建国のアルトラ ~魔界の天使 (?)の国造り奮闘譚~

ヒロノF

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第8章 通貨制度構築編

第196話 冬が訪れ始めている……?

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 大分肌寒い気候になってきた。転生されたこの身体でも、二十度までは感じられるから、肌寒さは感じている。
 もう厚着が必要になっている気がするわね……
 町のみんなも長袖を着るものが増えてきた。それでも寒そうにしている者がいる。

「最近寒いな」
「こんなこと今まで無かったから、どうしたら良いかと対策を考えてるよ」
「これ以上寒くなったら死ぬんじゃないか? 確か気温が低いってだけで死ぬことを凍死とか言うんだろ?」

 凍死!?
 もうそんな危険な状態なのか!!
 いや! 住民の格好を見る限り、まだそこまででは無さそうだが、それでも早く対策しないとまずいかも!
 夏辺りに冬対策考えて、すっかり忘れてた!!
 ギリギリになって急に対策に動き出しても「もう遅い!」ってことになりそうだ。

 急ぎカイベルのところへ。


   ◇


「カイベル! 電気不要のストーブと、電気不要のコタツと、暖炉の設計図を印刷して!」
「突然どうしたのですか?」
「本格的に冬に向かってるみたいだからドワーフさんに防寒対策をお願いしたいと思う」
「わかりました。ただ……」
「何か問題が……?」
「なぜそんな面倒なことをするのかと思いまして。アルトラ様なら、町全体を暖房バリアで覆ってしまえば全て解決なのでは?」
「それは何回も思ったよ。夏付近も思ってた、冷房バリアで覆ってしまえば楽だなと。でも、もし私が死んだ時に、このバリアが維持出来たままなら良いけどそれは現時点ではわからない。それに私がいなくなった後に住民が代替案を考えられないのではどうしようもないから、バリアは極力使わないようにしようと思ったの。それにこのバリアは私以外には動かせないから、仮にこの町がもっと大きくなった場合、暖かい場所と寒い場所で格差が生まれてしまう」
「それで暖房設備ですか。しかしそれだとしても、アルトラ様が率先して動いているという事実は変わらないのでは?」
「まあそうね。でも、『私一人で完結している』か『何かが開発されて後々に受け継がれて行く』かで大きな違いがあるし。始まりは私由来だったとしても、その技術を受け継いでその後、アルトレリアの住人が冬や夏を過ごせるよういなるならそれで良いと思ったの」
「なるほど、効率を求め、死の概念の薄い自動人形オートマトンである私には思い至らない考え方でした。その考え方は一つの手段としてアップデートしておこうと思います」

 あ、そうだ、もしかしてカイベルに聞けば、冬が訪れるかどうかわかるんじゃない?
 以前火山の噴火時期とか、冥球が水没する時期とかを予想してたから、冬が訪れるかどうかくらいは分かるかも!
 冬ほど寒くならないなら、防寒対策する必要は無いし。もしかしたら、今が少し肌寒いだけで、今後はまた徐々に暖かくなる可能性だってある。

「カイベル、アルトレリアに冬って来るの?」
「さあ? 現在のところは何とも言えません」
「あなた何でもわかるんじゃないの?」
「アルトラ様、勘違いされているようですが、私は未来が見えるというわけではありません」
「え……? だって今までだって予想してたじゃない。潤いの木を植えた山は向こう百年は噴火しないとか、潤いの木を放っておくと数十年後には世界が水没するとか、次の日は雨が降らないとか」
「それは予知していたわけではなく、確定されている情報を元に予測したに過ぎません。火山は地中のマグマの動きから予測し、世界の水没は潤いの木の湧水量から、この期間内からこの期間の間で“恐らく”水没が起こると予測しただけです。実際に『この日に噴火する』と噴火する日にちまで特定したことは一度も無かったと思いますが……」
「そういえば……そうね……じゃあ、天気を予知したのは?」
「現在の確定された気象条件から次の日は確実に晴れる、確実に雨が降ると予測しただけですね。一週間以内なら一〇〇パーセント当てられますが、そこから後ろへ行くほど予測が外れる確率が高くなります。二週間後は私の分析では七十二パーセントほど、三週間後はほぼ五分五分。それ以上後ろへ行くと劇的に予測精度が落ちます」
「じゃあ、冬が訪れるかどうかは……?」
「現時点ではわかりません」

 くっ! 結局冬が訪れるかどうかはわからないのか……!
 防寒対策はしないといけないのね……

「ただ……この一ヶ月の気温の推移を鑑みると、徐々に下がり傾向にあります。この推移から予測するなら、冬が訪れると思って間違いないのではないかと」
「そっか、やっぱり冬は来るのね……じゃあ改めて設計図の印刷をお願いしたいんだけど」
「わかりました」
「それと、急ぎデンキヒツジの毛を大量に刈って来てもらえる? 分身体をゲート役にしておくからなるべく大量にお願い」
「わかりました」

