362 / 515
第八章
2.魔力の流れ【3】
しおりを挟む
ヴォルと私の片付けが終わる頃にはベンダーツさんが戻ってきて、その後はあっという間に旅立つ事になりました。午前中の内に出発しないと、次の町への到着に不都合が生じる為だとか。
そしてそれまでサガルットの町はヴォルの結界によって守られていましたが、すぐに町の魔法石に結界を維持させるようにしたそうです。ベンダーツさんが戻ってきてから少しの間だけ町へ行ったヴォルは、魔法石は捜索と結界との結び付けをしてきたとの事でした。
あの時ゼブルさんが私を使って壊そうとした魔法石を守る結界は、ヴォルにとっては何の障害にもならなかったようです。
それにしても、つくづくゼブルさんに魔法石を奪われなくて良かったと思いました。もしも結界の継続をしてくれる魔法石がなければ、もっと長く拘束されるところでしたから。
そうして結局町長さんのお屋敷の一部であったあの部屋はそのままに、私達はユーニキュアさんの用意してくれた馬車に乗り込んで次の町へ足を向けました。
サガルットの町の前に転移させたあの部屋は、ヴォルの結界がなくなった状態で放置です。ユーニキュアさん達が片付けてくれるとの事だったで、思い切りそれに甘えてしまいました。
「何だか、色々とお世話になってしまいました」
私が呟くと、御者台にいるベンダーツさんが振り向きます。
ウマウマさん二頭引きの立派な箱形の馬車は乗り心地が良く、振動でお尻が痛くなる事もなさそうでした。
「大丈夫だって。あっちは町の問題と恋愛事情を解決出来て大喜びなんだから。この高級な馬車だって、二つ返事でくれたんだぜ?」
「はぁ……」
御者台と馬車内部を仕切る窓が開いているので、笑顔で振り向いたベンダーツさんが親指を立てたのが見えます。
何だか納得しづらいですけど、最後に見送りに出てきてくれたユーニキュアさんはそれまでで一番の笑顔でした。その隣にはちゃんとドガさんが寄り添うようにいましたし、町の人も皆が笑顔だったのを思い出します。
元町長さんとユーニキュアさんのお父様はいらっしゃらなかったですけど、妙に盛大に送り出されたのでした。
「そうですよね。たくさんのマトトや食料ももらって、広い馬車なのに半分が荷物で埋まってしまうくらいですからね。こんなにお礼をくれたのですから、喜んでいない訳がないですよねヴォル」
「そうだな」
笑顔で後ろを振り向くと、ヴォルが瞳を和らげて私を見ています。
しかしながら今更ですけど、馬車の中でも当たり前のようにくっついている私達でした。まだ十分に二人で座れる広さはあるのに、人形のようにヴォルの膝の上で抱き締められている私です。
「あの、下ろしてもらっても……」
「嫌だ」
自分の状態に納得が出来ないので、何度目かの訴えをヴォルにしました。──同じように即却下されましたが。
嫌って一言だけでまるで子供です。これは甘えているだけではなくて、もしかして具合が悪いのかもと思い至りました。ヴォルが甘えんぼになる時って、身体に不調を抱えている事が多いのです。
「どうした、メル」
不安になってジッと顔を見ていると、逆にヴォルから不思議そうに問い掛けられてしまいました。
私の変化に気付くのなら、御自分の事も大切にしてほしいです。
「あの、体調が悪いのかと思ってですね?」
「………………問題ない」
ヴォルの膝上で腰部分を抱き留められている私は、身体を捻って振り返りながら問い掛けていました。この状態だとヴォルより少しだけ目の位置が高くなるので新鮮な感じです。
──というより今、変な間がありました。
ヴォルは嘘をつかないのですけど、本心を隠す時に言い淀む傾向があるのです。
「体調が悪いのですね?」
今度は確信をもって問いました。
すると視線があからさまに逸らされます。
「……メルには負ける。だが強いて告げる程の事ではない。ただ……魔力が流れているだけだ」
軽く溜め息をつくように紡がれた言葉に、私は即座に反応が出来ませんでした。
軽く言われた事もありますが、私に魔力というもの自体の感覚がない為です。そもそも、魔力が流れているとはどの様な状態なのか分かりませんでした。
「それ、結構大問題じゃない?」
御者台からベンダーツさんの声が掛けられます。
馬車を操りながらも、真面目な顔でこちらを振り向いていました。
そしてそれまでサガルットの町はヴォルの結界によって守られていましたが、すぐに町の魔法石に結界を維持させるようにしたそうです。ベンダーツさんが戻ってきてから少しの間だけ町へ行ったヴォルは、魔法石は捜索と結界との結び付けをしてきたとの事でした。
あの時ゼブルさんが私を使って壊そうとした魔法石を守る結界は、ヴォルにとっては何の障害にもならなかったようです。
それにしても、つくづくゼブルさんに魔法石を奪われなくて良かったと思いました。もしも結界の継続をしてくれる魔法石がなければ、もっと長く拘束されるところでしたから。
そうして結局町長さんのお屋敷の一部であったあの部屋はそのままに、私達はユーニキュアさんの用意してくれた馬車に乗り込んで次の町へ足を向けました。
サガルットの町の前に転移させたあの部屋は、ヴォルの結界がなくなった状態で放置です。ユーニキュアさん達が片付けてくれるとの事だったで、思い切りそれに甘えてしまいました。
「何だか、色々とお世話になってしまいました」
