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第8章 通貨制度構築編
第195話 客役からの疑問
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銀行業務訓練が始まって数日――
客役に選ばれた町民は、言われるままのことをやって、不思議な顔で銀行を出て行く。一応少しではあるが報酬が貰えているので、最初の方は何をさせられてるかわからなくても特に疑問を口にしなかった。
が、一週間もすると流石にみんな疑問の方が強くなってきたようで、「一体何をやらされてるんだろう?」という顔になってくる。
全員が全員疑問を口にしないわけもなく、役所からも客役として出張させていたため、受付嬢のマリリアが一番最初に私に訊いてきた。
「アルトラ様~、これ私たち一体何をさせられてるんですか?」
「銀行員の練習に付き合ってもらってるのよ。今やってるのはお金の入金と出金の練習ね。あなたたちにも後々関係あることだから、先に入出金の練習出来るのは、正式に運用されるようになってから勝手が分かって良いかもよ?」
「はぁ……そうなんですか」
私が回答しても、何のことかわからないといった様子。
町中で「昨日銀行行って来たよ」という話題で持ちきりになり、それとセットのように「で、あれは何をやらされてるんだろうな?」という言葉に続く。
そのため、この後からは町中を歩いていると続けざまに、銀行に行った経験のあるトロルたちから質問を受けることに……
ナナトスにマリリアと同じ質問をされ、メイフィーに同じ質問をされ、イチトスに同じ質問をされ、しまいにはリーヴァントにも同じことを聞かれた。そして時には道すがら三、四人の集団に同じことを聞かれた。
銀行員の訓練に参加してもらってる町民たちは、全員「何をやらされてるの?」と思っているらしい。
まあ、そもそも預けたり引き出したりしてるのが“貴重なお金”じゃなくて、白紙に数字を書いただけの疑似通貨って時点で、意味を見出しにくいのかもしれないが……
そして、出張して来てくれたシーラさんは、というと――
こちらも「この訓練方法で良いのかしら……?」という表情。自分で提案した訓練方法なのだが、そもそも銀行業務を行う場にズブの素人が入行することなどあり得ないわけだから、多少……と言うかかなり困惑しているようだ。
しかも、使っているものがちゃんとしたお金ではなく、ただの白紙に数字が書かれただけの疑似通貨である。
彼女にとっても初めてのことだらけで、どう対応したら良いか苦慮しているようである。
お金が直接動かない融資業務については、銀行内で行員役と客役に分けて対応の練習をしてもらう。
為替業務は……まだ電気料金やら水道料金やらの概念が無いし、会社も出来てないから振り込みなんてものも存在しない。これについては現在のところは保留。必要になった時に申し訳ないけどまたアクアリヴィアに出張をお願いしよう。
「ところでシーラさん」
「はい?」
「出来ることならお金の管理をデータでしたいと思ってるんだけど、この世界にパソコンってあるんですか?」
「ございますよ。アクアリヴィアではデータで管理されています」
「それっていくらぐらいします?」
「それなりに安くなってきましたけど……まだ高いですよ、恐らく四、五十万くらいはするのではないかと」
人間界と比較すると高いな……二、三倍する。
でも今の手持ちでも買えないことはないから買っておいた方が良いかも……
「ああ、そういえば最近亡者の新しい技術者の方が入ったらしいので、もう少し待った方が良いかもしれませんよ?」
亡者ってことは地球由来の技術者ってことか。
「その方が入ったことで、本体の痩身化が実現したとか」
そういえば、アクアリヴィアの銀行で見たパソコンはでっかくて厚いやつだったな……
じゃあ、今後のパソコンは段々薄くなっていくのかな。
「パソコン画面って白黒?」
「いえ、もう大分前からカラーですよ」
あれ~?
