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第2話 気持ちの通じ合う主従

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「それより贈り物を選びませんか?」
「むぅ、確かにそれは最重要事項だ」

 もっと重要案件はあるんですが、賢明な私は何も申しませんよ?
 別にもう面倒になったとかじゃありませんから。ホントですよ?

「だが、彼女が喜んでくれそうな物を選ぶのは至難……」

 むぅ、と唸り悩む殿下。
 もう何でも良いんでチャチャっと決めてくださいよ。

「そうだ! 選ぼうとするからいかんのだ」
「贈り物を諦めるのですか?」
「そうではない。国中のありとあらゆる宝物を買えばいいのさ」
「バカですか。国庫が空になってしまいますよ!?」
「イアリスに微笑んでもらう為なら国庫を空にしたって構わない!」
「構いますって!」

 あの堅物だった殿下がここまで壊れるとは。

 恐るべきイアリス様の美貌。
 まさに傾国級の美少女です。

「落ち着いてください。国のお金を浪費したらイアリス様はむしろ殿下を軽蔑されますよ」
「むぅ、確かにイアリスは貴族としての気高さと聖女の如き慈愛を兼ね備えた素晴らしい女性だった」

 贈り物で国を潰すとか勘弁してください。

「以前贈られたドレスに合わせてイヤリングかティアラなんかどうです?」
「ホントにそれで良いと思うか?」
「きっとイアリス様も喜ばれますって」
「ホントにホントか?」

 しつこいですねぇ

「殿下の贈り物に喜ばぬはずありません」
「いや、だって前のドレスもぜんぜん嬉しそうにしてくれなかったぞ?」
「嬉しそうも何もイアリス様は表情が全く変わらないではないですか」

 そもそも『氷の令嬢』は微笑むどころか表情筋がピクリとも動かないのです。

「もしかして私の贈り物は迷惑だったのか?」
「別に誰に対してもイアリス様の表情は変わりませんよ」
「それはつまり、イアリスにとって私はその他大勢と同じ!?」
「嫌われるより良くないですか?」
「ロッシェ、それは違うぞ!」

 オブジェクション!
 叫んで殿下が机をバンバン叩く。

「好きの反対は無関心なんだ。好きも嫌いも関心のある裏返し、まずは私に興味を持ってもらわなければ」
「それじゃ、贈り物を大量の虫にされますか?」

 一発で嫌われること請け合いです。

「それではイアリスに嫌われてしまうじゃないか!」
「無関心よりはマシなのでしょう?」
「まず好かれる方法を先に考えろよ」

 めんどくさい人ですねぇ。

「好かれるより嫌われる方が簡単なんですが」
「私はイアリスに嫌われたくない!」

 わがままですねぇ。

「ロッシェ、面倒な奴とかわがままとか思っただろ」
「まさか、そんな事は……」

 考えまくってましたよ。
 何ですかこの人、私の思考を読めるんですか?

「お前の考えている事などすぐに分かる」

 ちょっと止めてくださいよ。

「お前とは長い付き合いだからな」
「そんな洞察力があるのにイアリス様のお気持ちが分からないのですか。婚約者でしょ?」
「こういう以心伝心は、お互いの気持ちを理解していなければできんものだ」

 私が殿下と気持ちが通い合っているって言うんですか?
 やめてください気持ち悪い。
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