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102 王妃様の問いかけ

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「アンリエール王妃様!」

俺以外の三人がその場に膝を付き頭を下げるのを見て、俺も急ぎ膝を付いた。

王妃様の両脇には、俺と同じくらいの身長の女性が二名立っている。

俺と同じくらいに見えるから、二人とも175cm近くはあるだろう。
ケイトも長身だが、それでも170cmだ。この二人はケイトより高い。

二人ともよく似た顔立ちをしている事から、双子だと察する事ができた。

一人は体力型のようだ。背中に自分の背丈程もある片刃の大剣を背負っている。
かなりの重さだと思うが、そんな大物を背負っているのに、表情は涼しいものだった。
動きやすさを考えてか、防具は肩当てと手甲、胸当てくらいで、腰から下には防具は無かった。
ダークブラウンの髪は耳の下くらいまでの短さで、瞳の色も髪の色と同じだった。


もう一人は青魔法使いのようだ。
縁取りに暗めの茶色のパイピングをあしらった、フード付きの青いローブを着ている。
クインズベリー国の青魔法使いの正統な装束だ。

こっちも同じダークブラウンの髪だが、腰のあたりまで長さがある。
瞳も同じ色だが、右目の下に泣き黒子がある。髪の長さと、この泣き黒子で見分けがつく。

20代前半くらいだろう。二人とも切れ長の目で、どちらも整った顔立ちをしているが、その目は油断無く周囲を警戒し、常に気を張っているように見えた。


明らかに一般兵と違う佇まいが気になり、顔を上げて見ていると、大剣を背負った女が咎めるようにキツく睨んできたので、慌てて頭を下げた。

「よいのです。お顔を上げください。レイチェル、ヴァン、お久しぶりですね」

俺が慌てて頭を下げた事を見て、王妃様は気にしない様子で、優しい口調で声をかけてくれた。
その言葉を受け顔を上げると、レイチェルが口を開いた。

「ご無沙汰しております」

「お店が忙しいのでしょう。でも、たまにはお顔を見せてくださいね。またお茶をご一緒しましょう」

「はい。私などでよろしければ、ぜひ」

国王陛下は60歳位に見えたが、王妃様は40歳前くらいだろうか。国王陛下のご年齢を考えると、かなり若く見える。

細く綺麗な金色の髪をアップにしてまとめて、鎖骨が見えて、裾の広いドレスをご着用されている。
真珠のような丸い石の連なったネックレスが良く似合う。

レイチェルと面識があり、聞こえてくる言葉からは、可愛がっている様子が窺える。
とても柔らかい話し方で、優しい方だという事がすぐに分かった。


「ヴァン・・・此度の件、大変でしたね。お体はもうよろしいのですか?」

「はい。お蔭様でもう復帰できております。先ほど、国王様より新隊長への任命をいただきました。精一杯務めさせていただきます」

「まぁ、おめでとう!あなたならきっと最高の隊長になれますわ。頑張ってくださいね」

ヴァンとの話が終わると、王妃様は両脇の二人にそれぞれ顔を向けた。


「紹介が遅れましたが、この二人は私専属の護衛です。大剣を持つ者が姉のリーザ・アコスタ。そして妹で青魔導士のローザ・アコスタです。ご覧の通り双子です」

王妃様に紹介されると、大剣持ちのリーザがその場で口を開いた。

「リーザ・アコスタだ。あなた方の事はアンリエール様より、よくお聞かせいただいている。良い関係を保てる事を期待する」

よく通る声だった。そして短い言葉の中に、意思の強さを感じられた。
リーザが言葉を終えると、続いてローザが言葉を発した。

「ローザ・アコスタです。以後お見知り置きを」

妹のローザは言葉少なく、最低限の挨拶だけだった。
なんとなくだが、二人とも主のためにだけ行動するタイプに思えた。主のためならば命も惜しまないが、それ以外は興味が薄い。そんなタイプのように思える。