電力都市だから機械技術はエレアースモの方が進んでるのかと思ってたけど……
「エレアースモのテレビ白黒だったけど……」
「あ~、あちらは土地柄が危険地帯なので亡者の方はあまり行かないようです。脱走亡者の多くは一番初めに比較的環境が穏やかなアクアリヴィアを訪れるので、他の土地へは地球由来の技術は中々伝わらないのではないでしょうか? エレアースモの技術は恐らく独自に開発されたものではないかと思います」
「え、危険地帯だって言ったって、空間魔法で迎え入れれば簡単にいくんじゃ……」
「…………アルトラ様は簡単に仰りますが、そもそも空間魔法を使える亜人は砂粒ほどの確率でしか生まれないのです。居るかどうかもわからない人物に対し、希少な空間魔術師の人員を割くことなどできません」
「あ、そうなんですね……」
自分が空間魔法をポンポン使うから、簡単に考えてたわ……
「そこに地球から地獄に送られた犯罪者で、更にそれがカラー化できる技術者で、更に更にそこから知性を取り戻して脱走を企て、無事に脱走できた人を確保すると考えると、確率的には物凄く低い確率でしか技術者を確保できないわけです。それこそ天文学的な確率になってしまうかもしれません」
ああ、技術者を確保できるまでに高いハードルがいくつもあるのか。そりゃ地球の技術者居ても中々広まらないわけだわ……
そもそも高い技術を持った人が犯罪者になって地獄行きにならないといけないのだから、もう既に最初の時点がかなりハードルが高い。
「各国にカラー化の波が訪れるのは独自に開発するか、我が国の技術者が育ったのち、そこから徐々に各国に伝えられるかというところになるのではないでしょうか?」
魔界全土でカラー化されるには、まだまだ時間がかかりそうだ。
◇
その後日シーラさんより質問を受ける。
「すみません……アルトラ様」
「はい?」
「投資信託や保険、資産運用についてはいかがいたしますか?」
魔界にもそんなのあるのか! ちゃんとしてるわ、流石七大国アクアリヴィア!
元・トロル村が極貧な感じだったから、アクアリヴィアの話を聞くと次元が違うんじゃないかってくらい文明が違うのを痛感する。
う~ん……通貨が今まさに出来るって時に、これらって必要かしら?
現状これを取り入れるとむしろややこしくなるのでは?
まだ通貨制度始まってもいないから、誰もお金持ってないしね。
投資も保険も、元手があって成り立つものだから、むしろ今は分かりにくいものがプラスされて邪魔になってしまう可能性すらある。
「その辺りは、通貨制度が始まってからまたおいおい考えることにします。まだどういう形に転ぶのか不透明な部分しかないので、現状のところは入出金と、商売を始めるための融資程度に留めておいてください」
そして二ヶ月間の銀行員 (予定の亜人たち)の訓練と試行錯誤がみっちり続くことになる。
客役に選ばれた町民は、言われるままのことをやって、不思議な顔で銀行を出て行く。一応少しではあるが報酬が貰えているので、最初の方は何をさせられてるかわからなくても特に疑問を口にしなかった。
が、一週間もすると流石にみんな疑問の方が強くなってきたようで、「一体何をやらされてるんだろう?」という顔になってくる。
全員が全員疑問を口にしないわけもなく、役所からも客役として出張させていたため、受付嬢のマリリアが一番最初に私に訊いてきた。
「アルトラ様~、これ私たち一体何をさせられてるんですか?」
「銀行員の練習に付き合ってもらってるのよ。今やってるのはお金の入金と出金の練習ね。あなたたちにも後々関係あることだから、先に入出金の練習出来るのは、正式に運用されるようになってから勝手が分かって良いかもよ?」
「はぁ……そうなんですか」
私が回答しても、何のことかわからないといった様子。
町中で「昨日銀行行って来たよ」という話題で持ちきりになり、それとセットのように「で、あれは何をやらされてるんだろうな?」という言葉に続く。
そのため、この後からは町中を歩いていると続けざまに、銀行に行った経験のあるトロルたちから質問を受けることに……
ナナトスにマリリアと同じ質問をされ、メイフィーに同じ質問をされ、イチトスに同じ質問をされ、しまいにはリーヴァントにも同じことを聞かれた。そして時には道すがら三、四人の集団に同じことを聞かれた。
銀行員の訓練に参加してもらってる町民たちは、全員「何をやらされてるの?」と思っているらしい。
まあ、そもそも預けたり引き出したりしてるのが“貴重なお金”じゃなくて、白紙に数字を書いただけの疑似通貨って時点で、意味を見出しにくいのかもしれないが……
そして、出張して来てくれたシーラさんは、というと――
