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【355 テレンスの懸念】
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高台での戦いは長期戦の構えを見せていた。
カエストゥスの第三部隊が接近戦をしかけるが、帝国軍は回り込まれた場合、即座に対応できる陣形をとっており、一進一退の攻防が続いている。
そして、高台に戦力が集中しているように見せて、帝国軍は別ルートからも隊を進行させていた。
「・・・そうか、第四、第五部隊を撤収させずに置いて正解だったな。迎撃に当たらせろ。第六部隊は、崖の下の第一部隊の援軍に向かわせろ。念のためだったが、崖下からしかけて来る事も考えられる」
部下の報告を受け、マーヴィンは即座に指示を飛ばす。
マーヴィンの読みと的確な対応で、カエストゥス軍は、帝国にも一歩も引かずに渡り合っていた。
そして帝国軍指揮官のテレンスも、マーヴィンの手ごわさを感じ取っていた。
「・・・まだ、攻めきれていないのか・・・あっちの指揮官もなかなか優秀のようだ」
戦いが始まり半日が過ぎた。
テレンスの計算ではすでに高台を抑え、別ルートから信仰させた部隊との挟み撃ちでカエストゥスを追い詰めているはずだった。
「まぁ、そこまでは対応されるかもしれない。しかし、崖下まで読まれていた事には驚いたな」
二か所で戦いが始まった後、狙い撃ちされやすい崖下に、遅れて魔法使い中心の部隊を進軍させ崖下から背後を取る作戦だったが、それもカエストゥス軍に読まれていた。
上空からの攻撃を受けるが、帝国軍も備えはしていたため、結界を張りつつ反撃にうって出る。
崖下の戦いも互角の情勢だった。
「兄さま?悪い人のせいでお悩みになられているのですか?」
テレンスの呟きを耳にしたクラレッサが、座っていた岩から腰を上げて近づいて来た。
「クラレッサ、大丈夫だよ。少しだけ敵が粘っているだけだから。すぐに片づけて見せるから、クラレッサはゆっくり休んでいてくれ」
「・・・・・はい。兄さまがそうおっしゃるのでしたら・・・」
テレンスの顔を覗き込むと、その目をじっと見つめる。
嘘か本当か、真意を確かめるように見つめられる。並みの精神なら、たじろいでしまうだろうが、テレンスはクラレッサの視線を正面から受け止め、眉一つ動かす事なく、微笑んでさえ見せた。
クラレッサは再び元の岩の上に座り直す。
納得してくれたか?そう思いクラレッサを見るが、どうやら納得はさせられなかったようだ。
クラレッサの視線はさっきまでとは変わり、今も戦いが続いている渓谷へと向けられていた。
今はまだ抑えられている。だが・・・
テレンスはクラレッサの視線を追うように、渓谷へと目を向ける。
戦いの様子を見る限り、今だ戦況は互角。
このままの状態が続くようであれば、クラレッサが出るかもしれない。
クラレッサは戦力としては非常に強力である。
だが精神が不安定で、この混戦の中では敵も味方もない殺戮が始まるだろう。
・・・・・僕が出るしかないか
妹の状態を注意深く観察し、テレンスは自分の出番が近い事を感じていた。
「む!突破されたか!?」
これまでの防衛ラインより一歩深く踏み込んだ爆発に、マーヴィンは鋭く反応した。
一たび爆発が起きた後は、たて続けに爆発が続き、爆発によって巻き上げられた土砂は一層低い場所に陣取るマーヴィンの頭にも降りかかる。
瞬きさえせずに顔を上げて見上げるマーヴィンの目に、爆煙を突き破るように帝国軍の黒魔法使い達が飛び出してきた。
「マーヴィン様!」
マーヴィンの側近達が剣を構え、魔力を集中し臨戦態勢に入る。
「爆裂空破弾!」
「双炎砲!」
帝国の黒魔法使い達が攻撃をしかけてくると、マーヴィン側近の黒魔法使いも攻撃魔法をぶつけ相殺に入る。
「今だ!行け!」
マーヴィンと帝国黒魔法使い達の間に、爆発による黒煙が立ち込め、一気に視界がきかなくなると、マーヴィンは側近の剣士隊に号令を出した。
剣士隊は地面を蹴り飛び上がると、黒煙を突き破り帝国軍黒魔法使い達の目の前に現れる。
「なっ!?」
「そ、そんな!」
驚きに目を剥く帝国軍黒魔法使い達を、一太刀の元に切り捨てると、剣士隊そのまま地面降り立った。
「ふん、何でも結界で防げばいいというものではない。爆煙は目くらましにもなる」
地面に落下し動かなくなった黒魔法使い達を。マーヴィンはつまらなそうに一瞥し高台へ顔を向けた。
「・・・どうだ?俺の腕もまだまだ鈍っていないだろう?」
マーヴィンは高台へ顔を向けたまま、振り返らずに少し大きな声で、樹々の間から自分を見ている人物へと言葉をかけた。
「・・・さすがじゃなマーヴィン、ワシの気配をよう見抜いた」
