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二人も三人も一緒? 俺も好き? いやいやいや、何で嫌ってくれないんだよ

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 ……身動きが取れない。

 それもそうだ。身体は二人がかりで抱っこされ、両手もしっかり繋がれてしまっているんだから。

 何人用なのかも分からない広いソファー、座り心地抜群なそれに腰掛けるヒスイとアサギさん。肩を寄せて座る二人のお膝の真ん中に座らさせてもらっている俺の手を、二人を挟んで座る赤木さんとダイキさんが握っている。

 どうしてこうなった。

 頭や頬をひっきりなしに甘やかすみたいにヒスイとアサギさんから撫でられ続け、それだけでも頭がぽやぽやしちゃっておかしくなりそうだってのに。

 こっちを忘れるな、と言わんばかりに赤木さんとダイキさんから繋いだ手を握られ、指の一本一本まで余すことなく優しく撫でられるもんだから……ホントにマズい。過剰供給もいいところだ。壊れるんじゃないか? ドキドキし過ぎて。

 
「あの……そろそろ、離して頂けないでしょうか?」

「だーめ。またオレ泣いちゃったんだから、責任取って握っててよね」

「君と手を繋いでいると安心出来るんだ……頼む」

「今日は俺に心の充電させて……お願い」

「君の鼓動を感じていないと落ち着かないんだ……許して欲しい」

 胸が締め付けられるような声で代わる代わる囁かれ、寂しそうな瞳で見つめられる。殺し文句もいいところだ。言うしかないじゃないか。好きにしてって。

 それに気持ちも痛い程分かる。俺だって安心出来なかったから。体温を、鼓動を感じないと、不安だったから。

 覚悟を決めろ天音レン。

 心頭滅却、ただ息をするだけに集中するんだ。じゃないともたない。好きな人達から抱き締められて、撫でられて、手を握られてるんだぞ? 欲が出ちゃうじゃないか! キスして欲しくなっちゃうじゃないか!

 必死に深呼吸を繰り返している俺をよそにのんびりとした声が、そう言えば、と切り出す。

「みどりんとあおちゃんが真ん中って不公平じゃない? しれっと二人で抱えてったからツッコめなかったけどさ」

「権利はあるよ、僕達には」

 頬を膨らませたダイキさんにまたしても平然と口を開いたアサギさん。続く彼の発言によってますます事態がおかしな方向へと加速していくことになるとは。

「僕と緑山君は、分かった上で受け入れてもらえたレン君の恋人だからね」

「アサギさんっ!?」

「「は?」」

 飲み込めず、声のトーンを低くした赤木さんとダイキさんに対して、直ぐ様理解したヒスイが目を丸くする。

「え、レン……話したの? 青岩先輩にも」

「う、うん……好きって言って貰えたから、俺も全部話さないとって」

「そっか……レンらしいね」

 ちょっと複雑そうに見えたけど柔らかく微笑んでくれたヒスイに胸が軽くなる。流れかけたほのぼのとした空気を慌てた声がぶった切った。

「ちょっと待って! オレ達置いてきぼりなんだけど!?」

「く、詳しく説明して欲しいんだが……」

 いい機会だなって思った。

 元々話すつもりだったんだ。寂しいけれど、早いに越したことはないだろう。その方が、嫌われても傷が浅いし。



 覚悟を決めて、全部話した。

 俺が皆を、黒野先生を含めて五人同時に好きになってしまっていること。ハグしたりキスして貰えると嬉しくなってしまうこと。ヒスイとアサギさんの優しさに甘えてしまっていること。詳らかに全部。

 嫌われるよな。引かれるだろう。そんな俺の感傷はあっという間に吹き飛ばされた。

「何それズルい!! じゃあオレもレンレンの恋人になる!!」

「え? 聞いてました? ダイキさん。俺、ヒスイとアサギさんの好意につけ込んでる最低野郎で」

「だって、みどりんも、あおちゃんもなれたんでしょ!? だったらオレだっていいじゃん!! オレもレンレン好きだもん!!」

 繋いだ手に力を込め「二人も三人も一緒でしょ!?」と訴えてくる。いや、だから何で嫌いになってくれないんだよ?

 黙ったまま俯く赤木さんに助けを求める。でもそれは悪手だった。結果的には。

「あ、赤木さん……何とか言って」

「本当に俺のことを好きになってくれたのか?」

「え?」

 ゆらりと上げた顔は真っ赤に染まり、夕日のように輝く瞳が期待に揺れている。

「天音……いや、レンは俺のことを好きなのか?」

 そんな瞳で縋るように尋ねられれば、本気で応えるしかなかった。

「は、はい……好きです……コウイチさんのことが」

「そうか……そうか! 俺も好きだ!! 愛してるぞ、レン!!」

「いや、何で」

「あかぎっちズルい! オレも、ちゃんと告白したい!」

 ぱぁっと輝いた笑顔にツッコむ間もなく、ぐいっと手を引かれる。

「うわっ」

 釣られて向いた先で熱のこもった黄色に射抜かれた。

「ねぇ、レン……オレのこと好き?」

 甘い声に鼓膜を揺すられ、可愛らしいけれどもカッコいい笑顔に心を揺さぶられる。そんな表情を向けてもらえてしまったら、落ちない訳がなかった。

「は、はぃ……好きです……ダイキさん……」

「えへへ、やったぁ! オレも好きだよ! ずっと一緒に居ようね!!」

 身に余り過ぎる幸福に目を回している俺の耳には届かない。してやったりと言わんばかりにクスクス笑う声は勿論、二人の会話も。

「……これは、困ったことになったね。緑山君」

「……全然、困ってるように見えませんけど? まぁ、俺はレンが幸せで、俺のことを好きでいてくれたらそれで幸せですけどね」

「ふふ、同感だね」

 訳が分からぬ内に、何故か円満に四股を成立させてしまっていた。

 こっちはまだ整理がついてないってのに、今度は誰が俺の両サイドで寝るのかと本気のジャンケン大会が開催されることになるとは。嬉しいんだけれど、ホントにどうしてこうなった。
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