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夏休み編
47 怒り
しおりを挟むなずなの腹部から背中にかけて赤い血が広がる。
そして、地面に滴り落ちる。
「う……嘘……だろ?」
土帝は喉から声を絞り出した。
そこから、なずなの方に走っていく。
梔子は口を抑えて、その場に崩れ落ちる。
「蛍!」
空の方から声がする。蛍の兄、経国が大きな鳥に乗っていた。
鳥は地上に降り立ち、経国が降りると美しい女の姿になる。沙羅だ。
「……これは」
地面に倒れたなずなを経国は見下ろした。
「……君は、うちの生徒の?!」
これは間違いなく目の前の鬼の仕業だ。
「……じゃ、邪魔しやがって!け、けど、蛍!見ろよ!お前の女、殺してやったぜ!」
新八は興奮で笑うしか無かった。心做しか笑い顔が引きつっているようにめ見える。
「なずな!なずな、なずな!」
蛍は顔が真っ青になり、ふらふらとなずなの方に向かって行く。
「おい……」
新八は蛍の肩を掴む。蛍は新八の掴み、すぐ新八を小石のように投げ飛ばした。
新八は3mほど投げ飛ばされてしまい、ビルの壁に身体を大きくぶつけてしまう。
「……て、てめ」
新八は何とか身体を起こして、頭から流れる血を抑えた。
(……あの勢い、飛距離でまだ立ち上がるか。いや、そんな事よりなずなだ!救急車を呼ばなければ!)
土帝は何としてもなずなを助けたくて必死でなずなに呼び掛けた。
「なずな!しっかりするんだ!」
「これはまずい……しかし」
経国は蛍の顔色を見てゾッとする。
(このままでは……)
「沙羅、今すぐ安全地帯に彼女を連れて行け!」
「経国様……」
沙羅はなずなを抱えて近くにあるライブハウスへと駆け込んでいく。
「うわあああ!返せ!返せ!なずなを返せ!」
見る見るうちに蛍の姿が変わっていく。額から角、目つきは血走り、歯も牙のように尖る。
爪も伸び、刃物のように鋭くなり、肌は浅黒くなっていく。
「まずい!」
「え?ちょっ!俺も!旦那も」
翔一は近くにいた又三郎をひょいと持ちあげ、ライブハウスに入っていく。
「おい!俺は……!!」
「怪我してんだろ!」
「……田中蛍!」
茫然自失としていた土帝はふと我に返り、蛍に詰めよろうとするも、三吉に制止される。
「土帝……今は坊ちゃんに近寄るんじゃねえ!」
土帝はむっとするが、三吉の眼を見て引き下がる。
これは多分、従者として蛍を守る為ではなく、逆である事が分かったからだ。
今から起きる事は、餓鬼の暴動よりも恐ろしい事が起きようとしている。土帝はそう直感したのである。その時……。
「うおおおおぉぉぉ!!」
蛍が咆哮をあげ、原型をほとんど留めていはい姿になる。
大きな角、硬化した皮膚、長く鋭く伸びた爪……口からは牙のような歯が生えていた。
「カエセ!カエセ!」
その声は野太く鳴り響く。化け物と化した蛍は、ゆっくりと新八の方へ赴く。
「逃げろ!新八!」
鬼八の怒鳴り声が辺りに轟く。しかし、新八は震えながら歯をカチカチと鳴らすばかり。
ようやく、立ち上がった頃にはもう目の前に化け物はいた。
「ちょ……待てよ……。たかが、女ひとりだろ……な?」
新八は目に涙を浮かべ、化け物に懇願するように縋る。
「す、すぐに違う女……」
言い終わる前に、首から
「ひぐ……」
「ちっ!馬鹿な奴だ!!」
鬼八は物言わぬ新八を見て、そう吐き捨てた。
「鬼が……死ぬのか?」
「……土帝、お前さん、梔子嬢と手分けしてなるべくこの辺りに結界をはれ。あとはこね三吉に任せてくれねぇか?」
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