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月桂樹の遣い
しおりを挟む全然分からないまま時間が経つ。時間の経過と共に班長達の顔がどんどん険しくなっていく。
「なあ、本当にグラナーは月桂樹の遣いつったのか?聞き間違いじゃなくて?」
「?はい、そうです」
どうしよう…何もわからない。
月桂樹の遣い
大事なキーワードということは分かるが…どういう意味なのか。
そして、月桂樹の遣いを待っているというグラナー先輩。彼の言うことを信じるならば、月桂樹の遣いはかなり危険な人物達なのではないか?
グラナー先輩は月桂樹の遣いのことを"人の常識が欠落してる"と言っていた。それの受け取り方は様々だが、私は"善悪の知識がつかない"ということだと思う。これに関してはただの直感だから分からないが。そんな危険人物を探しているグラナー先輩…目的が何なのか、単独でそれをしている理由とは…
頭がパンクしそうだ。
班長達は未だに考え込んでいるし。
「…情報が足りないな」
「ですね。ライ、他にグラナーは何か言ってませんでしたか?どんな些細なことでもいいです」
「いえ…特には」
「…グラナーがな~そんな風には見えなかったがな」
「要注意観察ですね」
「今はそれが一番だな」
「あの…何か分かったんですか?月桂樹の遣いの意味とか、分からなくて…」
「ライなら分かると思うぞ?」
「いや、月桂樹を知らんかったら無理だろ。ライ、月桂樹ってのは花の名前なんだけどな…その花言葉は…」
「「「裏切り」」」
「裏切り…」
「栄光、勝利、栄誉っていう意味もあるらしいんだけどな」
裏切り…グラナー先輩は裏切り者を探している?そうだとしたらグラナー先輩は何で騎士団に内通者がいる可能性があることを知っている?知ったのはいいとして、個人で行動している理由は?
成る程、班長達が要注意観察としたのはこのためか…
グラナー先輩が内通者という可能性は高いだろう。でも、そうだと確信付ける要素を私達は持っていない。
要素を持っていない以上、グラナー先輩を問いただすことは出来ない。もし間違いだった場合、グラナー先輩になんと説明すればいいか分からないからだ。馬鹿正直に内通者を探している、と言うわけにもいかないからね。
中々に面倒臭いことになってきた。というか…
「この短期間で色んなこと起こりすぎじゃないですか?まだ4ヶ月ぐらいしら経ってないですよ…」
「去年に比べたら全然だ」
「去年じゃなくても、世間には公表されてなくても結構騎士団ではこういうこと日常茶飯事だぞ。来年ぐらいにはまた問題起きたわっつって同僚と笑い合ってるぜ」
「慣れるかどうかは別として、こういうことがよくあるからこそ、作戦立案を専門とする班が存在する、そう考えたらしっくりくるのではないですか?」
「確かにそうですね…あの、敬語、なんか慣れなくて…外してもらっても…?」
「すみません、癖ですので」
ラズ班長は常に敬語だが、私は自分に向かって敬語で話しかけられることが全くといっていい程無かったので違和感満載だ。そのせいで話す時に他の人より一歩引いてしまう…なんか申し訳ない気分だ
「まあ、そんなことは置いといて…ライも分かったか?」
「はい。しばらくは要注意観察ですね」
「ああ、ラインハルトも。自分とこの班員だからって贔屓した目で見んなよ」
「お前は俺をなんだと思ってんだよ…流石にそんなことしないわ」
「このことは他の班長達にも伝えておきます。後、ライ。このことは他言無用でお願いしますね」
「勿論です」
その後はすっかり冷めたご飯を食べて、部屋に戻る。
内通者、ね…
さっきはすっかり頭から抜けていたが、グラナー先輩が内通者だとしたら、私が奴隷であることも知ってるってことなのかな…
内通者がどんな手を使って外部と情報の受け渡しをしているのかは分からないが、私が奴隷であることをもし知っているとしたら…脅す…最悪の場合…消す、か…まあ、それはその時になってみないと分からないが。
グラナー先輩、噂によると過去に一回同僚と大喧嘩で謹慎になったって話だ。そこだけとると、グラナー先輩は白。内通者であろう者が、大喧嘩で謹慎だなんて、そんな目立つ行動をするとは思えない。
黒か白かはっきりさせるためには、もっと情報が必要だ。私も、関わった以上は調査に荷担とかするのだろうか…
シャワーを浴びながら空間魔術を解いて、首を撫でる。直接肌にふれたことがない首には、チョーカーがしっかりとついている。この秘密は、どこまで持っていけるだろうか。
そんなことを考える私は…きっともう気付いている…この秘密が、最後まで持っていける未来が無いことを。
私より何十倍も聡い第1班の先輩を筆頭に、班長達や、総長に隠していけるなんて、そんな甘い考えは持っていない。その考えを持てるのは、相当の楽観主義者ぐらいだろう。
それでも私は…
「不変を望む。この充実した生活を守るためにも…いつか壊されるその時まで、隠し続ける」
この考えは間違っているだろうか。今はまだ、答え合わせの時ではない。
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