私が呟くと、御者台にいるベンダーツさんが振り向きます。
ウマウマさん二頭引きの立派な箱形の馬車は乗り心地が良く、振動でお尻が痛くなる事もなさそうでした。
「大丈夫だって。あっちは町の問題と恋愛事情を解決出来て大喜びなんだから。この高級な馬車だって、二つ返事でくれたんだぜ?」
「はぁ……」
御者台と馬車内部を仕切る窓が開いているので、笑顔で振り向いたベンダーツさんが親指を立てたのが見えます。
何だか納得しづらいですけど、最後に見送りに出てきてくれたユーニキュアさんはそれまでで一番の笑顔でした。その隣にはちゃんとドガさんが寄り添うようにいましたし、町の人も皆が笑顔だったのを思い出します。
元町長さんとユーニキュアさんのお父様はいらっしゃらなかったですけど、妙に盛大に送り出されたのでした。
「そうですよね。たくさんのマトトや食料ももらって、広い馬車なのに半分が荷物で埋まってしまうくらいですからね。こんなにお礼をくれたのですから、喜んでいない訳がないですよねヴォル」
「そうだな」
笑顔で後ろを振り向くと、ヴォルが瞳を和らげて私を見ています。
しかしながら今更ですけど、馬車の中でも当たり前のようにくっついている私達でした。まだ十分に二人で座れる広さはあるのに、人形のようにヴォルの膝の上で抱き締められている私です。
「あの、下ろしてもらっても……」
「嫌だ」
自分の状態に納得が出来ないので、何度目かの訴えをヴォルにしました。──同じように即却下されましたが。
嫌って一言だけでまるで子供です。これは甘えているだけではなくて、もしかして具合が悪いのかもと思い至りました。ヴォルが甘えんぼになる時って、身体に不調を抱えている事が多いのです。
「どうした、メル」
不安になってジッと顔を見ていると、逆にヴォルから不思議そうに問い掛けられてしまいました。
私の変化に気付くのなら、御自分の事も大切にしてほしいです。
「あの、体調が悪いのかと思ってですね?」
「………………問題ない」
ヴォルの膝上で腰部分を抱き留められている私は、身体を捻って振り返りながら問い掛けていました。この状態だとヴォルより少しだけ目の位置が高くなるので新鮮な感じです。
──というより今、変な間がありました。
ヴォルは嘘をつかないのですけど、本心を隠す時に言い淀む傾向があるのです。
「体調が悪いのですね?」
今度は確信をもって問いました。
すると視線があからさまに逸らされます。
「……メルには負ける。だが強いて告げる程の事ではない。ただ……魔力が流れているだけだ」
軽く溜め息をつくように紡がれた言葉に、私は即座に反応が出来ませんでした。
軽く言われた事もありますが、私に魔力というもの自体の感覚がない為です。そもそも、魔力が流れているとはどの様な状態なのか分かりませんでした。
「それ、結構大問題じゃない?」
御者台からベンダーツさんの声が掛けられます。
馬車を操りながらも、真面目な顔でこちらを振り向いていました。
0
お気に入りに追加
405
あなたにおすすめの小説
新しい人生を貴方と
緑谷めい
恋愛
私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。
突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。
2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。
* 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。
旦那様の様子がおかしいのでそろそろ離婚を切り出されるみたいです。
バナナマヨネーズ
恋愛
とある王国の北部を治める公爵夫婦は、すべての領民に愛されていた。
しかし、公爵夫人である、ギネヴィアは、旦那様であるアルトラーディの様子がおかしいことに気が付く。
最近、旦那様の様子がおかしい気がする……。
わたしの顔を見て、何か言いたそうにするけれど、結局何も言わない旦那様。
旦那様と結婚して十年の月日が経過したわ。
当時、十歳になったばかりの幼い旦那様と、見た目十歳くらいのわたし。
とある事情で荒れ果てた北部を治めることとなった旦那様を支える為、結婚と同時に北部へ住処を移した。
それから十年。
なるほど、とうとうその時が来たのね。
大丈夫よ。旦那様。ちゃんと離婚してあげますから、安心してください。
一人の女性を心から愛する旦那様(超絶妻ラブ)と幼い旦那様を立派な紳士へと育て上げた一人の女性(合法ロリ)の二人が紡ぐ、勘違いから始まり、運命的な恋に気が付き、真実の愛に至るまでの物語。
全36話
誰にも言えないあなたへ
天海月
恋愛
子爵令嬢のクリスティーナは心に決めた思い人がいたが、彼が平民だという理由で結ばれることを諦め、彼女の事を見初めたという騎士で伯爵のマリオンと婚姻を結ぶ。
マリオンは家格も高いうえに、優しく美しい男であったが、常に他人と一線を引き、妻であるクリスティーナにさえ、どこか壁があるようだった。
年齢が離れている彼にとって自分は子供にしか見えないのかもしれない、と落ち込む彼女だったが・・・マリオンには誰にも言えない秘密があって・・・。
「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる