上 下
579 / 1,253

578 ディリアンの怒り

しおりを挟む
バルカルセル大臣の執務室に集まったのは、アラタ達クインズベリーから来た一行と、シャノン、リンジー、ファビアナ、ガラハドの三人だった。

「遠路よく来てくれた。感謝するぞクインズベリーの有志よ。楽にしてくれ」

前回会った時と同じく、深く青い海を思わせる色のスーツに白いシャツという出で立ちなのは、大臣のバルカルセルである。

手のひらを上に向けてソファを進めながらも、自分が先に腰を掛けるのは、大臣の自分が座らなければ、誰も座れないだろうという配慮からだ。
バルカルセルを中心に、左右に分かれる形でそれぞれが腰を下ろした事を見ると、ボリュームのある白い頭髪を後ろに撫でて、バルカルセルは話し出した。

「アラルコン商会のシャノン嬢から、すでにおおよその事は聞いているそうだが、あらためて、皆さんが今日ここに来るまでに、どれだけの事があったかを話しておこう」

恰幅の良い体を少しだけ起こしてソファに座り直すと、その体が深く沈みこむ。
大臣のソファだけ特別製なのか、本来一人用の作りに見えるが、実質二人分は幅がある。

「前回キミ達が来た次の日からか・・・カーンの周辺の動きが騒がしくなってきてね。頻繁に大海の船団の幹部や船長と会っているようだった。何をしているのかカーンを問い詰めても、商売の話しだと言って、当たり障りのない内容を述べるだけだ。そこでガラハドに探りを入れてもらったところ、今回のクルーズ船の事が分かったわけだ」

バルカルセルがそこでガラハドの目を向けると、言葉を引き継いでガラハドが話し始めた。

ガラハドもバルカルセルと同じく頭髪は真っ白だが、190cmはある背丈と、服の上からでも一目で分かる鍛えられた筋肉で、実年齢よりも若く見える。

「すでにキミ達も知ってるだろが、カーンと大海の船団のウラジミールは結託して、帝国にこの国を売り渡すつもりだ。今のカーンならばそれができる。それほど国王はカーンを信頼、いや依存しているんだな。カーンの言葉なら、国王はそれがなんであれ迷わず頷くだろう。そして、そのカーンが会う帝国の要人だが・・・ダリル・パープルズ、帝国の大臣だ」

「ほぅ、ダリル・パープルズが来るのか?なるほど、今回のクルーズに、帝国がどれだけ期待をしているかが伺いしれるな」

ガラハドが口にした帝国の大臣の名を聞き、向かいに座るシャクールが、面白そうに口を挟んだ。
その軽々な話し方に、ガラハドが少し眉を寄せて問いかける。

「シャクール・バルデス殿だったな、楽しそうだが、ダリル・パープルズを知っているのか?」

「おっと、これは失礼。決して茶化しているわけではないのだが、そう聞こえてしまったのなら謝罪しよう」

シャクールがあまりにあっさりと頭を下げるので、ガラハドが毒気を抜かれたように二の句を告げずにいると、シャクールはそのまま話しを続けた。

「それで、私がダリル・パープルズを知っているかとの問いだが、答えは知っている。私も貴族の端くれだからな。他国の重要人物くらいは知っているさ。直接会った事はないが、ダリル・パープルズがどういう人物かは耳に入ってくるからな。なんでも、非常に用心深いらしいな。常に二人の護衛を傍に置いていて、決して一人にならないようだ。そして、皇帝の意を組んで実質的に国の舵取りを行っている、帝国の最重要人物だ。ダリル・パープルズが来るという事は、帝国が本気で話しを決めに来たという事だろう」

シャクールが帝国の大臣についてその詳細を語ると、ガラハドは感心したように何度も頷き、賞賛の声を上げた。

「大したものだな。俺が今回集めた情報と一致している。その通りだ、それだけ帝国が本気という事だ。だからこそ、絶対にカーンと帝国の談合を潰さなければならない。しかし・・・」

「仮に国王を説得できても、ここまでやって来た帝国が引くはずがない・・・と言う事か」

話しを聞いていたビリージョーが言葉を発すると、ガラハドは肯定しビリージョーに顔を向けた。

「その通りだ。俺は戦いは避けられないと見ているのだが・・・問題はダリル・パープルズの二人の護衛だ・・・」

眉間にシワを寄せるガラハドの表情から、その護衛がいかに厄介な存在なのか察せられ、ビリージョーの表情も自然と厳しくなった。

「・・・誰だ?」

「ラルス・ネイリー。そして・・・リコ・ヴァリンだ」

意を決したようにガラハドが二人の名を口にすると、真っ先に反応したのはディリアンだった。

「ラルス・ネイリーだとォッツ!?」

目の前のテーブルに、両手を強く叩きつけて身を乗り出す。
感情に任せて全身から魔力が放出され、長く柔らかそうな白い髪が、まるで天を突くように逆立つ。
金色の瞳には怒り、憎しみ、あらゆる憎悪の感情を燃やした明確な殺意を宿し、歯を食いしばるその形相に、その場の全員の視線がディリアンに集まった。


「ど、どうしたんだよ?ディリアン」

アラタが驚きをあらわに言葉をかけるが、ディリアンはまるで聞こえていないかのように、ラルス・ネイリーの名を出したガラハドを真っすぐに見ていた。

「・・・急にどうした?・・・落ち着いて話してみろ」

ガラハドはディリアンのただ事ならぬ様子に、刺激をしないように、ゆっくりとなだめるように話しかけた。

それでも歯茎から血が滲み出る程強く噛みしめるディリアンを見て、ビリージョーが立ち上がると、その背中をゆっくりと労わるようにさすった。

「なぁ、ディリアン・・・ラルス・ネイリーとお前に何があった?その名前は俺も知っている。数年前までクインズベリーにいたよな?各国を渡り歩く、流れの魔法使いじゃなかったか?」

ビリージョーの言葉に少しだけ落ち着いたのだろう。
深く息を吐き出すと、ディリアンは憎しみを吐き出すように言葉を発した。

「・・・ラルス・ネイリー・・・あのクソ野郎はな、ベナビデス家にも一年程だが仕えていたんだよ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

妹しか愛していない母親への仕返しに「わたくしはお母様が男に無理矢理に犯されてできた子」だと言ってやった。

ラララキヲ
ファンタジー
「貴女は次期当主なのだから」  そう言われて長女のアリーチェは育った。どれだけ寂しくてもどれだけツラくても、自分がこのエルカダ侯爵家を継がなければいけないのだからと我慢して頑張った。  長女と違って次女のルナリアは自由に育てられた。両親に愛され、勉強だって無理してしなくてもいいと甘やかされていた。  アリーチェはそれを羨ましいと思ったが、自分が長女で次期当主だから仕方がないと納得していて我慢した。  しかしアリーチェが18歳の時。  アリーチェの婚約者と恋仲になったルナリアを、両親は許し、二人を祝福しながら『次期当主をルナリアにする』と言い出したのだ。  それにはもうアリーチェは我慢ができなかった。  父は元々自分たち(子供)には無関心で、アリーチェに厳し過ぎる教育をしてきたのは母親だった。『次期当主だから』とあんなに言ってきた癖に、それを簡単に覆した母親をアリーチェは許せなかった。  そして両親はアリーチェを次期当主から下ろしておいて、アリーチェをルナリアの補佐に付けようとした。  そのどこまてもアリーチェの人格を否定する考え方にアリーチェの心は死んだ。  ──自分を愛してくれないならこちらもあなたたちを愛さない──  アリーチェは行動を起こした。  もうあなたたちに情はない。   ───── ◇これは『ざまぁ』の話です。 ◇テンプレ [妹贔屓母] ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング〔2位〕(4/19)☆ファンタジーランキング〔1位〕☆入り、ありがとうございます!!

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

処理中です...