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第十章
10.願いを一つだけ【4】
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〈うん、分かってるよ〉
平然と答える声が脳内に響きます。
勿論相手は、ヴォルから先程『いずれ私に同化して一体になってしまう』と言われた私の中の精霊さんでした。
──何故そんなふうに、平然といられるのでしょうか。
〈僕達は全てが繋がっているからね。人間だって獣だって、世界の皆が一つなんだから。僕が僕としての意思があろうとなかろうと、消えてなくなってしまう訳ではないんだ。そんなに不安そうな顔をしないで大丈夫だよ〉
私の内心の疑問に当たり前のように答えてくれました。
それどころか、頭の中で響く精霊さんの声には悲観したところが一切ありません。それでも私には、自分の思いとは別の『存在』になる事が想像出来ませんでした。
精霊さん独自の──達観したものの考え方と言うべきでしょうか。『個』である意識がなくなっても、それは『死』ではないと言い切られてしまいました。
〈生き物が死んでもその肉体は他の生物の糧になるでしょ。そしていずれ土に返り、他の生物を育てる土台になる〉
精霊さんは肉体も世界の一部なのだと告げています。
──でも人間は魔物になるって聞きました。
〈そうだね。それでも、人間を食べた魔物は死んだら土に返るでしょ?命は全てが繋がっているのだからね〉
精霊さんは穏やかに話してくれます。
何故かこうして聞いていると、実際にそうなのかもしれないと思えてきてしまいました。
──すぐには、自分の意思が失くなってしまう事を認められないですが。
〈今は分からないかもしれないけど、僕は君の一部になるだけ。ただそれだけで、消えてしまう訳ではないよ。君が君を大切にする限り、僕は君の中で生き続ける。だから怖くないし、不安なんてないんだよ〉
精霊さんがにっこりと微笑んだような気がしました。
命は全てが繋がっている──ですか。人は生と死を全く別のものだと考えがちですが、大きな世界観で見たらそうではないのかもしれませんでした。
「メル?」
僅かに不安をのせたヴォルの声が聞こえました。
不意に耳元で声をかけられ、私はハッと振り返ります。そういえば──今更ですが、後ろから抱き締められていました。
少し前までヴォルと話していて、急に口をつぐんでしまったようです。
「どうした、メル。急に考え込んでしまったが、何かあったのか」
「あ、いえ……」
心配そうなヴォルでした。
それまで話していた内容が内容だけに、黙っていては余計に不安にさせてしまいかねません。自分に置き換えてみても、やはり話してくれる方が安心だと断言出来るのでした。
これ以上心配かけてはいけないと思い、私はきちんと説明します。
「精霊さんと、その……お話をしていました」
「……そうか」
「はい」
ヴォルはそれ以上何も聞いてきませんでした。
普通なら少しおかしい人だと思われかねませんが、彼は直接精霊さんを見てお話が出来る人です。
更には私の内側にいる精霊さんともお話が可能なようですから、もしかしたら私との会話も筒抜けかもしれませんでした。
「何、メルも精霊と会話が出来るのぉ?俺は見る事も出来ないのにさぁ」
一人で拗ねたようにブツブツと呟くベンダーツさんです。
それでも手元は動いていて、着実に義手を作り上げていっていました。──本当にベンダーツさんの能力値は半端ないです。
私なら喋っている時は手に意識が回らず、そのまま止まってしまうと簡単に予想出来てしまうのでした。
「凄いですね、マークさん。もう完成してしまいそうです」
「ん~?まぁね~。俺、こういう細かい事は嫌いじゃないからさ」
ベンダーツさんは笑顔で楽しそうに応えてくれます。
知識が豊富な事もありますが、薬草等の事柄からも、ベンダーツさんがこういった特技があってもおかしくはありませんでした。更には手先が器用でないと、技術だけが空回りしてしまいます。
普段ならこんな風に彼に対して、手放しで誉め言葉を口にする事は出来ませんでした。けれども今は純粋にベンダーツさんを褒め称えたい気分ですので、私の対応を厭う事はないと思います。
そしていつの間にか指となる部分が全部仕上がっていて、今は全ての部品を繋ぎ合わせているところでした。
平然と答える声が脳内に響きます。
勿論相手は、ヴォルから先程『いずれ私に同化して一体になってしまう』と言われた私の中の精霊さんでした。
──何故そんなふうに、平然といられるのでしょうか。
〈僕達は全てが繋がっているからね。人間だって獣だって、世界の皆が一つなんだから。僕が僕としての意思があろうとなかろうと、消えてなくなってしまう訳ではないんだ。そんなに不安そうな顔をしないで大丈夫だよ〉
私の内心の疑問に当たり前のように答えてくれました。
それどころか、頭の中で響く精霊さんの声には悲観したところが一切ありません。それでも私には、自分の思いとは別の『存在』になる事が想像出来ませんでした。
精霊さん独自の──達観したものの考え方と言うべきでしょうか。『個』である意識がなくなっても、それは『死』ではないと言い切られてしまいました。
〈生き物が死んでもその肉体は他の生物の糧になるでしょ。そしていずれ土に返り、他の生物を育てる土台になる〉
精霊さんは肉体も世界の一部なのだと告げています。
──でも人間は魔物になるって聞きました。
〈そうだね。それでも、人間を食べた魔物は死んだら土に返るでしょ?命は全てが繋がっているのだからね〉
精霊さんは穏やかに話してくれます。
何故かこうして聞いていると、実際にそうなのかもしれないと思えてきてしまいました。
──すぐには、自分の意思が失くなってしまう事を認められないですが。
〈今は分からないかもしれないけど、僕は君の一部になるだけ。ただそれだけで、消えてしまう訳ではないよ。君が君を大切にする限り、僕は君の中で生き続ける。だから怖くないし、不安なんてないんだよ〉
精霊さんがにっこりと微笑んだような気がしました。
命は全てが繋がっている──ですか。人は生と死を全く別のものだと考えがちですが、大きな世界観で見たらそうではないのかもしれませんでした。
「メル?」
僅かに不安をのせたヴォルの声が聞こえました。
不意に耳元で声をかけられ、私はハッと振り返ります。そういえば──今更ですが、後ろから抱き締められていました。
少し前までヴォルと話していて、急に口をつぐんでしまったようです。
「どうした、メル。急に考え込んでしまったが、何かあったのか」
「あ、いえ……」
心配そうなヴォルでした。
それまで話していた内容が内容だけに、黙っていては余計に不安にさせてしまいかねません。自分に置き換えてみても、やはり話してくれる方が安心だと断言出来るのでした。
これ以上心配かけてはいけないと思い、私はきちんと説明します。
「精霊さんと、その……お話をしていました」
「……そうか」
「はい」
ヴォルはそれ以上何も聞いてきませんでした。
普通なら少しおかしい人だと思われかねませんが、彼は直接精霊さんを見てお話が出来る人です。
更には私の内側にいる精霊さんともお話が可能なようですから、もしかしたら私との会話も筒抜けかもしれませんでした。
「何、メルも精霊と会話が出来るのぉ?俺は見る事も出来ないのにさぁ」
一人で拗ねたようにブツブツと呟くベンダーツさんです。
それでも手元は動いていて、着実に義手を作り上げていっていました。──本当にベンダーツさんの能力値は半端ないです。
私なら喋っている時は手に意識が回らず、そのまま止まってしまうと簡単に予想出来てしまうのでした。
「凄いですね、マークさん。もう完成してしまいそうです」
「ん~?まぁね~。俺、こういう細かい事は嫌いじゃないからさ」
ベンダーツさんは笑顔で楽しそうに応えてくれます。
知識が豊富な事もありますが、薬草等の事柄からも、ベンダーツさんがこういった特技があってもおかしくはありませんでした。更には手先が器用でないと、技術だけが空回りしてしまいます。
普段ならこんな風に彼に対して、手放しで誉め言葉を口にする事は出来ませんでした。けれども今は純粋にベンダーツさんを褒め称えたい気分ですので、私の対応を厭う事はないと思います。
そしていつの間にか指となる部分が全部仕上がっていて、今は全ての部品を繋ぎ合わせているところでした。
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