357 / 1,263
【356 待ち人】
しおりを挟む
「久しいな、ブレンダンよ。10年ぶりか?」
ブレンダンを見るその目には、厳格なマーヴィンには珍しい親しみの色が見えた。
「ほっほっほ、そうじゃな・・・お主が隠居して以来あっておらんかな、それくらいにはなろう。よう復帰したものじゃな?後人に道を譲ると言って、隠居してからは本当に一度も公に現れなかったお主が、どういう風の吹きまわしじゃ?」
ブレンダンが近づいて来ると、マーヴィンの側近達が遮るように前に出ようとするが、マーヴィンが軽く振り払うような仕草を見せると一斉に後ろへ引いた。
常に周囲に気を張り、いつ敵が現れても対応できるよう油断なく構えている。
いまだブレンダンへの警戒も解いていない。マーヴィンの側近は一人一人が精鋭だった。
「すまんなブレンダン。青魔法を極めた者は変身魔法が使える。前国王がジャキル・ミラーに暗殺された件もあるから、こいつらも警戒が強くなっていてな」
「いやいや、頼もしい限りじゃないか。やっとるのは戦争じゃ、後から来たワシが本当に本物かと疑うくらいで丁度いいじゃろ」
頷きながらローブの中へ手を入れ、魔空の枝を取り出す。
「・・・どうじゃな?これで本物だという証拠になるか?」
クラレッサの悪霊とは違うが、魔空の枝からこれまで感じた事のない程強い圧迫感を受け、マーヴィンの側近達は後ろへ下がりたい欲求を辛うじて抑え、その場に立っているだけで精一杯だった。
「ブレンダン、そのくらいで勘弁してやれ。その霊力とやらは持たざる者にはちとキツイぞ」
マーヴィンがブレンダンの肩に手を置くと、ブレンダンは口の端をニヤリと上げて霊力の放出を解いた。
霊力による圧迫感がなくなると、側近達は額に滲んだ汗を拭い大きく息を付いた。
「ほっほっほ、すまんすまん。さて・・・現在の状況についてしっかり聞いておきたいが、その前に掃除をしなければならんようじゃな」
「あぁ、そのようだな。どれ、ブレンダンよ。久しぶりに合わせてみんか?」
「うむ、いいじゃろう。10年ぶりで錆びついておらんじゃろうな?」
「フハハハハ!誰にものを言っておる!?その言葉、そっくりそのまま貴様に返してくれるわ!」
楽しそうにマーヴィンが叫ぶと同時に、高台から帝国軍の兵士達が飛び出してきた。
腰から抜いた剣を天に向ける。銀色の刀身が黒く染まっていく。
「ゆくぞ!鴉(からす)!」
上空から襲い来る帝国兵、迎え撃つマーヴィンは黒い剣を構え飛び上がった。
「テレンス様!た、高台へ向かった隊が・・・か、壊滅しました!」
「・・・なんだと?押していたはずだ・・・なにがあった?」
息を切らせ報告に来た兵士に、テレンスは険しい顔で問い詰めた。
「て、敵の指揮官とブレンダン・ランデルです!剣も魔法も、な、何も通用しません・・・て、手が付けられません!」
「・・・そうか、手ごわい指揮官だとは感じていたが、戦闘力も相当なもののようだな。そしてブレンダン・ランデル・・・」
テレンスにとって、一番嫌な展開になった。
高台に送った隊が撃破された以上、そこからカエストゥス軍が攻めに転じて来るだろう。
そこまでは可能性の一つとして考えていた。
送った隊のどこか一つでも劣勢になれば自分が出るつもりだった。だが想定以上に早い。
随時定期連絡を受けていたが、前回連絡を受けてから、一時間も経っていない。
たったそれだけの時間で、二千人編成で組んだ隊を撃破したというのか?
