胡蝶の舞姫

深智

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香蘭劇場

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 富夫の屋敷を出ると、外は茜色に染まっていた。

 徹也はすかさず辺りを伺い、中折れハットを目深に被った。こんなところ、知れた顔に見られるのはあまりよろしくない。

 長身痩躯のスーツ姿にハットを被った徹也を見上げる万理子は、ニコッと笑った。

「トミさん、お兄さんに見惚れてましたよ。お兄さんカッコいい」

 ハットに手を掛けたまま、徹也は目を丸くして万理子を見る。

 曇りない笑みを見せる、まだ自分の胸辺りにも届かない小さな少女が、遊女顔負けの口説き文句を使う。徹也は肩を竦め、小さいため息を吐いた。

「そんな世辞、もう使えるのか」

 万理子は剥れる。

「世辞じゃありません!」

 頬を染めて力を込めて反論する姿に思わず、可愛いな、と思ってしまった徹也はそれをごまかすようにハットを万理子にバサっと被らせた。

「分かった、ありがとな」

 徹也の照れ隠しのはにかみ笑顔に万理子はニコッと笑った。

 これはーー、いい女になるぞ。

 危うい予感が胸中を過ぎる。

 兄貴、大丈夫だろうか。いや、今は考えるな。

 徹也は屈み、ハットを被らせた万理子と目線を合わせた。

「お兄さんて呼び方はあまり好きじゃないな。俺は徹也だ。佐藤徹也。テツでいいぞ」
「テツ、さん?」

 躊躇いながら口にした万理子の頭をハットの上から撫でる。

「そうだ、それでいい」

 撫でられて嬉しそうに笑った万理子は徹也を見上げた。

「じゃあ、あたしの事はマリーと呼んでください」
「マリー?」
「はい。ここに来るずっと前からそう呼ばれていたんです」

 そう言えば、と徹也は思い出した。富夫も『マリー』と呼んでいた。容姿からもピタリの呼び方だ。

「分かったよ、マリー」

 くすぐったそうに笑った万理子に徹也も笑みを返した。

 徹也は「さてと」と万理子が小脇に抱えていた風呂敷包みを持ってあげ、優しく言った。

「とりあえず、俺達の小屋に行こう。俺の兄貴を紹介しないとな」
「はい」

 素直に頷き従った万理子の手を、徹也は取り、夕刻の街中へと歩き出した。

 靖国通りを渡り歌舞伎町に入ると二年前に出来たコマスタジアムが見えてくる。その脇を抜けた先に、徹也達兄弟の〝小屋〟であるストリップ劇場の香蘭があった。

「テツさんの小屋って、香蘭さんだったんだ」
「なんだマリー、知ってるのか」
「うん、去年くらいから何回か、トミさんに連れて来てもらってました」
「じゃあ、どんなところか知ってる」
「うん」

 徹也は唸った。富夫は随分と前からうちに目を付けていたという事だ。それにしてもこんな子供が。

「よく入れてもらえたな」

 万里子は徹也を見上げてニコッと笑った。

「金造おじさんが」

 徹也は、ああ、とため息をついた。

 香蘭劇場には藤間金造という管理人がいる。

 元は、終戦直後の闇市の中の見世物小屋から始まったという香蘭劇場は、金造が作ったものだ。しかし色々あって手放さざるを得ず経営者が変わり、今では管理人として居着いていた。

 現経営者となった巽がまだ若い為、後見人としての役目も担っている。

「トミさんと何かお話しして、内緒だよ、って言って、裏から入れてくれました」
「金造さん、抜け目ないからな」

 多分、マリーの〝価値〟を査定した結果だろう。

「私は、リリーさんという踊り子さんが一番好きです。綺麗で、出てきただけでドキドキして」

 目を輝かせて話す万理子に徹也は目を細めた。

 真剣に観たんだな。富夫にどう言われ連れて来られたのか。

「リリーは、うちの看板踊り子だからな。彼女は特別なんだ。とにかく、金造さんが知ってるなら話は早い。行こう」
「はい」

 マリーの手を引き、香蘭劇場の裏口の戸を開けると直ぐに金造が顔を出した。

 四十そこそこの小柄な男はジャンパーにスラックス姿だった。手には競馬新聞が握られている。

「おお、テッちゃん。今日はオレ、大井に行ってきた。ボートもやって来たぞー」

 金造の様子に苦笑いした徹也だったが直ぐに気を取り直し、万里子を前に出した。

「金造さんはもう、富さんから話聞いてたんだろ」

 万里子の姿を認めた金造は「おおっ」と嬉しそうな声を上げた。

「よく来たな、待ってたよ。どれどれ」

 管理人詰所の奥から飴を出してきて万里子に渡す。万里子は素直に「ありがとう!」と愛らしい笑みで応えていた。

「兄貴は?」

 兄の巽の姿を詰所の中に探した徹也は金造に聞いた。金造は肩を竦めて見せた。

「相変わらずの事だ」
「百合子?」
「ああ、リリーを放さん」
「ここんとこ毎日だな……」

 険しい顔でため息を吐いた徹也に金造も眉根を寄せた。

「困ったもんだな、ありゃ。リリーをダメにしちまうぞ」




「んんっ、あっ」

 四つん這いになった百合子の細い腰を掴み、背後から貫く巽は白い背中が淡く紅潮するのを見、フッと笑った。

「まだこれからだぜ」
「ーーっ、ひぁっ、あっ」

 百合子は激しく打ち付けられ堪らず逃れようと床に手を突き這い出す仕草をした。

「させるかよ」
「っ、ぃやぁっ、ああっ、ん」

 豊かな乳房が背後から鷲掴みにされ、脚を拡げた白い躰が起こされた。

「巽……っ、いや、ああっ」

 乳首を摘まれ捏ねられ、百合子は躰を退け反らせる。

「カラダは嫌がってねーよ」

 耳元で囁く声は甘い。背中に密着する胸板は硬く締まり、筋肉が隆起する。

「ほら、こっち向けよ」

 背後に顔を向けると、妖艶な芳香を漂わせる切れ長の瞳が百合子の心を掴む。

 貫かれ、乳房を激しく揉まれながら、熱いくちづけをする巽に、身も心も絡め取られ、逃げられなかった。

 前方の膣壁を激しく突き上げる熱した鉄のような芯棒に百合子は悲鳴のような嬌声をあげる。

 乳房を弄っていた巽の手が、結合部へと下りていき、花びらの上にある秘部を潰した。

「ほら、これをこうして欲しいんだろ」
「いやっ、だめっ! そこはーー、ぁああんっ、いやぁっ、ーーーーっ」

 百合子は背を弓なりにしたまま硬直し、果てた。ぐったりと堕ちた百合子を巽は抱き寄せキスをした。

 百合子を抱えたまま、巽は片手でそばにあった座布団数枚を引っ張り寄せる。即席の布団を作り百合子を横にし、脱ぎ捨ててあったジャケットを掛けた。

 意識の無い女を抱くのは趣味じゃない。

 眠る百合子から視線を外し、巽は煙草とライターを手に、窓辺に行った。




 
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