二人の挨拶が終わると、王妃様は俺に顔を向けた。

「あなたが、サカキ・アラタですか?」

初対面なのに、名前を知られていた事に驚くと、王妃様はそんな俺の反応を楽しむかのように、少し微笑んだ。その微笑みで、俺の王妃様への緊張感が少し和らいだ気がした。
人へ安心感を与えられる方だと思った。

「は、はい。私がサカキ・アラタです。三ヶ月程前からレイジェスで働いております」

「そうですか。本日、謁見に参られると伺っておりましたので、あなたがそうかなと思いました。協会での事、聞いております。あなたも大変でしたね。御無事で何よりです」

「も、もったいないお言葉です」

「ふふ・・・あまり固くならないでください。私はレイジェスの店長とは古いお付き合いですので、レイジェスの皆さんとは親しくさせていただいております。あなたもレイチェルと一緒にお茶にいらしてくださいね」

まさか俺までお声がけいただくとは思わなかった。
この短い時間の中で、俺は王妃様にとても好印象を持った。お優しい方だ。裏表なく本心からお声をかけて下さっているのだろう。
このような王妃様なら、治安部隊も騎士団も、国を護るため頑張ろうという気持ちが強くなるだろう。


「アンリエール様、実はこのサカキ・アラタは、カチュアにプロポーズしまして、近々結婚いたします」

レイチェルが横から口を挟んできた。少し面白がっている声色だった。

「まぁ!カチュアとですか!?あなたが!?」

王妃様は俺の目の前まで距離を詰めて来た。声のトーンがさっきまでより一つも二つも高い。
その瞳には好奇心がありありと映っている。
どうして女性はこの手の話が好きなのだろう?

「は、はい!そうです。プロポーズの了解はもらってますので、後はカチュアの祖父母へご挨拶をしてからです」

「素晴らしいわ!おめでとう!あの子が選んだのなら、あなたはきっと真面目でお優しい方なのですね。どうかカチュアを幸せにしてくださいね」

王妃様の表情は、本心から祝福してくれているようだ。とても優しい笑みで俺に祝福の言葉をかけてくださっている。

「はい、絶対にカチュアを幸せにします!」

このお言葉を受け、俺は強く気持ちを込めて返事をした。

どうして王妃様が街のリサイクルショップの店員と、ここまで良好で深い関係なのか気になったが、それはあとでレイチェルに聞こうと思った。

俺の返事に、王妃様は満足されたように頷くと、最後にエルウィンにお顔を向けた。


「王妃様、この者は治安部隊見習いで、エルウィン・レブロンと申します」

王妃様の視線を見て、ヴァンが素早くエルウィンを紹介した。

「エルウィン・レブロンです。見習いですが、どうぞお見知り置きを」

「はい。エルウィンですね。ヴァンが今日ここに連れて来るという事は、あなたは見込みがあると思われているんですね。頑張ってくださいね」

「は、はい!この国のため、命をかけて頑張ります!」

「ふふ、張り切り過ぎないでくださいね」

緊張のあまり、全力で宣言したエルウィンにも、王妃様は優しくお声をかけた。



「レイチェル、しばらくお会いしてませんが、バリオス店長はお元気ですか?」

 

「・・・はい。仕入れで店を開けておりますが、あの店長ですから、変わりないかと存じます。今月末には戻る予定です。そう言えば、ケイトも王妃様にお会いしたがっておりました」

王妃様の質問に、レイチェルは少しだけ間を空けて返事をした。

帰ってきたか、では無く、お元気ですか? その問いかたで、レイチェルは言葉を選んで答えなければならないと察した。

「そうですか。ケイトにもしばらくお会いしてませんね。レイチェル、私もケイトにお会いしたいので、近いうちにお時間を作って皆でお茶をしましょう。それと、最近お菓子を沢山いただきまして、食べきれないのです。レイジェスの皆さんで召し上がってくださいませんか?近日中に使いに持たせますので」

「はい。お心遣いに感謝いたします。みんなきっと喜びます」

レイチェルの言葉を聞くと、王妃様は、それではまた、と言って二人の護衛を連れてその場を離れて行った。
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