「ブレンダン・・・ランデル・・・やはり、立ちはだかるか」
「・・・兄さま、あのおじいさんが来たのですね?」
テレンスにとって、一番避けたかった事・・・
「私、行きますね」
「・・・クラレッサ」
いったい何年ぶりだろう。
クラレッサが御霊の目を手にして以来、一度も見た事がなかった。
「・・・嬉しいんだね、クラレッサ」
心からの笑顔
年頃の少女が想い人に会う時のように
頬を染めにこやかに笑う妹の表情は、兄のテレンスに懐かしい風景を思い起こさせた
父がいて母がいて、家族四人で笑い会えていたあの日を・・・
ブレンダンを見るその目には、厳格なマーヴィンには珍しい親しみの色が見えた。
「ほっほっほ、そうじゃな・・・お主が隠居して以来あっておらんかな、それくらいにはなろう。よう復帰したものじゃな?後人に道を譲ると言って、隠居してからは本当に一度も公に現れなかったお主が、どういう風の吹きまわしじゃ?」
ブレンダンが近づいて来ると、マーヴィンの側近達が遮るように前に出ようとするが、マーヴィンが軽く振り払うような仕草を見せると一斉に後ろへ引いた。
常に周囲に気を張り、いつ敵が現れても対応できるよう油断なく構えている。
いまだブレンダンへの警戒も解いていない。マーヴィンの側近は一人一人が精鋭だった。
「すまんなブレンダン。青魔法を極めた者は変身魔法が使える。前国王がジャキル・ミラーに暗殺された件もあるから、こいつらも警戒が強くなっていてな」
「いやいや、頼もしい限りじゃないか。やっとるのは戦争じゃ、後から来たワシが本当に本物かと疑うくらいで丁度いいじゃろ」
頷きながらローブの中へ手を入れ、魔空の枝を取り出す。
「・・・どうじゃな?これで本物だという証拠になるか?」
クラレッサの悪霊とは違うが、魔空の枝からこれまで感じた事のない程強い圧迫感を受け、マーヴィンの側近達は後ろへ下がりたい欲求を辛うじて抑え、その場に立っているだけで精一杯だった。
「ブレンダン、そのくらいで勘弁してやれ。その霊力とやらは持たざる者にはちとキツイぞ」
マーヴィンがブレンダンの肩に手を置くと、ブレンダンは口の端をニヤリと上げて霊力の放出を解いた。
霊力による圧迫感がなくなると、側近達は額に滲んだ汗を拭い大きく息を付いた。
「ほっほっほ、すまんすまん。さて・・・現在の状況についてしっかり聞いておきたいが、その前に掃除をしなければならんようじゃな」
「あぁ、そのようだな。どれ、ブレンダンよ。久しぶりに合わせてみんか?」
「うむ、いいじゃろう。10年ぶりで錆びついておらんじゃろうな?」
「フハハハハ!誰にものを言っておる!?その言葉、そっくりそのまま貴様に返してくれるわ!」
楽しそうにマーヴィンが叫ぶと同時に、高台から帝国軍の兵士達が飛び出してきた。
腰から抜いた剣を天に向ける。銀色の刀身が黒く染まっていく。
「ゆくぞ!鴉(からす)!」
上空から襲い来る帝国兵、迎え撃つマーヴィンは黒い剣を構え飛び上がった。
「テレンス様!た、高台へ向かった隊が・・・か、壊滅しました!」
「・・・なんだと?押していたはずだ・・・なにがあった?」
息を切らせ報告に来た兵士に、テレンスは険しい顔で問い詰めた。
「て、敵の指揮官とブレンダン・ランデルです!剣も魔法も、な、何も通用しません・・・て、手が付けられません!」
「・・・そうか、手ごわい指揮官だとは感じていたが、戦闘力も相当なもののようだな。そしてブレンダン・ランデル・・・」
テレンスにとって、一番嫌な展開になった。
高台に送った隊が撃破された以上、そこからカエストゥス軍が攻めに転じて来るだろう。
そこまでは可能性の一つとして考えていた。
送った隊のどこか一つでも劣勢になれば自分が出るつもりだった。だが想定以上に早い。
随時定期連絡を受けていたが、前回連絡を受けてから、一時間も経っていない。
たったそれだけの時間で、二千人編成で組んだ隊を撃破したというのか?
「ブレンダン・・・ランデル・・・やはり、立ちはだかるか」
「・・・兄さま、あのおじいさんが来たのですね?」
テレンスにとって、一番避けたかった事・・・
「私、行きますね」
「・・・クラレッサ」
いったい何年ぶりだろう。
クラレッサが御霊の目を手にして以来、一度も見た事がなかった。
「・・・嬉しいんだね、クラレッサ」
心からの笑顔
年頃の少女が想い人に会う時のように
頬を染めにこやかに笑う妹の表情は、兄のテレンスに懐かしい風景を思い起こさせた
父がいて母がいて、家族四人で笑い会えていたあの日を・・・
0
お気に入りに追加
142
あなたにおすすめの小説
幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~
月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。
「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。
そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。
『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。
その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。
スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。
※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。)
※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)
いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。
---------
掲載は不定期になります。
追記
「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。
お知らせ
カクヨム様でも掲載中です。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!
夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。
ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。
そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。
視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。
二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。
*カクヨムでも先行更新しております。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
はぁ?とりあえず寝てていい?
夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。
※第二章は全体的に説明回が多いです。
<<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>
お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる