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夏休み編
48 塞がらない傷口
しおりを挟むガラムは、閑静としたライブハウスを見渡す。隣にいるみのりはやはり起きる気配は無い。
たくさんいる人達の中で起きているのは自分1人。
いつも、家でも旅先でも一番に寝てしまうのは自分なのに不思議な光景だ。
だが、そんな静寂もすぐに打ち破られた。
「なずなちゃん!なずなちゃん、死んじゃダメだ!」
「うるさいですわよ!」
バタバタと人が入って来る。しかし、ただそれだけではなかった。
女性が血まみれの少女を床に下ろす。その横に男性がつく。
「すぐにどうもこうも先生に連絡します!そして、あなた治癒の呪術を!」
「え?!俺、使えねえよ!」
「……ならどけ!俺が使う」
ガラムは、目の前に起きている事を唖然としながら見つめた。
そして、すぐに血まみれの少女が友人だと気づいた。
「ぺ、ぺんぺん!なんで」
「あぁん?!なんだテメェ?!」
ガラムは、金髪の男に睨まれ、小さな悲鳴を上げる。
「よせ!娘さんの友達だ!」
「あ?そうになのか?」
ガラムはうなづいた。
「……今、どうもこうも先生呼びました。ですが……」
沙羅は徐々に弱っていくように見えるなずなを見つめる。
「くそ!傷口が閉じねえ!」
術をかけながら、又三郎がなずなの傷口を見つめる。
周りの血は乾くことを知らず、泉のように溢れていく。
翔一は、シャツを脱ぎなずなの傷口に被せた。
「血だけでも止めてやらねぇと……しかし、鬼にこっぴどくやられたのによく生きてんな!」
(確かに……。まるで何かに護られている……そんな感じですわね)
沙羅は、術に加わる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「うおおおおぉ!」
蛍は、物言わぬ新八の身体を振り上げ飛ばした。
その挙句、周りにある車やガードレールあらゆるものを壊していく。
それは子供が駄々をこねた姿にも似ている。
「……坊ちゃん」
三吉がようやく、蛍の肩を掴んで諭すように伝える。
「しっかりして下せい!羅刹に!支配され……」
三吉が言い終わる前に蛍は爪で、三吉の右腕を引っ掻く。
右腕からは三本の傷が付き、そこから血が溢れる。それでも、三吉は蛍の肩を放す事はなかった。
「……馬鹿たれ!育ての親も分からんか?!それでもな!あっしはアンタが大事だ!頼む!これ以上は見てられんて!」
だが、蛍は更に咆哮をあげ、巨大である三吉の身体を諸共せず、片腕だけで吹き飛ばす。
三吉は逆らうことはなく、受け身だけを取り、3メートル飛ばされる。
「さ、三吉?!……くっ。あの力……羅刹に支配されたというのか?」
経国は、黒筒を取り出し、刀にする。
「我が弟よ!……お前が、羅刹になるというならば……」
経国は無謀と分かりつつ、羅刹と化した蛍に向かって走る。
「……弟よ!」
近づいた途端、経国は切りかかるが、やはり片腕だけで吹き飛ばされる。
三吉と同じように、吹き飛ばされる。
(く……やはり……。この状況を止められる者がいるとしたら……)
「ウオオオオアアアアーッ!カエセ!カエセ!ユルサンユルサン!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『……ここは』
なずなは目が覚める。
自分は死んでしまったのだろうか?なずなは、周りの花々を見渡す。
何度目の場所だろうか。覚えていない。
ただ愛する者と別れる度にここに来た。
かつて愛した人がいる。それは覚えている。
そして、また再び恋をした。彼はとても、穏やかで飄々としている。
だけど、いつも悲しげだ。
『私の子を助けて下さい……』
目の前に現れたのは、彼によく似た女性。
『え……』
『選ぶのです。また、生まれ変わり、再び放浪するか、それとも……』
それは違う声だ。
『私は……』
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