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【356 待ち人】

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「久しいな、ブレンダンよ。10年ぶりか?」

ブレンダンを見るその目には、厳格なマーヴィンには珍しい親しみの色が見えた。

「ほっほっほ、そうじゃな・・・お主が隠居して以来あっておらんかな、それくらいにはなろう。よう復帰したものじゃな?後人に道を譲ると言って、隠居してからは本当に一度も公に現れなかったお主が、どういう風の吹きまわしじゃ?」

ブレンダンが近づいて来ると、マーヴィンの側近達が遮るように前に出ようとするが、マーヴィンが軽く振り払うような仕草を見せると一斉に後ろへ引いた。


常に周囲に気を張り、いつ敵が現れても対応できるよう油断なく構えている。
いまだブレンダンへの警戒も解いていない。マーヴィンの側近は一人一人が精鋭だった。

「すまんなブレンダン。青魔法を極めた者は変身魔法が使える。前国王がジャキル・ミラーに暗殺された件もあるから、こいつらも警戒が強くなっていてな」

「いやいや、頼もしい限りじゃないか。やっとるのは戦争じゃ、後から来たワシが本当に本物かと疑うくらいで丁度いいじゃろ」


頷きながらローブの中へ手を入れ、魔空の枝を取り出す。

「・・・どうじゃな?これで本物だという証拠になるか?」

クラレッサの悪霊とは違うが、魔空の枝からこれまで感じた事のない程強い圧迫感を受け、マーヴィンの側近達は後ろへ下がりたい欲求を辛うじて抑え、その場に立っているだけで精一杯だった。

「ブレンダン、そのくらいで勘弁してやれ。その霊力とやらは持たざる者にはちとキツイぞ」

マーヴィンがブレンダンの肩に手を置くと、ブレンダンは口の端をニヤリと上げて霊力の放出を解いた。

霊力による圧迫感がなくなると、側近達は額に滲んだ汗を拭い大きく息を付いた。

「ほっほっほ、すまんすまん。さて・・・現在の状況についてしっかり聞いておきたいが、その前に掃除をしなければならんようじゃな」

「あぁ、そのようだな。どれ、ブレンダンよ。久しぶりに合わせてみんか?」

「うむ、いいじゃろう。10年ぶりで錆びついておらんじゃろうな?」

「フハハハハ!誰にものを言っておる!?その言葉、そっくりそのまま貴様に返してくれるわ!」

楽しそうにマーヴィンが叫ぶと同時に、高台から帝国軍の兵士達が飛び出してきた。

腰から抜いた剣を天に向ける。銀色の刀身が黒く染まっていく。


「ゆくぞ!鴉(からす)!」


上空から襲い来る帝国兵、迎え撃つマーヴィンは黒い剣を構え飛び上がった。






「テレンス様!た、高台へ向かった隊が・・・か、壊滅しました!」

「・・・なんだと?押していたはずだ・・・なにがあった?」

息を切らせ報告に来た兵士に、テレンスは険しい顔で問い詰めた。

「て、敵の指揮官とブレンダン・ランデルです!剣も魔法も、な、何も通用しません・・・て、手が付けられません!」


「・・・そうか、手ごわい指揮官だとは感じていたが、戦闘力も相当なもののようだな。そしてブレンダン・ランデル・・・」

テレンスにとって、一番嫌な展開になった。
高台に送った隊が撃破された以上、そこからカエストゥス軍が攻めに転じて来るだろう。

そこまでは可能性の一つとして考えていた。
送った隊のどこか一つでも劣勢になれば自分が出るつもりだった。だが想定以上に早い。
随時定期連絡を受けていたが、前回連絡を受けてから、一時間も経っていない。
たったそれだけの時間で、二千人編成で組んだ隊を撃破したというのか?


「ブレンダン・・・ランデル・・・やはり、立ちはだかるか」

「・・・兄さま、あのおじいさんが来たのですね?」

テレンスにとって、一番避けたかった事・・・


「私、行きますね」


「・・・クラレッサ」


いったい何年ぶりだろう。

クラレッサが御霊の目を手にして以来、一度も見た事がなかった。


「・・・嬉しいんだね、クラレッサ」


心からの笑顔

年頃の少女が想い人に会う時のように

頬を染めにこやかに笑う妹の表情は、兄のテレンスに懐かしい風景を思い起こさせた

父がいて母がいて、家族四人で笑い会えていたあの日を・・・
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