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第十章
10.願いを一つだけ【2】
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「……マーク。あまりメルをからかうな」
僅かに掠れた声が掛けられます。
ヴォルの目が覚めたようでした。
「あ、起きた?」
「お前が煩いからだ」
手元を動かしながらも問い掛けるベンダーツさんへ、ヴォルはゆっくりと起き上がりながら不満そうに告げます。
けれども今は片腕なので、起き上がる事に少しだけ苦労しているようでした。
「あっ、起き上がって大丈夫なのですかっ?」
私は慌てつつも、その背を支えるべくヴォルへ手を伸ばします。
「問題ない。ここは精霊の結界の中だ。通常より肉体の回復が早い。……それよりも、メルに伝えなければならない事がある」
右手のみで身体を起こしたヴォルは、視線のみで私を制しました。
そして言いにくそうに、僅かに眉根を寄せます。
「は、はい?」
突然の事に私は戸惑い、手を伸ばした中途半端な体勢でそんなふうに応じる事しか出来ませんでした。
何か怖い事を告げられるのでしょうか。これ程困っているのは、もしかしたら悲しい事なのかもしれませんでした。
「……メルの中に精霊がいる事は気付いているだろ」
「は、はい……それは……」
真っ直ぐ視線を向けてくるヴォルに、私は曖昧にですが頷きます。
『話していた』とは言いにくいのでした。更には実際に目にした訳ではないので、あくまでも『声』からの自己申告だったのです。
現象自体は全く理解出来ていませんが、今のところ支障はないような──何か新たな病気とかではないと思いたい私でした。
「魔物の攻撃で……メルは一度命を落とした」
ヴォルは一度言い淀むと、意を決したように淡々と告げます。──それは衝撃的事実でした。
けれども思い返せば、精霊さんは私の命が『欠けた』とか言っていたような気がします。その時は意味が分かりませんでしたが、ヴォルが私に偽りを告げる筈はないので本当の事だと分かりました。
伸ばしていた腕が力なく膝の上に落ちました。私は──死んでしまったようです。
「……俺は以前、精霊と契約を結んでいた」
視線を逸らし、宙を見つめるヴォル。──そこに話題の精霊さんがいるのかもしれないです。
私は周囲に精霊さんと思われる光は見えますが、姿をはっきりと認識出来ている訳ではありませんでした。更に今は混乱しています。
ヴォルの話のあまりの衝撃的な内容に、私の思考は止まっていました。ただ漠然と、彼の様子を観察している自分がいます。
そして分かるのは急に話が変わったようでいても、ヴォルの精霊さんとの契約と私の死に対する関係が深いのだという事でした。
「願いを一つだけ叶える事」
フッと、真っ直ぐな視線を戻されました。
彼の紺色の──綺麗な深い海の底のような色です。
「俺はそれに、己の全魔力を以て対価を支払うと約束した」
そうやってヴォルから淡々と告げられる内容は、私の中へジワジワと染み入るように理解されていきました。
つまりは私の為に、ヴォルが魔力を無くしたのです。
「あ……っ」
唐突に涙が溢れました。
ヴォルが驚きに目を見開きます。
「な、何故泣く?」
慌てるヴォルの手が私に伸びてきました。
けれども反射的にとはいえ、私はギュッと瞳を閉じてしまいます。拒絶と取られてしまったのかもしれませんでした。
でも私の心境的に、その温かな腕に引き入れてもらってはいけない気がしたのです。
「くくくっ……そりゃ、その言い方じゃあなぁ」
声を圧(オ)し殺した笑いの後、呆れたようなベンダーツさんの言葉が続きました。
私達のやり取りを見て、ベンダーツさんはそう評価したようです。それを聞いて私も怖々目を開けてヴォルを見上げました。
「ヴォル。今の説明じゃ、メルの為に魔力を無くしたと言ってるもんだぜ?」
「な……っ?」
手にしていたナイフを軽く振りながら、ベンダーツさんは唖然とするヴォルに指摘します。
ヴォルは私に手を伸ばした体勢のまま、ベンダーツさんへ視線を向けて固まっていました。
僅かに掠れた声が掛けられます。
ヴォルの目が覚めたようでした。
「あ、起きた?」
「お前が煩いからだ」
手元を動かしながらも問い掛けるベンダーツさんへ、ヴォルはゆっくりと起き上がりながら不満そうに告げます。
けれども今は片腕なので、起き上がる事に少しだけ苦労しているようでした。
「あっ、起き上がって大丈夫なのですかっ?」
私は慌てつつも、その背を支えるべくヴォルへ手を伸ばします。
「問題ない。ここは精霊の結界の中だ。通常より肉体の回復が早い。……それよりも、メルに伝えなければならない事がある」
右手のみで身体を起こしたヴォルは、視線のみで私を制しました。
そして言いにくそうに、僅かに眉根を寄せます。
「は、はい?」
突然の事に私は戸惑い、手を伸ばした中途半端な体勢でそんなふうに応じる事しか出来ませんでした。
何か怖い事を告げられるのでしょうか。これ程困っているのは、もしかしたら悲しい事なのかもしれませんでした。
「……メルの中に精霊がいる事は気付いているだろ」
「は、はい……それは……」
真っ直ぐ視線を向けてくるヴォルに、私は曖昧にですが頷きます。
『話していた』とは言いにくいのでした。更には実際に目にした訳ではないので、あくまでも『声』からの自己申告だったのです。
現象自体は全く理解出来ていませんが、今のところ支障はないような──何か新たな病気とかではないと思いたい私でした。
「魔物の攻撃で……メルは一度命を落とした」
ヴォルは一度言い淀むと、意を決したように淡々と告げます。──それは衝撃的事実でした。
けれども思い返せば、精霊さんは私の命が『欠けた』とか言っていたような気がします。その時は意味が分かりませんでしたが、ヴォルが私に偽りを告げる筈はないので本当の事だと分かりました。
伸ばしていた腕が力なく膝の上に落ちました。私は──死んでしまったようです。
「……俺は以前、精霊と契約を結んでいた」
視線を逸らし、宙を見つめるヴォル。──そこに話題の精霊さんがいるのかもしれないです。
私は周囲に精霊さんと思われる光は見えますが、姿をはっきりと認識出来ている訳ではありませんでした。更に今は混乱しています。
ヴォルの話のあまりの衝撃的な内容に、私の思考は止まっていました。ただ漠然と、彼の様子を観察している自分がいます。
そして分かるのは急に話が変わったようでいても、ヴォルの精霊さんとの契約と私の死に対する関係が深いのだという事でした。
「願いを一つだけ叶える事」
フッと、真っ直ぐな視線を戻されました。
彼の紺色の──綺麗な深い海の底のような色です。
「俺はそれに、己の全魔力を以て対価を支払うと約束した」
そうやってヴォルから淡々と告げられる内容は、私の中へジワジワと染み入るように理解されていきました。
つまりは私の為に、ヴォルが魔力を無くしたのです。
「あ……っ」
唐突に涙が溢れました。
ヴォルが驚きに目を見開きます。
「な、何故泣く?」
慌てるヴォルの手が私に伸びてきました。
けれども反射的にとはいえ、私はギュッと瞳を閉じてしまいます。拒絶と取られてしまったのかもしれませんでした。
でも私の心境的に、その温かな腕に引き入れてもらってはいけない気がしたのです。
「くくくっ……そりゃ、その言い方じゃあなぁ」
声を圧(オ)し殺した笑いの後、呆れたようなベンダーツさんの言葉が続きました。
私達のやり取りを見て、ベンダーツさんはそう評価したようです。それを聞いて私も怖々目を開けてヴォルを見上げました。
「ヴォル。今の説明じゃ、メルの為に魔力を無くしたと言ってるもんだぜ?」
「な……っ?」
手にしていたナイフを軽く振りながら、ベンダーツさんは唖然とするヴォルに指摘します。
ヴォルは私に手を伸ばした体勢のまま、ベンダーツさんへ視線を向けて固まっていました。
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