奴隷少女は騎士となる

灰色の街。

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二日目

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翌日。昨日と同じように訓練場に行く。
昨日は初日ということもあり、ラインハルト班長の指示に従って動いていたが、今日と明日は自由行動だ。基本どこに行っても構わない。勿論訓練場の中で、だが。

グラナー先輩は昨日のことがなかったかのように振る舞っている。
今朝も、すれ違いざまに挨拶をしただけだ。あんまりグラナー先輩の近くにいると怪しまれる可能性があるので、少し離れたところで、他の先輩の訓練の様子も見ながら観察する。

特に怪しいところはない。今まで怪しまれていなかったわけだから、そう簡単にボロを出さないだろう。
まあ、あくまでも私は第3班に見学に来た第1班班員という立ち位置だから、ボロが出たからといってすぐに動けるわけではない。あくまで観察、という形だ。

というか、カール班長達は私がこの調査に踏み込むことをよしとしていない。それは決して私が駄目だめな奴だと思われている、という訳ではない。単純に私が新人騎士で、まだ騎士団の内情に踏み込めるまでのレベルに至っていない、ということだと思う…多分。
もし私が駄目だめだから、という理由だったら…考えたくもないな…

そんなわけで、午前中は特に何か起きたわけでもなく、ただ見学して終わった。まあ、元々の目的がこれだから、これこそが理想、と言うべきなのだろう。

「あ、ライ。ちょっといいか?」

「ラインハルト班長。了解です」

昼休憩に入ろうと思っていると、ラインハルト班長が来た。
何か進展があったのだろうか?それにしては少し早くないか?いくら班長達とはいえ…流石に仕事が早すぎるような気がする。

「例の件はまだ進展無しだ。別の件でカールが呼んでる」

「カール班長が、ですか?」

進展はなかった…まあ、当然だ。それとは別で呼び出し?なにかしただろうか…なにも思いつかない。

「まあ、そんな深刻そうでもなかったし、悪い報告ではなさそうだったぜ?」

「そうなんですね…尚更呼ばれた理由が分からないですね…」

「まあ、そんな大したことないだろ。終わったらそのまま行っていいから」

「?はい」

訓練場からカール班長の執務室はまあまあな距離があるのだが、ラインハルト班長と話していたらすぐに着いた。緩くやっているように見せて、以外と頭がいいラインハルト班長と話していると、気まずくなる瞬間がないから楽だ。

ラインハルト班長と別れてドアをノックする。執務室に来たことはこれまでに数回あるが、未だに緊張する。

許可をもらって室内にはいる。相変わらず綺麗に整頓されている執務室。壁には資料が本棚にぎっしりと詰まっている。

「すまんな、昼休憩中に」

「いえ、全然大丈夫です」

急な呼び出しなんて、よくあることだ。いちいち気にしてられない。

「そうか…話を先延ばしにするのは嫌いだから早速本題はいるが…隣国であるグラード王国、今どうなっているか知ってるか?」

「グラード王国ですか?知り合いというか…友達がグラード王国に滞在していたので、ある程度は知っていますよ。まあ、今はもう出国しているかもしれませんけど」

「ならグラード王国の出国者制限政策は知ってるか?」

「知ってます。それが打ち出されたので私の友達も、本格的に出れなくなる前に出国すると言ってましたので」

「じゃあ話は早いな。実はその出国者制限のせいでターリスク王国への違法入国が増えてるんだ。簡単にいえば、制限をかけられ国に閉じ込められたグラード王国の人達が、ターリスク王国に不法侵入してんだよ」

「成る程。それで、なぜその事を私に?」

「いや~いま第3班の新人騎士達が遠方に行ってるだろ?実はそれ、国境整備をしてる第七班の奴らが、人手が足んねぇっていってその人手不足解消のために送ったんだけどさ…」

…何となく話が読めてきた。というか…

「なぜ新人騎士達を?そういうのはベテラン騎士の方が適任なのではないですか?」

「単純にこっちも人手不足」

ああ、最近事件の連続だったからか…

「まあそれは置いといて薄々察しているとは思うけど、人が増えたのはいいけど、今度は纏まりがないとか言い出して…そのくらい自分達で何とかして欲しいんだけど、向こうは向こうで大変らしいからさ…ライ、向かってくれない?」

「…私一人で、ですか?」

「いや、付き添いで二人。というか、キーカルとガリウスなんだけどね」

キーカル先輩とガリウス先輩。私の教育係だからよく一緒に仕事するが、その二人がいるのはかなり心強い。

「向こうにはライの相棒の…カリナンだっけ?そいつも多分いると思うから、やりやすいだろ。ちなみに既にラインハルトには伝えてある」

ああ、成る程。だから私が動員されるわけね。カリナンがいるなら百人力だ。
それにしても…ラインハルト班長、めっちゃ重要な話だったじゃないか。そう言えば、少しニヤニヤしてた気がする…少しだけイラッとしたが、私は悪くないと思う。

「分かりました。いつからですか?」

「できるだけ早くってことだから準備ができ次第お願いしていいか?キーカルとガリウスにはもう伝えてあるから」

「了解です」

ああ、これは昼ごはん食べ損ねたな
というか、ラインハルト班長のそのまま行っていいからってのはこういうことだったのか…

取り敢えず自室に戻り、必要最低限の荷物を持って部屋を出る。
いつ出動命令されてもいいようにと、私達は日頃から最低限の着替えと武器と食べ物が入った鞄を準備している。
あまり使うことはないと思っていたが…案外役に立つものだな。
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