363 / 515
第八章
2.魔力の流れ【4】
しおりを挟む
「別に。普段より流出が激しいというだけの事だ。大袈裟にするな」
ヴォルは呆れた様子でベンダーツさんに払うような仕草で手を振ります。
けれど私の中で、それはとても重い言葉として残りました。
「ヴォル。魔力が流れるというのは、抜け出てしまうという事なのですか?」
不安なままでいても何も変わらないので、私は言葉にして問い掛けます。
ヴォルが何もしていない自然体の状態でも、魔力を放出している事は知っていました。そしてそれを精霊さんが得ている事もです。
でもそれ以上の放出は、魔法を使っている状態と変わらないのではと思いました。
私の分かる感覚で、魔力を体力に置き換えてみます。座っていても寝ていても、常に歩いている──もしくは走っている様な状態だとしたらどうかなんて深く考えなくても分かりました。
当たり前ながら、私の体力なんて知れています。すぐに力尽きて、最終的には倒れてしまうかもしれませんでした。
魔力だって、半永久的に沸いて出る訳ではない筈です。
「……世界の魔力は常に流れている。それを一時的に身体に貯めておく事が出来る素質を持った者が魔力所持者だ。魔物は身体の核に魔力を貯めている。多いか少ないかは本人の素質による」
「それ、通常ならって事でしょ。今はそうじゃないんだよな?」
大した事でないと、ヴォルが説明していました。
それでも納得が出来ないようで、少しキツ目にベンダーツさんが問います。
「……あぁ。世界の魔力の流れが乱れている事が原因だろうが、何かが無理矢理流れを生み出そうとしているように感じる。魔力を持つ全てのものを対象として、持てる力を絞り出そうとしているようだ」
漸く現状を話し出したヴォルでした。
でもその内容は思っていた以上に深刻で──何かとても大変な事態が起きているようです。
「いくらヴォルの魔力値が尋常じゃないとは言え、底無しじゃないんだぞ?何でそんな大切な事をもっと早く言わないんだっ。それ、いつからっ?」
噛みつくように告げるベンダーツさんは、いつの間にか馬車を停めていました。
ウマウマさんを走らせている余裕がなくなったようです。でもこれ程焦るのって、ベンダーツさんがヴォルの事を大切に思っているという証拠でした。
「……サガルットに来る前。クスカムの集落を出て少ししてから、かな」
他人事のように告げるヴォルです。
兄同然のベンダーツさんが本気で怒っている事に、多少なりとも罪悪感を感じている様にも見えました。
「それ、大分前だよね」
「…………そうとも言うか」
「段々酷くなってるの?」
「………………まぁ、な」
御者台の窓から顔を突き出すようにして、ベンダーツさんが馬車内部のヴォルに視線を向けています。
追求の問い掛けに対し、ヴォルが応じる間が長くなっていきました。どうやら今回の怒る役目は、このままベンダーツさんに譲った方が良さそうです。
はい──私、空気を読みますよ?
勿論私だって怒っていました。本当にヴォルって、自分の悪い状況を人に話さないのですから。
アレですか?野性動物的な、弱味を仲間にも見せないとか?もしもそんな事を思っているのだとしたら、私も怒鳴って良いですよね。
ヴォルは呆れた様子でベンダーツさんに払うような仕草で手を振ります。
けれど私の中で、それはとても重い言葉として残りました。
「ヴォル。魔力が流れるというのは、抜け出てしまうという事なのですか?」
不安なままでいても何も変わらないので、私は言葉にして問い掛けます。
ヴォルが何もしていない自然体の状態でも、魔力を放出している事は知っていました。そしてそれを精霊さんが得ている事もです。
でもそれ以上の放出は、魔法を使っている状態と変わらないのではと思いました。
私の分かる感覚で、魔力を体力に置き換えてみます。座っていても寝ていても、常に歩いている──もしくは走っている様な状態だとしたらどうかなんて深く考えなくても分かりました。
当たり前ながら、私の体力なんて知れています。すぐに力尽きて、最終的には倒れてしまうかもしれませんでした。
魔力だって、半永久的に沸いて出る訳ではない筈です。
「……世界の魔力は常に流れている。それを一時的に身体に貯めておく事が出来る素質を持った者が魔力所持者だ。魔物は身体の核に魔力を貯めている。多いか少ないかは本人の素質による」
「それ、通常ならって事でしょ。今はそうじゃないんだよな?」
大した事でないと、ヴォルが説明していました。
それでも納得が出来ないようで、少しキツ目にベンダーツさんが問います。
「……あぁ。世界の魔力の流れが乱れている事が原因だろうが、何かが無理矢理流れを生み出そうとしているように感じる。魔力を持つ全てのものを対象として、持てる力を絞り出そうとしているようだ」
漸く現状を話し出したヴォルでした。
でもその内容は思っていた以上に深刻で──何かとても大変な事態が起きているようです。
「いくらヴォルの魔力値が尋常じゃないとは言え、底無しじゃないんだぞ?何でそんな大切な事をもっと早く言わないんだっ。それ、いつからっ?」
噛みつくように告げるベンダーツさんは、いつの間にか馬車を停めていました。
ウマウマさんを走らせている余裕がなくなったようです。でもこれ程焦るのって、ベンダーツさんがヴォルの事を大切に思っているという証拠でした。
「……サガルットに来る前。クスカムの集落を出て少ししてから、かな」
他人事のように告げるヴォルです。
兄同然のベンダーツさんが本気で怒っている事に、多少なりとも罪悪感を感じている様にも見えました。
「それ、大分前だよね」
「…………そうとも言うか」
「段々酷くなってるの?」
「………………まぁ、な」
御者台の窓から顔を突き出すようにして、ベンダーツさんが馬車内部のヴォルに視線を向けています。
追求の問い掛けに対し、ヴォルが応じる間が長くなっていきました。どうやら今回の怒る役目は、このままベンダーツさんに譲った方が良さそうです。
はい──私、空気を読みますよ?