こちらも「この訓練方法で良いのかしら……?」という表情。自分で提案した訓練方法なのだが、そもそも銀行業務を行う場にズブの素人が入行することなどあり得ないわけだから、多少……と言うかかなり困惑しているようだ。
しかも、使っているものがちゃんとしたお金ではなく、ただの白紙に数字が書かれただけの疑似通貨である。
彼女にとっても初めてのことだらけで、どう対応したら良いか苦慮しているようである。
お金が直接動かない融資業務については、銀行内で行員役と客役に分けて対応の練習をしてもらう。
為替業務は……まだ電気料金やら水道料金やらの概念が無いし、会社も出来てないから振り込みなんてものも存在しない。これについては現在のところは保留。必要になった時に申し訳ないけどまたアクアリヴィアに出張をお願いしよう。
「ところでシーラさん」
「はい?」
「出来ることならお金の管理をデータでしたいと思ってるんだけど、この世界にパソコンってあるんですか?」
「ございますよ。アクアリヴィアではデータで管理されています」
「それっていくらぐらいします?」
「それなりに安くなってきましたけど……まだ高いですよ、恐らく四、五十万くらいはするのではないかと」
人間界と比較すると高いな……二、三倍する。
でも今の手持ちでも買えないことはないから買っておいた方が良いかも……
「ああ、そういえば最近亡者の新しい技術者の方が入ったらしいので、もう少し待った方が良いかもしれませんよ?」
亡者ってことは地球由来の技術者ってことか。
「その方が入ったことで、本体の痩身化が実現したとか」
そういえば、アクアリヴィアの銀行で見たパソコンはでっかくて厚いやつだったな……
じゃあ、今後のパソコンは段々薄くなっていくのかな。
「パソコン画面って白黒?」
「いえ、もう大分前からカラーですよ」
あれ~?
電力都市だから機械技術はエレアースモの方が進んでるのかと思ってたけど……
「エレアースモのテレビ白黒だったけど……」
「あ~、あちらは土地柄が危険地帯なので亡者の方はあまり行かないようです。脱走亡者の多くは一番初めに比較的環境が穏やかなアクアリヴィアを訪れるので、他の土地へは地球由来の技術は中々伝わらないのではないでしょうか? エレアースモの技術は恐らく独自に開発されたものではないかと思います」
「え、危険地帯だって言ったって、空間魔法で迎え入れれば簡単にいくんじゃ……」
「…………アルトラ様は簡単に仰りますが、そもそも空間魔法を使える亜人は砂粒ほどの確率でしか生まれないのです。居るかどうかもわからない人物に対し、希少な空間魔術師の人員を割くことなどできません」
「あ、そうなんですね……」
自分が空間魔法をポンポン使うから、簡単に考えてたわ……
「そこに地球から地獄に送られた犯罪者で、更にそれがカラー化できる技術者で、更に更にそこから知性を取り戻して脱走を企て、無事に脱走できた人を確保すると考えると、確率的には物凄く低い確率でしか技術者を確保できないわけです。それこそ天文学的な確率になってしまうかもしれません」
ああ、技術者を確保できるまでに高いハードルがいくつもあるのか。そりゃ地球の技術者居ても中々広まらないわけだわ……
そもそも高い技術を持った人が犯罪者になって地獄行きにならないといけないのだから、もう既に最初の時点がかなりハードルが高い。
「各国にカラー化の波が訪れるのは独自に開発するか、我が国の技術者が育ったのち、そこから徐々に各国に伝えられるかというところになるのではないでしょうか?」
魔界全土でカラー化されるには、まだまだ時間がかかりそうだ。
◇
その後日シーラさんより質問を受ける。
「すみません……アルトラ様」
「はい?」
「投資信託や保険、資産運用についてはいかがいたしますか?」
魔界にもそんなのあるのか! ちゃんとしてるわ、流石七大国アクアリヴィア!
元・トロル村が極貧な感じだったから、アクアリヴィアの話を聞くと次元が違うんじゃないかってくらい文明が違うのを痛感する。
う~ん……通貨が今まさに出来るって時に、これらって必要かしら?
現状これを取り入れるとむしろややこしくなるのでは?
まだ通貨制度始まってもいないから、誰もお金持ってないしね。
投資も保険も、元手があって成り立つものだから、むしろ今は分かりにくいものがプラスされて邪魔になってしまう可能性すらある。
「その辺りは、通貨制度が始まってからまたおいおい考えることにします。まだどういう形に転ぶのか不透明な部分しかないので、現状のところは入出金と、商売を始めるための融資程度に留めておいてください」
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