 スキル『分身体』を使う。分身体は思考回路が私と同じだから何をするかわかってると思う。

「じゃあゲート役よろしくね、分身体わたし
「了解! じゃあすぐに行ってくるよ!」

 羊の毛を“大量に”と頼んだため、この後カイベルと分身体の二人は一週間ほど帰って来なかった。

 本体わたしはすぐにエルフィーレの縫製所へ向かう。


   ◇


「え? 防寒具ですか? 確かに最近寒いですよね、アリサちゃんとレイアちゃんが震えながら遊びに来ますよ。これ以上寒くなるようなら家から出られなくなるって言ってましたね」

 いつの間にか「ちゃん」呼びになるくらい仲良くなっているらしい。

「遊びに来た時はあの辺りでずっと動かず話をしてますね」

 あの辺りと指さされたところには布団が二つ綺麗に畳まれて積んである。
 まさか、アレにくるまってお話するのか?
 最早定位置だから、二人用にあそこに布団を置いてあるのかしら?

「あと、最近は自分でも作りたいってことで、あそこで作業してもらうこともありますよ。出来もそこそこ良い物が作れるようになってきました」

 布団にくるまりながら服を作ってるのか。
 寝ながら仕事できるのか~……良い職場だな~。
 エルフィーレの方に向き直る。

「…………防寒具についてなんだけど、出来るだけ沢山作れる?」
「素材を調達してくださるのなら、何とか総動員してやってみますけど……最近レッドトロルさんが何人も入ってくれたので、作業効率も良くなりましたし」

 この素材調達のため、今分身体とカイベルが羊の毛刈りに行ってくれてる……はず!
 今度はフレアハルトの時とは段違いの羊毛が必要になるはずだ。

「じゃあお願い! このまま寒くなってくると死人が出かねないから!」
「ホントですよね。アクアリヴィアとあまりにも違う気候なので、ちょっと戸惑ってますよ」
「あの国は比較的温暖で凄く生活し易いしね」

 リナさんが横から入って来た。

「それで、どういったのを作れば良いんですか?」

 ファッション的な部分の拘りとかを聞きたいのかしら? そういうのは詳しくないからな……一応おおまかにも伝えてみるか。

「紙とペンある?」
「どうぞ」

 即席でダウンジャケットのような絵を描く。

「羊の毛を使って、こんな感じのモコモコした服をお願いしたいんだけど」
「こんなのアクアリヴィアでは見たことないですね、ちょっと待っててください、私が持って来たファッション誌の中に似たような服があったと思います」

 少ししてファッション誌を持って来てくれた。

「こんな感じのやつですかね?」
「そうそう、こんなイメージ」

 と返事はしたものの、これは私が想定するものより大分厚着に見える。地球で言うところのロシア辺りの極寒地帯の服装だ。よく見ると魔界文字で「氷の国アイスサタニアのファッション」の文字。氷の国と言われるだけあってかなり寒いらしい。

「これって氷の国アイスサタニアで着られるような服ですよ? 相当寒いところ用のものですけど、アルトレリアがそこまで寒くなるのを想定してるんですか?」
「これはちょっと寒すぎる土地向けだから、これよりは少しだけ薄着が必要じゃないかと予想してる。ここまで寒くならなければ良いとは思ってるんだけど、寒くなってからこれを作るとなると、凍死者が出てしまって『もう遅い!』状態にもなりかねないからね」

 それを聞いてエルフィーレから質問が来た。

「あの……もしかして……住民千四百人分全部作る……とか? ……ではないですよね?」
「それが理想なんだけど、流石にそれは無理だろうから、他の方面でも防寒対策をするよ。ちゃんと休みも取って出来る範囲でお願い!」
「そ、そうですよね、全員分作れなんて言われたらどうしようかと……それで、素材は……?」
「あとでカイベルと私が大量に持ってくる手筈だから!」
「でも……アルトラ様って……え~と、何て言うんですかね、暑い時も寒い時も同じ格好してますよね。いつも肩と背中が出たユラユラ動く服着てますし……」
「………………」

 エルフィーレは、多分『季節感が無い』って言いたいんだろうけど、「季節」という単語がまだここには無いから言葉に詰まったんだろうな。
 どれほど寒くなっても、私は肌寒い程度しか寒さを感じないから、どんな服着てても体感温度はそれほど変わらないのよね……

「と、とにかく、素材が調達でき次第、とりかかって! お願いね!」
「「わかりました」」

 そう言い残し、次の場所へ。
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