勿論私だって怒っていました。本当にヴォルって、自分の悪い状況を人に話さないのですから。
アレですか?野性動物的な、弱味を仲間にも見せないとか?もしもそんな事を思っているのだとしたら、私も怒鳴って良いですよね。
0
お気に入りに追加
405
あなたにおすすめの小説
公爵閣下の契約妻
秋津冴
恋愛
呪文を唱えるよりも、魔法の力を封じ込めた『魔石』を活用することが多くなった、そんな時代。
伯爵家の次女、オフィーリナは十六歳の誕生日、いきなり親によって婚約相手を決められてしまう。
実家を継ぐのは姉だからと生涯独身を考えていたオフィーリナにとっては、寝耳に水の大事件だった。
しかし、オフィーリナには結婚よりもやりたいことがあった。
オフィーリナには魔石を加工する才能があり、幼い頃に高名な職人に弟子入りした彼女は、自分の工房を開店する許可が下りたところだったのだ。
「公爵様、大変失礼ですが……」
「側室に入ってくれたら、資金援助は惜しまないよ?」
「しかし、結婚は考えられない」
「じゃあ、契約結婚にしよう。俺も正妻がうるさいから。この婚約も公爵家と伯爵家の同士の契約のようなものだし」
なんと、婚約者になったダミアノ公爵ブライトは、国内でも指折りの富豪だったのだ。
彼はオフィーリナのやりたいことが工房の経営なら、資金援助は惜しまないという。
「結婚……資金援助!? まじで? でも、正妻……」
「うまくやる自信がない?」
「ある女性なんてそうそういないと思います……」
そうなのだ。
愛人のようなものになるのに、本妻に気に入られることがどれだけ難しいことか。
二の足を踏むオフィーリナにブライトは「まあ、任せろ。どうにかする」と言い残して、契約結婚は成立してしまう。
平日は魔石を加工する、魔石彫金師として。
週末は契約妻として。
オフィーリナは週末の二日間だけ、工房兼自宅に彼を迎え入れることになる。
他の投稿サイトでも掲載しています。
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
竜人のつがいへの執着は次元の壁を越える
たま
恋愛
次元を超えつがいに恋焦がれるストーカー竜人リュートさんと、うっかりリュートのいる異世界へ落っこちた女子高生結の絆されストーリー
その後、ふとした喧嘩らか、自分達が壮大な計画の歯車の1つだったことを知る。
そして今、最後の歯車はまずは世界の幸せの為に動く!
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
旦那様の様子がおかしいのでそろそろ離婚を切り出されるみたいです。
バナナマヨネーズ
恋愛
とある王国の北部を治める公爵夫婦は、すべての領民に愛されていた。
しかし、公爵夫人である、ギネヴィアは、旦那様であるアルトラーディの様子がおかしいことに気が付く。
最近、旦那様の様子がおかしい気がする……。
わたしの顔を見て、何か言いたそうにするけれど、結局何も言わない旦那様。
旦那様と結婚して十年の月日が経過したわ。
当時、十歳になったばかりの幼い旦那様と、見た目十歳くらいのわたし。
とある事情で荒れ果てた北部を治めることとなった旦那様を支える為、結婚と同時に北部へ住処を移した。
それから十年。
なるほど、とうとうその時が来たのね。
大丈夫よ。旦那様。ちゃんと離婚してあげますから、安心してください。
一人の女性を心から愛する旦那様(超絶妻ラブ)と幼い旦那様を立派な紳士へと育て上げた一人の女性(合法ロリ)の二人が紡ぐ、勘違いから始まり、運命的な恋に気が付き、真実の愛に至るまでの物語。
全36話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる