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第5章 雷の国エレアースモの異常事態編

第136話 巨大サンダラバードの処遇

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 翌朝。
 ホテルを出る前に、自分が使った布団を畳む。

「リディアも自分が寝てた布団畳んで」
「ハ~イ」

「アルトラ様」
「なに?」
「布団は畳まないで、そのままにしておいてください」
「え? 何で? 畳んでおいた方が綺麗だと思うけど……」
「私たちが綺麗に畳んで積んだと思っていても、後々広げて確認したり、カバーを取り替えたりしなければならないため、二度手間になってしまいホテルの方々にはかえって迷惑なのだそうです」
「えっ? 雷の国ここではそうなの?」
「いえ、日本でもそうですよ」
「えっ!? そうなの!? 知らなかった……じゃあ私は今まで知らず知らず旅館やホテルの方に迷惑かけていたのね……」

 今後は注意しなきゃいけないわね……

「同じように浴衣も畳まなくて良いそうですよ」
「そうだったのか……リディア、畳まなくて良いんだってさ」
「わかっタ、じゃあ脱ぎ散らかしておク」
「いや、そこはせめてまとめておこうか……」
 おっと、リディアが使ってた浴衣に『魔法効果解除デスペルマジック』使って、『リディア専用浴衣』の効果を解除しておかないと。
 脱いだ浴衣は固めて壁のそばに置き、部屋をほぼそのままの状態でチェックアウト。

 エントランスホールで、エミリーさんが待っていた。

「雷の国にいる間、案内役を務めてくれてありがとう、楽しかったよ」
「いえ、このような状態になってしまい、案内という案内を出来ずすみません」
「じゃあ、またここを訪れる予定があるから、その時に案内役をお願いしようかな」
「わかりました、その時はお任せください!」






 この時に捕まえた巨大サンダラバードのその後を聞いた。

 私がアスモのいる王城を後にした後、会議室にて捕まえた巨大サンダラバードの処遇について話し合われたそうだ。
 会議の列席者の中にはアスモの『完全なる誘惑テンプテーション』の効果により、今後実害が無いことと、アスモが操ることにより、希少な空間魔法の使い手として有効的に使うため国で飼おうという提案をする者もあったようだが、やはり魔法災害の元凶になったことと、この件で亡くなってしまった遺族感情を考慮したところ、最終的には即日処分が決定。強制的に眠らされ、そのまま永遠の眠りに着いたらしい。
 その後のことについてはエミリーさんは知らないとのこと。
 サンダラバードが巨大化したのは珍しい例だから多分研究機関に回ったのではないかとの予想。

 空間転移歪曲の問題は、ほぼ学者の推測になってしまうが、巨大サンダラバードが雷雲を引き寄せるために使っていた、雷属性+空間属性の特殊なフィールドによるものなのではないかという推測がなされた。
 雷雲“だけ”を引き寄せるために、雷雲にしか効果の及ばない重力空間を広範囲で展開していたため、他の空間術師の空間魔法と干渉しあって、出現ポイントがズラされる事態が起こったのではないかとのこと。
 いずれにせよ、相手が人語をしゃべることができる生物ではないので、推測の域を出ない。

 なお、巨大サンダラバードは、やはり突然変異体らしい。通常のサンダラバードに空間魔法を扱う能力は全く無い。
 残った巨大サンダラバードの子らしき卵二個は、アスモが責任を持って預かるらしい。
 また、サンダラバードが集まる雷雲は、国家プロジェクトによる雷雲集積装置が原因だったということもあり、今後は国家賠償責任は避けられないと思われる。






「じゃあ、お世話になったからこれをあなたに贈ろうと思う」

 以前アクアリヴィアで、ウォルタ邸のメイドに渡した物と同じ、ラピスラズリのペンダント。
 アクアリヴィアの時には、まだそこまでの関係性出来てない状態で渡したから若干引かれてしまった感があったけど、案内役を務めてもらった人に贈るなら、それほどおかしいことではないでしょう。

「こんな……宝石なんてもらって良いんですか?」
「良いの、そんなに高くはないから」
 『手作り』という単語は今後伏せることにしよう。宝石を手作りするとか、何となく怪しさが出てしまう。

「幸運や魔除け、願望成就の効果があるらしいから、それを私が魔力で引き上げたもの。付けてると小さな幸せが舞い込んでくるかもしれない」
「魔道具ですか?」
「まあそんなところかな」
「ありがとうございます! 遠慮無く使わせていただきます!」
 『手作り』って言わないだけで、大分スムーズに話が進むな……

「あと、これもあげる。私の村で採れる『潤いの木の実』、良かったらみんなで食べて」
 五個渡した。

 その後、エミリーさんに別れを告げ、ゲートにて我が家へ帰宅。






 そしてこれは後日聞いた話だけど、その日の電波放送 (テレビ・ラジオ放送)にて、空間魔法災害は巨大サンダラバードの仕業だと伝えられ、元凶を絶ったため、国民にはもう災害は起きないであろうことが伝えられたそうだ。

 この一件に関してアスモへの風当たりはほぼ皆無に等しい。
 雷雲集積装置に、彼女がほぼ関りが無いこと、今までの国家運営に対する尽力と人望、そして大罪スキル『色欲ラスト』の自動発動の効果に依る。
 彼女の自動発動のスキルは、『軽度に魅了する』というものなので、仮に憎悪ヘイト感情が溜まった状態でも、ヘイトを溜めつつ好意部分もそのまま残るため、この能力がかかっている者はどれほど酷い仕打ちを受けようとも、『色欲ラスト』の所持者を決定的に嫌いになることは出来ないのだそうだ。
 このため、『色欲ラスト』の所持者は、例え凶悪な独裁者であろうとも、その地位が失墜することはまずない。
 可能性があるとするなら色欲ラストの影響の薄い外国からの暗殺者が、効果範囲に入らずに狙撃などで死亡するというケースが必然的に高くなるらしい。
 これについて、アスモは咎められないことに少々心を痛めていた様子だったそうだが……

 この話にて、今回の空間魔法災害の一連の事件は、私の中では一応の終結と考えたいと思う。






 我が家に帰宅。
 亜空間収納ポケットからお土産その他、荷物を出す。

「アルトラ~、これ何ダ?」
「私がカイベルを参考にして作った初めてのフィギュア」
「フィギュアって何ダ?」
 フィギュアって何だろう? え~と、確か『図形』とか『姿』って意味らしいけど……この場合は――

「人形かな」
「何を参考にしたっテ?」
「カイベル」
「どこがッ!? 似ても似つかないゾ?」
「………………」
「何だか亜人ひとの顔を左側からひっぱたいたみたいな造形だナ」
「………………」

「カイベル、あれ、あなたにはどう見えてる?」
「はい、左側から強い力でひっぱたかれた造形に見えます。鑑定額はかなり甘く見積もっても二十エレノルというところでしょうか」
 っす! 多分原価より安いよ……

「逆に処分するための金銭を要求される可能性があります」
 それどころかマイナス評価か……

「その手の蒐集家コレクターなら芸術品として評価してくださる可能性もありますが、見出される可能性は極めて低いと思われます」
「………………」
「ただ……今後アルトラ様の作品の腕前や存在価値が上がれば、高額で取引される可能性も否定できませんが……」
 よし! がんばろう!

 しばらく部屋の片隅に台座を作って置いておいたが、胸像でそれなりの大きさがあるためか、リディアが不気味がるから後々撤去した。
 でも、縮小魔法で小さくして、部屋の私専用の棚の上に飾っておこう。何せ、私が初めて作った記念すべきフィギュアだ。
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