71 / 120
月桂樹の遣い
しおりを挟む全然分からないまま時間が経つ。時間の経過と共に班長達の顔がどんどん険しくなっていく。
「なあ、本当にグラナーは月桂樹の遣いつったのか?聞き間違いじゃなくて?」
「?はい、そうです」
どうしよう…何もわからない。
月桂樹の遣い
大事なキーワードということは分かるが…どういう意味なのか。
そして、月桂樹の遣いを待っているというグラナー先輩。彼の言うことを信じるならば、月桂樹の遣いはかなり危険な人物達なのではないか?
グラナー先輩は月桂樹の遣いのことを"人の常識が欠落してる"と言っていた。それの受け取り方は様々だが、私は"善悪の知識がつかない"ということだと思う。これに関してはただの直感だから分からないが。そんな危険人物を探しているグラナー先輩…目的が何なのか、単独でそれをしている理由とは…
頭がパンクしそうだ。
班長達は未だに考え込んでいるし。
「…情報が足りないな」
「ですね。ライ、他にグラナーは何か言ってませんでしたか?どんな些細なことでもいいです」
「いえ…特には」
「…グラナーがな~そんな風には見えなかったがな」
「要注意観察ですね」
「今はそれが一番だな」
「あの…何か分かったんですか?月桂樹の遣いの意味とか、分からなくて…」
「ライなら分かると思うぞ?」
「いや、月桂樹を知らんかったら無理だろ。ライ、月桂樹ってのは花の名前なんだけどな…その花言葉は…」
「「「裏切り」」」
「裏切り…」
「栄光、勝利、栄誉っていう意味もあるらしいんだけどな」
裏切り…グラナー先輩は裏切り者を探している?そうだとしたらグラナー先輩は何で騎士団に内通者がいる可能性があることを知っている?知ったのはいいとして、個人で行動している理由は?
成る程、班長達が要注意観察としたのはこのためか…
グラナー先輩が内通者という可能性は高いだろう。でも、そうだと確信付ける要素を私達は持っていない。
要素を持っていない以上、グラナー先輩を問いただすことは出来ない。もし間違いだった場合、グラナー先輩になんと説明すればいいか分からないからだ。馬鹿正直に内通者を探している、と言うわけにもいかないからね。
中々に面倒臭いことになってきた。というか…
「この短期間で色んなこと起こりすぎじゃないですか?まだ4ヶ月ぐらいしら経ってないですよ…」
「去年に比べたら全然だ」
「去年じゃなくても、世間には公表されてなくても結構騎士団ではこういうこと日常茶飯事だぞ。来年ぐらいにはまた問題起きたわっつって同僚と笑い合ってるぜ」
「慣れるかどうかは別として、こういうことがよくあるからこそ、作戦立案を専門とする班が存在する、そう考えたらしっくりくるのではないですか?」
「確かにそうですね…あの、敬語、なんか慣れなくて…外してもらっても…?」
「すみません、癖ですので」
ラズ班長は常に敬語だが、私は自分に向かって敬語で話しかけられることが全くといっていい程無かったので違和感満載だ。そのせいで話す時に他の人より一歩引いてしまう…なんか申し訳ない気分だ
「まあ、そんなことは置いといて…ライも分かったか?」
「はい。しばらくは要注意観察ですね」
「ああ、ラインハルトも。自分とこの班員だからって贔屓した目で見んなよ」
「お前は俺をなんだと思ってんだよ…流石にそんなことしないわ」
「このことは他の班長達にも伝えておきます。後、ライ。このことは他言無用でお願いしますね」
「勿論です」
その後はすっかり冷めたご飯を食べて、部屋に戻る。
内通者、ね…
さっきはすっかり頭から抜けていたが、グラナー先輩が内通者だとしたら、私が奴隷であることも知ってるってことなのかな…
内通者がどんな手を使って外部と情報の受け渡しをしているのかは分からないが、私が奴隷であることをもし知っているとしたら…脅す…最悪の場合…消す、か…まあ、それはその時になってみないと分からないが。
グラナー先輩、噂によると過去に一回同僚と大喧嘩で謹慎になったって話だ。そこだけとると、グラナー先輩は白。内通者であろう者が、大喧嘩で謹慎だなんて、そんな目立つ行動をするとは思えない。
黒か白かはっきりさせるためには、もっと情報が必要だ。私も、関わった以上は調査に荷担とかするのだろうか…
シャワーを浴びながら空間魔術を解いて、首を撫でる。直接肌にふれたことがない首には、チョーカーがしっかりとついている。この秘密は、どこまで持っていけるだろうか。
そんなことを考える私は…きっともう気付いている…この秘密が、最後まで持っていける未来が無いことを。
私より何十倍も聡い第1班の先輩を筆頭に、班長達や、総長に隠していけるなんて、そんな甘い考えは持っていない。その考えを持てるのは、相当の楽観主義者ぐらいだろう。
それでも私は…
「不変を望む。この充実した生活を守るためにも…いつか壊されるその時まで、隠し続ける」
この考えは間違っているだろうか。今はまだ、答え合わせの時ではない。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス
於田縫紀
ファンタジー
雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。
場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

世の中は意外と魔術で何とかなる
ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。
神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。
『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』
平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
追い出された万能職に新しい人生が始まりました
東堂大稀(旧:To-do)
ファンタジー
「お前、クビな」
その一言で『万能職』の青年ロアは勇者パーティーから追い出された。
『万能職』は冒険者の最底辺職だ。
冒険者ギルドの区分では『万能職』と耳触りのいい呼び方をされているが、めったにそんな呼び方をしてもらえない職業だった。
『雑用係』『運び屋』『なんでも屋』『小間使い』『見習い』。
口汚い者たちなど『寄生虫」と呼んだり、あえて『万能様』と皮肉を効かせて呼んでいた。
要するにパーティーの戦闘以外の仕事をなんでもこなす、雑用専門の最下級職だった。
その底辺職を7年も勤めた彼は、追い出されたことによって新しい人生を始める……。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

異世界無宿
ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。
アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。
映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。
訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。
一目惚れで購入した車の納車日。
エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた…
神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。
アクション有り!
ロマンス控えめ!
ご都合主義展開あり!
ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。
不定期投稿になります。
投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる