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103 考察
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城を出て、来た時と同じ馬車の前まで着くと、エルウィンが大きく溜息を付き、両手を上げて背伸びをした。
「ん~~~!やっぱ緊張感すごいッスね!俺、王妃様とお話しできるなんて思ってもなかったですよ!それに、あんなにお優しい方なんですね。なんか、仕事頑張ろうって気持ちが強くなりました」
「クックック、そうだな。王妃様は昔からあのように、誰にでもお声掛けをしてくださる方だ。俺が副隊長になった時にも、労いのお言葉をいただいたな。それにしても、まさかレイジェスは全員が親しくしているってのには驚いたな。レイチェル、どういう繋がりなんだ?」
ヴァンが興味深そうに、レイチェルに話しを振ると、レイチェルは馬車のワゴンに背中をかけて、空を見上げながら答えた。
「・・・バリオス店長の繋がりってとこかな。私が店で働き始めるより、もっと前から店長は王妃様とお付き合いがあったみたいだね。詳しい事は知らないんだけどさ・・・私が働き始めて慣れて来た頃かな、ある日店長に連れられて城に来たんだ。そこで初めて王妃様に紹介されて、私はそこからのお付き合いだ。レイジェスの他の皆も同じだよ。店長に連れられて王妃様にご挨拶に行って、それから親しくしていただいている」
「・・・レイジェスの店長って何者だよ?普通、街のリサイクルショップの店長の紹介で、王妃様に会うなんてできねぇぞ」
ヴァンが当然の疑問を口にする。
俺も会った事はないが、王妃様から直々のご依頼を受けるなんて、本当に何者だと思う。
「私もほとんど知らないんだ。バリオスという性しか知らない。正確な年齢も知らない。でもね、秘密の多い人だけど、私は店長を信用してるよ。店長は嘘を付かないし、誰かのために自分を犠牲できる人だ。ヴァンも今度会いに来なよ。きっと学ぶところがあるから」
「へぇ・・・そこまで言うなら興味が出て来たな。10月中には帰ってくるんだったよな?その頃、行かせてもらうぜ」
「俺もまだ会った事はないんだけど、レイチェルや皆の話を聞いてると、どんな人なのかすごく興味はあるんだ。今月末か、なんだか今から緊張してくるよ」
「アラタも三ヶ月働いて、まだ会ってないんだもんな。まぁ、今月中には会えるから、楽しみにしてなよ」
「なぁ、ところで今回国王様へ謁見して、気になる事ができたんだが、お前達の意見を聞かせてくれないか?」
ふいにヴァンが真顔になり、やや固い口調で話してきた。
もしや、俺が感じた違和感をヴァンも感じていたのか?
そう思い、どうしたんだ?と聞くと、ヴァンは周りに誰もいないか確認するように視線を巡らせて話し出した。
「・・・今回、治安部隊が騎士団の指揮下に入ったのは話したよな。騎士団の団長はトレバー・ベナビデス。公爵家の長男だ。これも話したが、トレバーは団長で階級もゴールドだが、実力はせいぜいシルバー止まりだ。今日あったレミューの方が上だろう」
騎士団には、魔法使いもいる。魔法騎士という名称だ。レミューは身なりから体力型と判断できた。
トレバーという人物は俺は見た事が無いから比べられないが、レイチェルは会った事があるようで、ヴァンに同意して頷いている。
トレバーも体力型だが、レミューの方が上と見たのだろう。
「それでな、前から少し引っかかってはいたんだ。トレバーはエリザベート王女様の婚約者候補だ。家柄もいいし、騎士団団長だから資格はある。あるんだが、決め手に欠けるんだ。やはり、実力が伴わないゴールドってのは分かるんだよ。だから、反対派を黙らせる実績が欲しい。それが、今回の治安部隊を指揮下に置いた事だと思う」
そこまで聞いて、俺はヴァンの言いたい事が分かった。
「つまり、反発し合う騎士団と治安部隊を一つにまとめ上げる事で、それを功績としてトレバーと王女様のご婚約を成立させるって事か?」
俺の推察に、ヴァンは指を指し頷いた。
「そうだ。俺はそう考えている。ハッキリ言って、俺は国益としてマイナスだと思っている。ただでさえ、騎士団は質が低い。今、騎士団がなんとか形を保っているのは、五人いるゴールドの内、まともな二人と、レミューのようなシルバーが、少ないながらも頑張ってフォローし、バランスを取っているからだ。以前の国王様ならば、トレバーなんて団長には任命しなかっただろう。今回のように治安部隊を騎士団の指揮下になんて考えられない。質を落とすだけだ。そして、武闘派の国王様が、実力の足りないトレバーを、エリザベート王女様の婚約者候補にするなど、到底信じられん!」
ヴァンは強い口調で、一息に吐き出した。溜め込んでいたものがあったのだろう、言い切った後も、やや表情が険しかった。
「隊長・・・大丈夫ですか?」
そんなヴァンを見て、エルウィンが心配そうに声をかけた。
「エルウィン・・・悪いな。隊長の俺が感情的になった・・・ここにいるメンツだから話した事だ。隊の中では、今聞いた事は黙っていてくれ」
ヴァンの言葉に、エルウィンは力強く頷いた。
「はい!ヴァン隊長、俺は隊長に付いて行くって決めてますから、だから隊長の信じるようにやってください!」
「エルウィン・・・クックック、いけねぇな。隊長の俺が元気付けられてちゃ世話ねぇぜ」
いつもの含み笑いをすると、ヴァンは落ち着いたように、俺とレイチェルに顔を向けた。
「そういうわけだ。俺は、国王様にはなにかお考えあっての事だと信じたかった。だがな、今日謁見して分かった。やはり噂通り、そして俺達が薄々感じている通りだ。すっかりお変わりになられた。まるでこの国を弱体化させたいかのようだ。お前達はどう思う?」
ヴァンの言葉を受け、レイチェルが口を開いた。
「私も同意見だ。エリザベート王女様と、トレバーのご婚約の事は今初めて聞いたけど、まぁ・・・無いな。トレバーは利権を優先して行動する。それはそれで全否定するつもりはない。貴族達の機嫌を取る事が必要な場合もあるだろう。でも、トップに立つのならば、それでは駄目だ。そして、王女様にあの男はふさわしくない。それは国王様もお分かりだろうに・・・以前の国王様のイメージだと、やはりトレバーを婚約者候補に持って来る事は考え難いな」
レイチェルは腕を組み、自分の言葉を確認するように、一つ一つゆっくりと言葉にした。
会った事は無いが、ヴァンとレイチェルが揃って否定している事から、トレバーという男は、騎士団のトップにはふさわしくないのだろうと思った。
話しの流れから、俺は自分が国王陛下に感じた違和感を口に出した。
「実はさ、俺、今日初めて国王陛下にお会いしたけど、なんて言うか・・・違和感があった」
「違和感?」
レイチェルが少し眉を潜めて聞き返してきた。
ヴァンも、国王陛下への違和感という言葉に反応して、表情が厳しくなっている。
「あぁ、初めてお会いしたのに、おかしな事言うと思うけど、あの国王陛下は本当に国王・・・」
そこまで口にして、俺は一つの仮説に行き当たった。
王妃様が店長に依頼されてるのは真実の花。
真実の花は催眠状態を治したり、魔法で姿形を変えていてもその効果を消す事ができる。
・・・今の国王陛下は偽者なのか?
