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第6章 アルトラの村役所長代理編

第150話 傘制作依頼をしに来たら……

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「マリリア! ちょっと工房行ってくる!」
「えっ!? 依頼でもないのに?」
「この村の住民が風邪を引かないようにしなきゃいけない! 傘について作ってもらえないか提案してみる!」
「アルトラ様宛ての緊急の依頼が来たらどうすれば良いですか?」

 私宛て? 二日しか代理やってないのに、何だか特殊な言葉が出来てる……

「う~ん、じゃあ分身体を置いていくから、緊急で私にしか出来ない依頼が来たら分身体にやってもらおう」
 分身体を生み出す。
 この能力ホント便利ね。

 分身体に話しかける。
「じゃあ、依頼が来たらお願い。それまではお茶飲んでてもお菓子食べてても良いから」
「了解! じゃあ今日は依頼なんか無さそうだし、私は今日一日ずっと優雅にティータイムとさせてもらうわ」

 しまった、私がくつろぐあっち側にしておけば良かった!
 とは言え、傘の制作をお願いに行くなら本体わたしが行く必要があるから仕方がないか。

「何かアルトラ様が二人居て奇妙な光景ですね……」
「そのうち慣れるよ、きっと」
「その能力、最初はビックリしましたけど、便利な能力ですよね」
「「でしょー? 私もこれ会得して良かったと思うわー」」
 思考回路が同じだからしゃべったことがユニゾンする。

「フフッ、同じタイミングで同時にしゃべるので立体的に聞こえますね」
 同じ思考だから、双子より双子だしね。

「じゃ、ちょっと行ってくるね」
「はい、いってらっしゃい」






 と言うわけで、雨に濡れたくないからゲートで工房へ。
 三日前まで工房の存在すら知らなかったけど、早くも二回目の訪問。

「こんにちはー!」
「ハーイ、あ、アルトラ様、どうしました?」
「今回ちょっと相談に来たの。これ如何によって、この村で風邪を引く人が多くなるか少なくなるかが変わる」
「何か……突然の訪問で重たい話題ですね……何だか責任重大じゃないですか?」
「ミリアン、あなた『傘』って知ってる?」

 一応聞くだけ聞いてみる、この村に普及してないことを考えると、多分知ってはいないと思うけど……

「あ、知ってますよ!
「え!? ホントに!?」
「ホントについ最近ドワーフの方から教えてもらいました! フィンツさん曰く――」

『この村は雨が降るのに傘が無いのか?』

「――と」
「え? と言うことは?」
「今試作品を作ってます。フィンツさんに教えてもらって竹と紙で作ってみた試作品が、一応あるにはあるんですけど……

 和傘のようなものを渡された。
 差してみる。

「おおー! 良いんじゃない? 何が問題なの?」
「骨組みの方は竹林を見つけているので問題無いんですが、それ以外のところの素材が無くてどうしようかと思っている状態でして……」
「紙じゃダメなの?」
「紙で量産出来れば良いんですけど、紙はこの村では貴重なので」
「あ、そうか、この村まだ紙を生産してないんだ」
「いいえ? 紙はもう生産が始まってますよ?」
「え!? いつから!?」
「この工房と同じ時期くらいです。それもフィンツさんが――」

『そろそろ紙が必要な文化になってきたんじゃないか? アクアリヴィアで取り揃えようとすると距離的に遠いから、もしアルトラに何かあった時に大変だぞ』

「――ということで、紙作りが始まりました」

 フィンツさん有能……!
 この村をどんどん進歩させてくれる!
 あれでヘパイトスさん曰く、若手だって言うんだから信じられない。
 困った時のドワーフさんだ!
 あの人面倒見良いわね。ルドルフさんのお金の管理までしてるし。川が出来た後もそのまま住んでくれないかしら?

「とは言えまだまだ少ないことには変わりないので、傘に使えるほどは出来ていませんね。紙の原料になる植物もまだ少ないですし」
 現状紙は貴重品……か。
 紙が貴重となると和傘の普及は難しいかな……とすると、現代に近い形の傘になるのかな?
 地球では、現代の傘には綿、絹、麻なんかが使われてるらしいけど、この村まだ綿しか無い上に量も少ない。

「う~ん……じゃあ革なんてどうだろう? ガルムの革なら有り余ってるし」
 村内には何かに使えるかと、ガルムを食料にした後に採取された皮をなめしたものが大量にストックされている。そろそろ場所も取るようになってきて、処分しようかと言う話も出てきたくらいだ。

「それ良いかもしれませんね! じゃあちょっと試作品を作ってみます!」
「ところで、その和傘の試作品は使ってみたの?」
「まだですよ。使ってみますか?」
「じゃあ借りて行こうかな。他の人に使ってもらっても良い?」
「後日返却いただけるならどうぞ」
「三本あったりする?」
「ちょうど三本あります。ただ、耐久度がバラバラなので、使い物にならないものもあるかもしれません」
「あ、え~と、破れたりした場合はどうしたら良い?」
「構いません。乱暴に使わず、自然に破れてしまったものであれば、そのまま返却してください」
「ありがとう! じゃあ借りて行くね!」

 これならこの村に傘が普及するのもそう遠い話ではないかもしれない。雨に濡れる人も少なくなるだろう。
 お借りした和傘を手に、ゲートで役所へ戻った。
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