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第12章 臨時会談編

第297話 第二壁の作成と野生生物の捕獲

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 そして臨時会談から二日後。
 四月上旬――

「さて、この町を拡張するために、第二壁を作りますか」

 手始めに第一壁 (アルトレリアを囲んでる壁)から三十キロほど離れた西の端っこにやってきた。逆側の東の端っこにはカイベルを置いて来ている。
 私はここから東に向かって、カイベルには西から私のいる東へ向かって半円状に壁を作っていき、最終的には合流する手筈。その距離、およそ百五十キロ (カイベル調べ)。端数まで言ってた気がするけど忘れた。

「とりあえず簡易壁を作ろうとここへ来たけど……距離考えると途方も無い……」

 幸いなのはこの世界では人力だけでなく、魔法も使えたってところね。人力だけでこの距離の壁を作ろうと思ったら、基礎だけでも一体何ヶ月かかるか……
 通信魔法で百五十キロ先にいるカイベルと連絡を取る。ちなみにこの通信魔法は電波を使うため雷魔法の一種に当たる。

『カイベル、私からだとどっちの方向へ壁を作って行けば良いのかわからないんだけど、壁を作っていく方向は今私が向いてる方向で合ってる?』

 カイベルには私の向いている方向が認識できているため、壁を正確なルートで建造するには彼女の言葉が頼りだ。

『もう少し右方向を向いてください』

 方向を少し右へ微調整。

『その方向でOKです。そこから一.三三三三……キロメートル先まで壁を作ってください』
『細かいよ! そんな微調整出来ないって!』
『でしたら、ある程度適当でも良いので、一.三キロメートルと少し程度の壁を作ってください』
『分かった。じゃあとりあえず鉄骨をブスッーー!!』

 ドスドスドスドスッ!

 物質魔法で鉄骨を作り、地面に杭打ちしていく。

『その上に壁をドーン!!』

 ゴゴォォォオオンン!!

 土魔法で鉄骨の上に簡易壁を作り出す。鉄骨の上に壁を作ることで、土魔法だけで作ったものの数倍から数十倍の強度になる。
 直線なら一回で十キロできるんだけど、地形の関係上、半円状にしないといけないということで細かく微調整しながら作らないといけない。

「一回目の壁はこんなもんかな? 粗さとか形とかちょっと気になるけど、まあ簡易壁だし良いか」

 また通信魔法でカイベルに繋げる。

『カイベル、二回目の壁を作るけど、方向はこっちで合ってる?』
『もう十歩ほど後ろへ下がってください。それで少し左方向へ向いて微調整を…………そこでOKです』


   ◇


 そんなこんなで、物質魔法で鉄骨を作って杭を打ち、その上に土魔法で壁を作ることを繰り返すこと数十回。
 六時間が経過。

「あ!」

 西から壁を作りながら移動してきたカイベルが見えて来た。
 二人の壁が合流。

「お疲れ様でした」
「ホントに疲れたよ……あなたの魔力も補充しておかないとね」

 私とカイベルが作った壁を見比べてみると――

「あなたの壁、超綺麗ね……それに引き換え私の作った壁は……」

 あちこちデコボコ……
 見ただけでどっちが作ったか一目瞭然……

「簡易壁ですので、デコボコでも問題ないでしょう。あとは建築部門にお任せしておけばきちんと整えてくれるはずです」
「まあそうね」

 そういうことにしておこう。基礎は整えたからあとは職人さんにお任せだ。
 今日のところはこれで終了。


   ◇


 その数日後――

 今日は先日作った簡易壁の内側にいる野生生物を追い出す計画。
 この日のために、生態調査部門を招集。それに付け加え、一緒に捕獲作業を行ってくれる人を数日かけて役所で募集していた。
 その結果、仕事が休みの人たちにも集まってもらえ、二百人を超える人員が確保できた。

「今日は第一壁と第二壁の内側にいる野生生物を追い出したいと思いますので、見つけ次第捕まえてください。私と生態調査部門で捕まえたものは第二壁の外側へ逃がしますので、それ以外で捕まえた方々は生態調査部門のところへ引き渡すか、もしくは自分の経営するお店の物資にすることも許可します。なお本日のお給金は日払いで渡しますので、帰りに受け取って帰ってください。」

 第一壁と第二壁の間はかなり広い。
 直線距離で三十キロあるから、その中にいる野生生物を見つけて捕まえるのは中々大変だと思う。

「今回は人員をバラけさせるため、十のエリアに通じる『簡易ゼロ距離ドア』を設置しましたので、この場所から十ヶ所へ移動することができます。十班に担当を分けてるので、それぞれの班ごとに捕獲作業をお願いします」
「“簡易”って何ですか? 普通のゼロ距離ドアと何が違うんですか?」
「本日の零時を回ったら自動的に消滅します。余裕を持って零時に消滅するように作ってますが、終了時間の十七時頃には暗くなってると思いますので、作業が終わったら速やかに撤収してください。もし零時を回っても居残っている場合は徒歩で帰ってくるハメになります」
「消滅って……消え去るんですか?」
「そうですね。亜人ひとが近くにいる間は消滅しないようにセキュリティーを設定してありますが、消滅に巻き込まれると異空間のどこへ行ってしまうか、私にも分からないので零時前にはドアに絶対に近寄らないようにしてください。あと、これを各班に三つずつ渡しておきます」

 各班に『転送玉』を配る。 (第33話参照)

「何ですかこの黒い玉?」
「これは魔力を込めて投げつけると、私が一瞬でそこへ移動するものです。自分たちじゃ手に負えないっていう野生生物が出たら呼び出してください」
「はぁ……そうなんですか」

 転送玉のことを知っているメイフィーとナナトスがこれに反応した。

「あ、それ久しぶりに見ました!」
「今コレ必要なんスか? 町全体で見ても、今現在のトロルひとたちはあの時よりかなり強くなってるッスよ? 魔法だって使えるようになってるッスし。どんなのが出て来たって対処できるんじゃないッスか?」
「相手がカトブレパスでも?」
「大丈夫ッスよ」

 おお……見られただけで石にされる生物相手に凄い自信だ……

「でも念のためよ」

 『転送玉』を知らない者が大多数なので、一応使い方を実演して見せる。
 ほとんどの者が知らないため「「「おお~~!」」」という驚きの声が上がる。
 久しぶりの新鮮な驚きの声にちょっと気を良くする。

「ほう、便利だな。一つ我にくれ」

 フレアハルトが催促してきた。

「……何に使うの?」
「お主を呼び出したい時に呼び出せるではないか」

 便利扱いする気か?

「残念だけどこの玉の効力は今日で無くなるのよ」
「何だ、それでは貰っても仕方ないな」

「あの、質問良いですか?」
「どうぞ」
「二つ以上同時に投げたらどうなるんですか?」
「全く同時に魔力が込められるということは無いので、一番最後に投げられたところへ移動します。なので無闇やたらに投げないようにお願いします。投げるのは命の危機がある時か、あまりにも不可解なものがあった時だけにしてください。私も一応、一度に二つ投げられた時を想定して分身体を出しておきます」

 分身体を出現させる。

「なお、今フレアハルトに話しましたが、この『転送玉』も『簡易ゼロ距離ドア』同様に本日の零時をもって効力を失います。それと、私は色んな班を移動しながら捕獲対象を探しますので、何かあったら声をおかけください。ではみなさん、なるべく沢山の野生生物を捕獲してください。作業開始!」

   ◇

 十個の簡易ゼロ距離ドアがある地点に、捕獲引き渡しをするための本部を作っておく。

「ハントラ、引き渡し所の担当をお願いできる?」
「私が!? 私は現場に行った方が良いんじゃないの? 言ってみればこの町の野生生物捕獲のエキスパートだし」

 生態調査部門の責任者ハントラ。町に畑が作られる頃、農作業をやるようになったメイフィーから生態調査部門になる前身機関を引き継いだのが彼女。ロクトスの上司に当たる。

「捕獲したものを捕まえておくのも経験者の方が良いと思うのよ。それにあなた樹魔法で檻を作れるでしょ? ここで捕獲したものの管理をお願い」
「ホントは現場に行きたいだけど……わかりましたよ……」

 捕獲作業そういうのがやりたくて生態調査やってるんだろうし、ここでじっとしてるのは退屈かもしれないが、素人が捕獲したものを管理するのも心配だから経験者にやってもらうのが良い。無理言ってでもここの管理は彼女に任せたい。

「じゃあ私も捕獲に行ってくるから、お願いね」

   ◇

 そういうわけで、私は捕獲担当。
 捕獲の招集に応じてくれた者たちは、みんな思い思いの道具を持参している。
 網を持っている者、投網を持ってる者、杖を持っている者。
 何で杖を持っているかというと、古来より杖は魔力を増幅させられるものとされているらしい。つまり、杖を持っている者は捕獲用の魔法が使える者たち。

 捕獲に使える魔法は結構幅広い。
 氷魔法なら対象を凍らせてしまえばそのまま保存食にも出来る。雷魔法なら相手を痺れさせて捕獲。樹魔法や物質魔法なら草や網を作って捕獲できる。火魔法なら対象の周りを炎で囲んでしまえばもうそこから逃げられない。闇魔法は拘束するための魔法が豊富で影縛りや麻痺毒を作り出して浴びせかければ動かなくできるなどなど、工夫次第で相手を無力化できる。
 水・土・光魔法でも工夫次第で捕獲用の魔法は作り出せる。

「さて、私も捕獲を始めますか」
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