活量があるらしいこと。彼女、確かエラ呼吸のはずだが……はて、肺活量とは?
 握力、背筋力も一般の亜人を遥かに上回る。運動能力だけで言うならトロルたちより確実に上。
 身体の柔らかさも、真の姿がイカだからかなり柔らかい。と言うかふにゃふにゃ。

 この検査項目で難儀していたのはネッココ。

「あの……ネッココは大丈夫なんですか? 肺活量、ほぼ無いんですけど……これって呼吸が正常にできてないってことなんじゃ……?」

 『呼吸不全で死なんか?』と思わず心配になる。

『でも私別に苦しくないわ!』

 確かに苦しそうではない。それどころか植物の割には元気いっぱいに動いてるが……

「え、えっと……どうなんでしょう? わ、私には分からないので後でアスク先生に聞いてください」

 と、トロルの役所職員の言。そりゃただの助っ人要員なのに医療のことなんか分かるはずもないか。

 続いて握力、背筋力、前屈による身体の柔らかさを検査したが、いずれも平均を大きく下回った。どうやらこれについてもアスク先生に聞いておかなければならないようだ。
 なお、カイベルはこの項目も全てにおいて平均値付近。

 次はアスク先生による心音の検査。
 私、リディア、カイベルは問題無し。
 カイベルは先日作った疑似心臓が功を奏したようで、怪しまれることもなかった。これで異常な生物と思われることも無いだろう。
 問題はここでもネッココ。

「アルトラ殿、ネッココさんは心音が全くしませんが……彼女は小人ではないのですか? その替わりに何か流れるような音がしますが……」

 ネッココが植物だとまだ知らないアスク先生には、心音がしないことが不思議らしい。

「はい、彼女は植物で――」

 ある程度の事の経緯を説明。もちろんマンドレイクだということだけは伏せる。魔道具装着については、もうフリアマギアさんにも言ってしまったし話しておいた。
 それにしても“何かが流れる音”? 体内の水分が動く音かしら?

「そうですか。それなら多分問題無いでしょう。木の精霊なら私の分野なのですが、植物だとすると私は専門外なので申し訳ありませんが詳しく話すことはできません」
「あ、はい。そうですか。今元気なら問題無いと思います」

 次に脚気の検査。
 これもネッココを除いて全員正常。ネッココは膝を打っても反応無し、これも恐らく植物だからだろうという結論に。
 脚気検査に関連付けて、それとなくトロル族たちの栄養状態について聞いてみたところ、全員問題無く栄養が足りているとのこと。旧トロル村の頃と比べれば町全体の栄養状態もかなり良くなったようだ。

 そして血液検査のための採血。
 私の左腕に針を刺……さらない……

「あれ? アルトラ殿、何か魔法のようなものでガードしてますか? 針が刺さらないのですが……」

 ここに来て私の防御能力発動。

「すみません、私には攻撃とみなしたものを防御してしまう能力があるんです。『針で刺されると痛い』と想像したからかもしれません」
「そんな能力が……!? それは凄い能力ですね。しかし困りましたね……刺さらないのであれば血液検査はできませんが……いかがいたしますか?」

 多分自分で意図して刺そうとすれば刺さるだろうから、それで採血はできるだろうけど…… (第9話参照)
 調べられたら調べられたでまた面倒な結果が出そうだし、無理に調べてもらう必要も無いか。ここは――

「では結構です。現時点の私は特に身体に不調とかもありませんので」
「そうですか、分かりました。また何か体調不良など起こった時にお越しください」

 都合の良いことに、調べられなくて済む口実が出来た。

 その後、リディアとカイベルの血が採られた。
 カイベルの血はここに来る直前に『血管のような弾力の繊維』と共に左腕の関節辺りに仕込んでおいた。この血液のDNAも恐らく生前の私のものか、それに似たものだろう。
 ネッココは体内を流れる樹液を一応採取。と言ってもアスク先生には植物のことは分からないため、ネッココを診察した後から少々狼狽しており――

「い、一応私の患者さんなんで、調べてみます。が、検査結果はあまり期待しないでください」

 と消極的な言葉。

「ネッココ、呼吸とか筋力とか弱いみたいなんですけど、それはどうなんでしょう……?」
「う~ん……それも私では何とも……知り合いに植物に精通してる学者がいるので、少しお時間をいただきますがその方に聞いてみますか?」

 アルトレリアのある場所が場所だし、結果が分かるのはきっと何ヶ月も先になるだろう……
 でも、別に誰かに聞かなくてもカイベルに聞けばネッココの状態も分かるだろうし、ここは断っておくか。

「いえ、判明するまで時間がかかりそうですし――」

 『結構です』と言葉を続けようとした矢先、フリアマギアさんが名乗りを上げた。

「植物なら私が診られますので、その樹液は私が検査しておきますよ」

 あ……そう言えばさっき植物のことはそれなりに分かってるって言ってたな……ってことは、ネッココがマンドレイクだってバレちゃうんじゃ……

「あ、ネッココ、健康そうなので調べなくても大丈夫です!」
「でもせっかく植物学者でもある私がここにいるわけですから、遠慮しなくても良いですよ? 樹液はもう採取済みですし」

 くぅ……こんな間近に植物学者がいるなんて……
 この段階で否定するのはもはや不可能に近い……仕方ない……

「フリアマギアさん! ネッココの結果が出たら真っ先に私に教えてください! た、他言無用で!」
「………………あ~~なるほど……何か調べられるとまずいことがあるんですね?」

 焦り過ぎたか!? 意図を見抜かれた!?

「問題無いですよ。守秘義務があるので誰かに話したりとかしませんから。それと今までの検査を鑑みるに、ネッココちゃんは別個に検査した方が良さそうですね。今回は簡易検査なので後はいくつか質問するくらいで終わりですから」

 うぅ……これはもう仕方ないか……この状態で植物を診られる学者が居るとなると拒否もできない……

「じゃあ……お願いします……」
「では、今日の検査が終わり次第、ネッココちゃんの検査をするので、今日検査に来ているみなさんが帰り次第私のところに来てください」

 そして最後にネムさんによる歯科検診。

「ネムさん、麻酔医って言ってたのに歯科検診もできるんですね」
「はい~、色々とやってましたから~。これでも結構長く生きてるんですよ~」

 サキュバスは長命な魔人種に属する。若く見えてもそれなりの年齢なのだろう。

 そして歯科検診の結果は、これもネッココを除いて全員問題無し。みんな丈夫だ!

「あれ~? ネッココちゃんの歯、これ歯じゃないですねぇ~。弾力があります~」

 ネッココを診断したところ、歯があるように見えてる部分はどうやら彼女が付けてる魔道具による擬態のようだ。実際には根っこと同じ成分らしく、本物の歯のようなエナメル質の硬さは無いらしい。

「見た目は歯なのに不思議ですね~。はい、じゃあネッココちゃんも多分問題無いですよ~。みなさん虫歯が全く無くて素晴らしいです~」

 全員の歯科検診が終わり、最後にネッココの詳しい健康診断に移る。
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