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第十章
10.願いを一つだけ【3】
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「ほら、ヴォル。固まってないで自分で尻拭いしなって」
「……あ、いや……違うぞ、メル」
ベンダーツさんに言われて、漸くヴォルが再起動しました。
あたふたと中途半端に伸ばしていた手を振り、私へと言葉を紡ぎます。
「だから……その、俺は……」
珍しくしどろもどろになっているヴォルに、私は場違いにも可愛いと思ってしまいました。
顔色を悪くして慌てているヴォルは新鮮です。普段は私の方が右往左往させられる側なので、他意があっての事ではないと逆に確信出来ました。
魔力を失うかもしれないという結果を考える事なく、私を選んでくれたようです。彼を見ていて、私はストンと納得出来てしまいました。
「俺は俺の為にやったのであって……その、メルがいない世界は不要で……。いや、メルの為を思って行った事でもあるのだが……それは決してメルに重荷を与えるつもりではなく……」
「ヴォルが、私を望んでくれたのですか?」
懸命に説明しようとしているヴォルに、私は自身の心に浮かんだ問いをそのまま向けます。
「そ、そうだ。メルの命を取り戻せるなら、俺のい……」
「それ以上はダメです」
続けられようとしたヴォルの言葉を、私は自分の指を彼の唇に当てる事で止めました。
これまでの経験上、後ろに続く単語が予想出来たのです。彼は自分の『命』を軽く考え過ぎなのでした。
──すぐに命を捨てようとしてはダメです。
私は心で思う事で伝わっていると信じ、精霊さんを通じてヴォルに気持ちを伝えました。
「……ひゃっ!?」
ですが直後起きた出来事に驚き、私は変な声をあげてヴォルの唇へ伸ばしていた手を引きます。
何故なのか──ヴォルの言葉を止めていた指先を舐められたのでした。今はそんな雰囲気ではなかった筈です。
熱くなった顔を隠す余裕もなく向けた視線の先で、ヴォルはニヤッと悪そうな笑みを浮かべていました。先程のワタワタとしたヴォルは何処へ行ってしまったのでしょうか。
あまりの変化に混乱しそうですが、とにかくこれは怒っても良い案件だと判断しました。
「もぅ!」
私はムッとした表情を見せ、彼に背を向けます。
至極真面目な話をしていた筈でした。私にとっての衝撃的な情報が多く──かなり多くありましたけど。
「きゃっ!」
苛立ちを態度と言葉で表せば、すぐに私がおかしな叫び声をあげるはめになりました。
何故ならば背を向けた私は、勢い良くヴォルの腕の中へ抱き竦められてしまったからです。
「マーク。俺の腕はまだか」
そのままの体勢で、ベンダーツさんへ問い掛けるヴォルでした。
何をするのかと声を上げようとしましたが、ヴォルの発した声音に私は言葉を呑み込みます。
「ったく、現金なヤツだなぁ。まだだよ、そんなに簡単に出来るか。オーダーメイド舐めるなよっ。もう暫く焦れてろ」
呆れたようなムッとしたような複雑な顔で、ベンダーツさんは製作途中の腕を振って見せました。
確かに彼の座っている前に並んだ義手の材料には、手付かずで残っているものも多くなります。
「片手でも出来なくはないが……」
小さく呟かれたヴォルの言葉に、私はギョッとして身体を固くしました。
この話の流れは不味い気がします。触れ合っている彼の身体が酷く熱く感じられました。
「ちょっと、俺がいる事を忘れないでよ?」
私の反応に気付いてか、ベンダーツさんがこちらを見る事なく告げます。
「……分かってる」
「ど~だか」
渋々返答を返したヴォルへ、ベンダーツさんから冷たい言葉がぶつけられました。
あの、こんな時になんですが──。何だか先程の話がうやむやになっている事に気付いたのです。
精霊さんと私の関係はどうなったのか、結構重要な内容だったように思いました。
「あの、ヴォル?私の中の精霊さんは、どうなるのでしょうか」
「……いずれメルと完全同化する。意思の疎通も出来なくなるだろうな」
突然の私の問いに、ヴォルは一瞬止まります。ですがヴォルはいつものように、真っ直ぐな返答を返してくれました。