「・・・アラタ、つまりキミは、今の国王陛下は偽者だと思ったわけだね?」
俺の表情を見て、レイチェルが考えを読んだように言葉を発した。
レイチェルと目が合う。レイチェルも同じ考えのようだ。
「キミが感じた違和感とやらは、私は感じなかった。だけど、姿形に関する違和感は感じ取れなくても、不可解な政策に関しての違和感はずっと持っていたよ。今日、王妃様にお会いして、そして今のキミの話も聞いて、私はほぼ確信した」
真実の花の件を知らないヴァンとエルウィンは、訝し気に思っていても、偽者という発想にまでは至っていなかったようだ。
「レイチェル・・・」
「あぁ、話しておくべきだ。この二人なら問題ない。今後の国の行方を左右しかねない話だと思う。レイジェスと治安部隊の協力体制を強化しておくべきだ」
「なんの話だ?」
俺とレイチェルのやりとりに、ヴァンは少し眉を寄せて口を挟んできた。
俺とレイチェルは、王妃様のご依頼で、バリオス店長とケイトが真実の花を取りに、長期間店を出ていた事を話した。
一連の話に、ヴァンとエルウィンは大分衝撃を受けたようだ。
そして、俺とレイチェルの、国王様は偽者ではという仮説にも、頷いて返した。
「・・・そうか。それならば説明がつくな。数年前に偽者に取って代わられたこの国は、少しづつ、弱体化の道を歩かされたという訳か。貿易でもブロートンやロンズデールが有利になっている物が増えてきている。国防なんか今が正に分水点だ。そして王女様の婚約者にトレバーなんかあてがえば、腐敗は一気に進むぞ」
ヴァンは全てに合点がいったようだ。
エルウィンも真剣な面持ちで、俺達の話と、ヴァンの言葉を受け止めている。
「ヴァン、私は王妃様の身辺が気がかりだ。国王様を偽者と仮定して話を進めるが、数年前からこの国を弱体化させるため動いていたとして、慎重なヤツという印象を持つ。時間をかけて一つ一つ、異論を挟ませないように進めてきたようだ。だが、王妃様が真実の花を依頼した事が分かれば、強硬手段にでるかもしれない。さっき会った護衛の二人を知っているか?私は初めてみた。去年まではいなかったと思うが」
リーザ・アコスタとローザ・アコスタ。王妃様の両脇に立った双子の護衛を思い出す。
レイチェルは全く面識が無さそうだったが、治安部隊のヴァンならば、なにか知っているのかもしれないと思ったのだろう。だが、ヴァンも首を横に振った。
「いや、俺も初めて見る顔だ。去年お会いした時には、確か王宮の護衛が数名付いていたと思う。いずれも男だったと思うが、国王様、王妃様の御二人には、軍隊の中でも選りすぐりの者が付いていたはずだ。だが、今日の二人は異質だったな。大剣持ち、あれは強いぞ」
「あぁ、確かに異質だった。ヴァンも知らないなら、この国の者ではないかもしれないな。王妃様の専属護衛を務める程の実力者であれば、もっと名が知れ渡っているはずだ。そして大剣持ちのあの身なりは目立つ。なのに、アコスタなんて名前は初めて聞いたぞ。おそらくここ一年程の間に、あの二人が専属の護衛として付く事になったんだな。そして、ほとんど城の外には出ないのだろう。気になる存在だが、大剣持ちの方は、良い関係を保ちたいと言っていた。そして王妃様がお心を許していらっしゃるのならば・・・今のところ信用していいとは思う」
「あぁ・・・確かにな。俺達を敵視はしていなかった。素性が知れないが、王妃様の御人柄を考えれば、信用していい存在ではあるだろう。だが、俺は俺で調べてみる。全く情報が無いのは心配だし、万一という事もある。何か分かればエルウィンを使いに出そう」
「すまないな。情報収集は治安部隊が一番だろう。頼りにさせてもらうよ。レイジェスでもなにか分かれば、治安部隊に知らせに行くようにするよ」
レイチェルが、ヴァンとエルウィンにお礼の言葉を言うと、エルウィンは、まかせてください!と胸を叩いた。
今後はレイジェスと治安部隊で、より情報交換を綿密に行い、協力体制を強化しようという事で、話が落ち着いた。レイチェルのリーダーシップはやはり大きいなと思った。
バリオス店長という人がどんな人かは分からないが、半年近くも店を留守にできる事が分かる気がした。
それだけレイチェルは信頼できるのだ。
俺もレイチェルにはどれだけ助けられたか分からない。本当にすごい女性だと思う。
「ん~~~!やっぱ緊張感すごいッスね!俺、王妃様とお話しできるなんて思ってもなかったですよ!それに、あんなにお優しい方なんですね。なんか、仕事頑張ろうって気持ちが強くなりました」
「クックック、そうだな。王妃様は昔からあのように、誰にでもお声掛けをしてくださる方だ。俺が副隊長になった時にも、労いのお言葉をいただいたな。それにしても、まさかレイジェスは全員が親しくしているってのには驚いたな。レイチェル、どういう繋がりなんだ?」
ヴァンが興味深そうに、レイチェルに話しを振ると、レイチェルは馬車のワゴンに背中をかけて、空を見上げながら答えた。
「・・・バリオス店長の繋がりってとこかな。私が店で働き始めるより、もっと前から店長は王妃様とお付き合いがあったみたいだね。詳しい事は知らないんだけどさ・・・私が働き始めて慣れて来た頃かな、ある日店長に連れられて城に来たんだ。そこで初めて王妃様に紹介されて、私はそこからのお付き合いだ。レイジェスの他の皆も同じだよ。店長に連れられて王妃様にご挨拶に行って、それから親しくしていただいている」
「・・・レイジェスの店長って何者だよ?普通、街のリサイクルショップの店長の紹介で、王妃様に会うなんてできねぇぞ」
ヴァンが当然の疑問を口にする。
俺も会った事はないが、王妃様から直々のご依頼を受けるなんて、本当に何者だと思う。
「私もほとんど知らないんだ。バリオスという性しか知らない。正確な年齢も知らない。でもね、秘密の多い人だけど、私は店長を信用してるよ。店長は嘘を付かないし、誰かのために自分を犠牲できる人だ。ヴァンも今度会いに来なよ。きっと学ぶところがあるから」
「へぇ・・・そこまで言うなら興味が出て来たな。10月中には帰ってくるんだったよな?その頃、行かせてもらうぜ」
「俺もまだ会った事はないんだけど、レイチェルや皆の話を聞いてると、どんな人なのかすごく興味はあるんだ。今月末か、なんだか今から緊張してくるよ」
「アラタも三ヶ月働いて、まだ会ってないんだもんな。まぁ、今月中には会えるから、楽しみにしてなよ」
「なぁ、ところで今回国王様へ謁見して、気になる事ができたんだが、お前達の意見を聞かせてくれないか?」
ふいにヴァンが真顔になり、やや固い口調で話してきた。
もしや、俺が感じた違和感をヴァンも感じていたのか?
そう思い、どうしたんだ?と聞くと、ヴァンは周りに誰もいないか確認するように視線を巡らせて話し出した。
「・・・今回、治安部隊が騎士団の指揮下に入ったのは話したよな。騎士団の団長はトレバー・ベナビデス。公爵家の長男だ。これも話したが、トレバーは団長で階級もゴールドだが、実力はせいぜいシルバー止まりだ。今日あったレミューの方が上だろう」
騎士団には、魔法使いもいる。魔法騎士という名称だ。レミューは身なりから体力型と判断できた。
トレバーという人物は俺は見た事が無いから比べられないが、レイチェルは会った事があるようで、ヴァンに同意して頷いている。
トレバーも体力型だが、レミューの方が上と見たのだろう。
「それでな、前から少し引っかかってはいたんだ。トレバーはエリザベート王女様の婚約者候補だ。家柄もいいし、騎士団団長だから資格はある。あるんだが、決め手に欠けるんだ。やはり、実力が伴わないゴールドってのは分かるんだよ。だから、反対派を黙らせる実績が欲しい。それが、今回の治安部隊を指揮下に置いた事だと思う」
そこまで聞いて、俺はヴァンの言いたい事が分かった。
「つまり、反発し合う騎士団と治安部隊を一つにまとめ上げる事で、それを功績としてトレバーと王女様のご婚約を成立させるって事か?」
俺の推察に、ヴァンは指を指し頷いた。
「そうだ。俺はそう考えている。ハッキリ言って、俺は国益としてマイナスだと思っている。ただでさえ、騎士団は質が低い。今、騎士団がなんとか形を保っているのは、五人いるゴールドの内、まともな二人と、レミューのようなシルバーが、少ないながらも頑張ってフォローし、バランスを取っているからだ。以前の国王様ならば、トレバーなんて団長には任命しなかっただろう。今回のように治安部隊を騎士団の指揮下になんて考えられない。質を落とすだけだ。そして、武闘派の国王様が、実力の足りないトレバーを、エリザベート王女様の婚約者候補にするなど、到底信じられん!」
ヴァンは強い口調で、一息に吐き出した。溜め込んでいたものがあったのだろう、言い切った後も、やや表情が険しかった。
「隊長・・・大丈夫ですか?」
そんなヴァンを見て、エルウィンが心配そうに声をかけた。
「エルウィン・・・悪いな。隊長の俺が感情的になった・・・ここにいるメンツだから話した事だ。隊の中では、今聞いた事は黙っていてくれ」
ヴァンの言葉に、エルウィンは力強く頷いた。
「はい!ヴァン隊長、俺は隊長に付いて行くって決めてますから、だから隊長の信じるようにやってください!」
「エルウィン・・・クックック、いけねぇな。隊長の俺が元気付けられてちゃ世話ねぇぜ」
いつもの含み笑いをすると、ヴァンは落ち着いたように、俺とレイチェルに顔を向けた。
「そういうわけだ。俺は、国王様にはなにかお考えあっての事だと信じたかった。だがな、今日謁見して分かった。やはり噂通り、そして俺達が薄々感じている通りだ。すっかりお変わりになられた。まるでこの国を弱体化させたいかのようだ。お前達はどう思う?」
ヴァンの言葉を受け、レイチェルが口を開いた。
「私も同意見だ。エリザベート王女様と、トレバーのご婚約の事は今初めて聞いたけど、まぁ・・・無いな。トレバーは利権を優先して行動する。それはそれで全否定するつもりはない。貴族達の機嫌を取る事が必要な場合もあるだろう。でも、トップに立つのならば、それでは駄目だ。そして、王女様にあの男はふさわしくない。それは国王様もお分かりだろうに・・・以前の国王様のイメージだと、やはりトレバーを婚約者候補に持って来る事は考え難いな」
レイチェルは腕を組み、自分の言葉を確認するように、一つ一つゆっくりと言葉にした。
会った事は無いが、ヴァンとレイチェルが揃って否定している事から、トレバーという男は、騎士団のトップにはふさわしくないのだろうと思った。
話しの流れから、俺は自分が国王陛下に感じた違和感を口に出した。
「実はさ、俺、今日初めて国王陛下にお会いしたけど、なんて言うか・・・違和感があった」
「違和感?」
レイチェルが少し眉を潜めて聞き返してきた。
ヴァンも、国王陛下への違和感という言葉に反応して、表情が厳しくなっている。
「あぁ、初めてお会いしたのに、おかしな事言うと思うけど、あの国王陛下は本当に国王・・・」
そこまで口にして、俺は一つの仮説に行き当たった。
王妃様が店長に依頼されてるのは真実の花。
真実の花は催眠状態を治したり、魔法で姿形を変えていてもその効果を消す事ができる。
・・・今の国王陛下は偽者なのか?
「・・・アラタ、つまりキミは、今の国王陛下は偽者だと思ったわけだね?」
俺の表情を見て、レイチェルが考えを読んだように言葉を発した。
レイチェルと目が合う。レイチェルも同じ考えのようだ。
「キミが感じた違和感とやらは、私は感じなかった。だけど、姿形に関する違和感は感じ取れなくても、不可解な政策に関しての違和感はずっと持っていたよ。今日、王妃様にお会いして、そして今のキミの話も聞いて、私はほぼ確信した」
真実の花の件を知らないヴァンとエルウィンは、訝し気に思っていても、偽者という発想にまでは至っていなかったようだ。
「レイチェル・・・」
「あぁ、話しておくべきだ。この二人なら問題ない。今後の国の行方を左右しかねない話だと思う。レイジェスと治安部隊の協力体制を強化しておくべきだ」
「なんの話だ?」
俺とレイチェルのやりとりに、ヴァンは少し眉を寄せて口を挟んできた。
俺とレイチェルは、王妃様のご依頼で、バリオス店長とケイトが真実の花を取りに、長期間店を出ていた事を話した。
一連の話に、ヴァンとエルウィンは大分衝撃を受けたようだ。
そして、俺とレイチェルの、国王様は偽者ではという仮説にも、頷いて返した。
「・・・そうか。それならば説明がつくな。数年前に偽者に取って代わられたこの国は、少しづつ、弱体化の道を歩かされたという訳か。貿易でもブロートンやロンズデールが有利になっている物が増えてきている。国防なんか今が正に分水点だ。そして王女様の婚約者にトレバーなんかあてがえば、腐敗は一気に進むぞ」
ヴァンは全てに合点がいったようだ。
エルウィンも真剣な面持ちで、俺達の話と、ヴァンの言葉を受け止めている。
「ヴァン、私は王妃様の身辺が気がかりだ。国王様を偽者と仮定して話を進めるが、数年前からこの国を弱体化させるため動いていたとして、慎重なヤツという印象を持つ。時間をかけて一つ一つ、異論を挟ませないように進めてきたようだ。だが、王妃様が真実の花を依頼した事が分かれば、強硬手段にでるかもしれない。さっき会った護衛の二人を知っているか?私は初めてみた。去年まではいなかったと思うが」
リーザ・アコスタとローザ・アコスタ。王妃様の両脇に立った双子の護衛を思い出す。
レイチェルは全く面識が無さそうだったが、治安部隊のヴァンならば、なにか知っているのかもしれないと思ったのだろう。だが、ヴァンも首を横に振った。
「いや、俺も初めて見る顔だ。去年お会いした時には、確か王宮の護衛が数名付いていたと思う。いずれも男だったと思うが、国王様、王妃様の御二人には、軍隊の中でも選りすぐりの者が付いていたはずだ。だが、今日の二人は異質だったな。大剣持ち、あれは強いぞ」
「あぁ、確かに異質だった。ヴァンも知らないなら、この国の者ではないかもしれないな。王妃様の専属護衛を務める程の実力者であれば、もっと名が知れ渡っているはずだ。そして大剣持ちのあの身なりは目立つ。なのに、アコスタなんて名前は初めて聞いたぞ。おそらくここ一年程の間に、あの二人が専属の護衛として付く事になったんだな。そして、ほとんど城の外には出ないのだろう。気になる存在だが、大剣持ちの方は、良い関係を保ちたいと言っていた。そして王妃様がお心を許していらっしゃるのならば・・・今のところ信用していいとは思う」
「あぁ・・・確かにな。俺達を敵視はしていなかった。素性が知れないが、王妃様の御人柄を考えれば、信用していい存在ではあるだろう。だが、俺は俺で調べてみる。全く情報が無いのは心配だし、万一という事もある。何か分かればエルウィンを使いに出そう」
「すまないな。情報収集は治安部隊が一番だろう。頼りにさせてもらうよ。レイジェスでもなにか分かれば、治安部隊に知らせに行くようにするよ」
レイチェルが、ヴァンとエルウィンにお礼の言葉を言うと、エルウィンは、まかせてください!と胸を叩いた。
今後はレイジェスと治安部隊で、より情報交換を綿密に行い、協力体制を強化しようという事で、話が落ち着いた。レイチェルのリーダーシップはやはり大きいなと思った。
バリオス店長という人がどんな人かは分からないが、半年近くも店を留守にできる事が分かる気がした。
それだけレイチェルは信頼できるのだ。
俺もレイチェルにはどれだけ助けられたか分からない。本当にすごい女性だと思う。
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