蛍地獄奇譚

玉楼二千佳

文字の大きさ
上 下
48 / 109
夏休み編

47 怒り

しおりを挟む





  なずなの腹部から背中にかけて赤い血が広がる。

 そして、地面に滴り落ちる。

「う……嘘……だろ?」

 土帝は喉から声を絞り出した。
 そこから、なずなの方に走っていく。
 梔子くちなしは口を抑えて、その場に崩れ落ちる。

「蛍!」

 空の方から声がする。蛍の兄、経国つねぐにが大きな鳥に乗っていた。

 鳥は地上に降り立ち、経国が降りると美しい女の姿になる。沙羅だ。

「……これは」

 地面に倒れたなずなを経国は見下ろした。

「……君は、うちの生徒の?!」

 これは間違いなく目の前の鬼の仕業だ。

「……じゃ、邪魔しやがって!け、けど、蛍!見ろよ!お前の女、殺してやったぜ!」

 新八は興奮で笑うしか無かった。心做しか笑い顔が引きつっているようにめ見える。

「なずな!なずな、なずな!」

 蛍は顔が真っ青になり、ふらふらとなずなの方に向かって行く。

「おい……」

 新八は蛍の肩を掴む。蛍は新八の掴み、すぐ新八を小石のように投げ飛ばした。

 新八は3mほど投げ飛ばされてしまい、ビルの壁に身体を大きくぶつけてしまう。

「……て、てめ」

 新八は何とか身体を起こして、頭から流れる血を抑えた。

 (……あの勢い、飛距離でまだ立ち上がるか。いや、そんな事よりなずなだ!救急車を呼ばなければ!)

 土帝は何としてもなずなを助けたくて必死でなずなに呼び掛けた。

「なずな!しっかりするんだ!」
「これはまずい……しかし」

 経国は蛍の顔色を見てゾッとする。

 (このままでは……)

「沙羅、今すぐ安全地帯に彼女を連れて行け!」
「経国様……」

 沙羅はなずなを抱えて近くにあるライブハウスへと駆け込んでいく。

「うわあああ!返せ!返せ!なずなを返せ!」

 見る見るうちに蛍の姿が変わっていく。額から角、目つきは血走り、歯も牙のように尖る。

 爪も伸び、刃物のように鋭くなり、肌は浅黒くなっていく。

「まずい!」
「え?ちょっ!俺も!旦那も」

 翔一は近くにいた又三郎をひょいと持ちあげ、ライブハウスに入っていく。

「おい!俺は……!!」
「怪我してんだろ!」



「……田中蛍!」

 茫然自失としていた土帝はふと我に返り、蛍に詰めよろうとするも、三吉に制止される。

「土帝……今は坊ちゃんに近寄るんじゃねえ!」

 土帝はむっとするが、三吉の眼を見て引き下がる。

 これは多分、蛍を守る為ではなく、逆である事が分かったからだ。

 今から起きる事は、餓鬼の暴動よりも恐ろしい事が起きようとしている。土帝はそう直感したのである。その時……。

「うおおおおぉぉぉ!!」

 蛍が咆哮をあげ、原型をほとんど留めていはい姿になる。

 大きな角、硬化した皮膚、長く鋭く伸びた爪……口からは牙のような歯が生えていた。


「カエセ!カエセ!」


 その声は野太く鳴り響く。化け物と化した蛍は、ゆっくりと新八の方へ赴く。

「逃げろ!新八!」

 鬼八の怒鳴り声が辺りに轟く。しかし、新八は震えながら歯をカチカチと鳴らすばかり。

 ようやく、立ち上がった頃にはもう目の前に化け物はいた。

「ちょ……待てよ……。たかが、女ひとりだろ……な?」

 新八は目に涙を浮かべ、化け物に懇願するように縋る。
  
「す、すぐに違う女……」

 言い終わる前に、首から

「ひぐ……」

「ちっ!馬鹿な奴だ!!」

 鬼八は物言わぬ新八を見て、そう吐き捨てた。

「鬼が……死ぬのか?」
「……土帝、お前さん、梔子嬢と手分けしてなるべくこの辺りに結界をはれ。あとはこね三吉に任せてくれねぇか?」




しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた

久野真一
青春
 最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、  幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。  堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。  猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。  百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。    そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。  男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。  とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。  そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から 「修二は私と恋人になりたい?」  なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。  百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。 「なれたらいいと思ってる」    少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。  食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。  恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。  そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。  夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと  新婚生活も満喫中。  これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、  新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...