その瞳の奥にはまだ熱が見え隠れしていましたが、私の意識はその時既に自身の内側へ向いていたのです。
「……あ、いや……違うぞ、メル」
ベンダーツさんに言われて、漸くヴォルが再起動しました。
あたふたと中途半端に伸ばしていた手を振り、私へと言葉を紡ぎます。
「だから……その、俺は……」
珍しくしどろもどろになっているヴォルに、私は場違いにも可愛いと思ってしまいました。
顔色を悪くして慌てているヴォルは新鮮です。普段は私の方が右往左往させられる側なので、他意があっての事ではないと逆に確信出来ました。
魔力を失うかもしれないという結果を考える事なく、私を選んでくれたようです。彼を見ていて、私はストンと納得出来てしまいました。
「俺は俺の為にやったのであって……その、メルがいない世界は不要で……。いや、メルの為を思って行った事でもあるのだが……それは決してメルに重荷を与えるつもりではなく……」
「ヴォルが、私を望んでくれたのですか?」
懸命に説明しようとしているヴォルに、私は自身の心に浮かんだ問いをそのまま向けます。
「そ、そうだ。メルの命を取り戻せるなら、俺のい……」
「それ以上はダメです」
続けられようとしたヴォルの言葉を、私は自分の指を彼の唇に当てる事で止めました。
これまでの経験上、後ろに続く単語が予想出来たのです。彼は自分の『命』を軽く考え過ぎなのでした。
──すぐに命を捨てようとしてはダメです。
私は心で思う事で伝わっていると信じ、精霊さんを通じてヴォルに気持ちを伝えました。
「……ひゃっ!?」
ですが直後起きた出来事に驚き、私は変な声をあげてヴォルの唇へ伸ばしていた手を引きます。
何故なのか──ヴォルの言葉を止めていた指先を舐められたのでした。今はそんな雰囲気ではなかった筈です。
熱くなった顔を隠す余裕もなく向けた視線の先で、ヴォルはニヤッと悪そうな笑みを浮かべていました。先程のワタワタとしたヴォルは何処へ行ってしまったのでしょうか。
あまりの変化に混乱しそうですが、とにかくこれは怒っても良い案件だと判断しました。
「もぅ!」
私はムッとした表情を見せ、彼に背を向けます。
至極真面目な話をしていた筈でした。私にとっての衝撃的な情報が多く──かなり多くありましたけど。
「きゃっ!」
苛立ちを態度と言葉で表せば、すぐに私がおかしな叫び声をあげるはめになりました。
何故ならば背を向けた私は、勢い良くヴォルの腕の中へ抱き竦められてしまったからです。
「マーク。俺の腕はまだか」
そのままの体勢で、ベンダーツさんへ問い掛けるヴォルでした。
何をするのかと声を上げようとしましたが、ヴォルの発した声音に私は言葉を呑み込みます。
「ったく、現金なヤツだなぁ。まだだよ、そんなに簡単に出来るか。オーダーメイド舐めるなよっ。もう暫く焦れてろ」
呆れたようなムッとしたような複雑な顔で、ベンダーツさんは製作途中の腕を振って見せました。
確かに彼の座っている前に並んだ義手の材料には、手付かずで残っているものも多くなります。
「片手でも出来なくはないが……」
小さく呟かれたヴォルの言葉に、私はギョッとして身体を固くしました。
この話の流れは不味い気がします。触れ合っている彼の身体が酷く熱く感じられました。
「ちょっと、俺がいる事を忘れないでよ?」
私の反応に気付いてか、ベンダーツさんがこちらを見る事なく告げます。
「……分かってる」
「ど~だか」
渋々返答を返したヴォルへ、ベンダーツさんから冷たい言葉がぶつけられました。
あの、こんな時になんですが──。何だか先程の話がうやむやになっている事に気付いたのです。
精霊さんと私の関係はどうなったのか、結構重要な内容だったように思いました。
「あの、ヴォル?私の中の精霊さんは、どうなるのでしょうか」
「……いずれメルと完全同化する。意思の疎通も出来なくなるだろうな」
突然の私の問いに、ヴォルは一瞬止まります。ですがヴォルはいつものように、真っ直ぐな返答を返してくれました。
その瞳の奥にはまだ熱が見え隠れしていましたが、私の意識はその時既に自身の内側へ向いていたのです。
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