落ち葉や枝を踏み、小さな音を鳴らしながら、ブレンダン・ランデルが姿を現した。
カエストゥスの第三部隊が接近戦をしかけるが、帝国軍は回り込まれた場合、即座に対応できる陣形をとっており、一進一退の攻防が続いている。
そして、高台に戦力が集中しているように見せて、帝国軍は別ルートからも隊を進行させていた。
「・・・そうか、第四、第五部隊を撤収させずに置いて正解だったな。迎撃に当たらせろ。第六部隊は、崖の下の第一部隊の援軍に向かわせろ。念のためだったが、崖下からしかけて来る事も考えられる」
部下の報告を受け、マーヴィンは即座に指示を飛ばす。
マーヴィンの読みと的確な対応で、カエストゥス軍は、帝国にも一歩も引かずに渡り合っていた。
そして帝国軍指揮官のテレンスも、マーヴィンの手ごわさを感じ取っていた。
「・・・まだ、攻めきれていないのか・・・あっちの指揮官もなかなか優秀のようだ」
戦いが始まり半日が過ぎた。
テレンスの計算ではすでに高台を抑え、別ルートから信仰させた部隊との挟み撃ちでカエストゥスを追い詰めているはずだった。
「まぁ、そこまでは対応されるかもしれない。しかし、崖下まで読まれていた事には驚いたな」
二か所で戦いが始まった後、狙い撃ちされやすい崖下に、遅れて魔法使い中心の部隊を進軍させ崖下から背後を取る作戦だったが、それもカエストゥス軍に読まれていた。
上空からの攻撃を受けるが、帝国軍も備えはしていたため、結界を張りつつ反撃にうって出る。
崖下の戦いも互角の情勢だった。
「兄さま?悪い人のせいでお悩みになられているのですか?」
テレンスの呟きを耳にしたクラレッサが、座っていた岩から腰を上げて近づいて来た。
「クラレッサ、大丈夫だよ。少しだけ敵が粘っているだけだから。すぐに片づけて見せるから、クラレッサはゆっくり休んでいてくれ」
「・・・・・はい。兄さまがそうおっしゃるのでしたら・・・」
テレンスの顔を覗き込むと、その目をじっと見つめる。
嘘か本当か、真意を確かめるように見つめられる。並みの精神なら、たじろいでしまうだろうが、テレンスはクラレッサの視線を正面から受け止め、眉一つ動かす事なく、微笑んでさえ見せた。
クラレッサは再び元の岩の上に座り直す。
納得してくれたか?そう思いクラレッサを見るが、どうやら納得はさせられなかったようだ。
クラレッサの視線はさっきまでとは変わり、今も戦いが続いている渓谷へと向けられていた。
今はまだ抑えられている。だが・・・
テレンスはクラレッサの視線を追うように、渓谷へと目を向ける。
戦いの様子を見る限り、今だ戦況は互角。
このままの状態が続くようであれば、クラレッサが出るかもしれない。
クラレッサは戦力としては非常に強力である。
だが精神が不安定で、この混戦の中では敵も味方もない殺戮が始まるだろう。
・・・・・僕が出るしかないか
妹の状態を注意深く観察し、テレンスは自分の出番が近い事を感じていた。
「む!突破されたか!?」
これまでの防衛ラインより一歩深く踏み込んだ爆発に、マーヴィンは鋭く反応した。
一たび爆発が起きた後は、たて続けに爆発が続き、爆発によって巻き上げられた土砂は一層低い場所に陣取るマーヴィンの頭にも降りかかる。
瞬きさえせずに顔を上げて見上げるマーヴィンの目に、爆煙を突き破るように帝国軍の黒魔法使い達が飛び出してきた。
「マーヴィン様!」
マーヴィンの側近達が剣を構え、魔力を集中し臨戦態勢に入る。
「爆裂空破弾!」
「双炎砲!」
帝国の黒魔法使い達が攻撃をしかけてくると、マーヴィン側近の黒魔法使いも攻撃魔法をぶつけ相殺に入る。
「今だ!行け!」
マーヴィンと帝国黒魔法使い達の間に、爆発による黒煙が立ち込め、一気に視界がきかなくなると、マーヴィンは側近の剣士隊に号令を出した。
剣士隊は地面を蹴り飛び上がると、黒煙を突き破り帝国軍黒魔法使い達の目の前に現れる。
「なっ!?」
「そ、そんな!」
驚きに目を剥く帝国軍黒魔法使い達を、一太刀の元に切り捨てると、剣士隊そのまま地面降り立った。
「ふん、何でも結界で防げばいいというものではない。爆煙は目くらましにもなる」
地面に落下し動かなくなった黒魔法使い達を。マーヴィンはつまらなそうに一瞥し高台へ顔を向けた。
「・・・どうだ?俺の腕もまだまだ鈍っていないだろう?」
マーヴィンは高台へ顔を向けたまま、振り返らずに少し大きな声で、樹々の間から自分を見ている人物へと言葉をかけた。
「・・・さすがじゃなマーヴィン、ワシの気配をよう見抜いた」
落ち葉や枝を踏み、小さな音を鳴らしながら、ブレンダン・ランデルが姿を現した。
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