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夏休み編
46 広がるもの
しおりを挟む「……ちっ!新八、ここから出るぞ」
「でも、親父!……分かった」
鬼八は振り返らず、ライブハウスから出ていく。新八は小走りでそれについて行った。
「シャアアア!」
又三郎は牙を剥き出し、鬼八に体当たりしようとするが、鬼八に片腕だけで飛ばされる。
又三郎の身体は壁に勢いよくぶつかり、壁が割れていた。
「……又三郎!」
なずなは慌てて、又三郎の所まで駆け寄る。
「ああ。すまねえ。俺は大丈夫だ……」
又三郎はよろよろ立ち上がり、首を激しく振る。
(……ちっ。後ろ足をやりやがったか。だが、まだ動ける)
心配そうに見つめるなずな。
「安心しろ。俺は妖怪だ……っ」
やはり足は痛む。このまま、行っても役に立たないかもしれないが、妖術は使えるはずだと又三郎は足を引きずった。
すると、自分の体がフワッと浮かび上がる。
「又三郎、外までついて行くわ。私はすぐに逃げるから……大丈夫。足は速いの」
「かたじけねえ……」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「鬼八……ヤツめ。よからぬ事を!」
そう言って三吉は近寄って来た餓鬼を投げ飛ばす。
「前の鬼か……。妖力だけでも凄まじいはのに、この大群だ」
土帝は周りを見渡した。
人間達も戦うものがいる。しかし、人ならざるものになすすべが無かった。
そんな時、警察官と思しき人物が土帝に近寄って来た。
「……君たち!今、機動隊から呼ぶ!だからもう!」
「機動隊?蛍、不味いぞ!」
土帝に言われ、蛍は翔一に経国に催促するように促す。
「坊ちゃん。機動隊なんて呼ばれたら」
「分かっている」
機動隊が実際に来たら騒ぎは拡大、更には犠牲者も増える。しかも、人間側は妖怪をきちんと認知している者は少ない。
最悪の場合、妖怪と人間との戦争が起きる可能性すらある。
それは戦火は日本にだけに留まらないかも知れない。
蛍は何としても、この状況を打破したかった。
「……鬼八を探すぞ!」
「……その必要はねえ」
ライブハウスの方から声がした。鬼八がゆっくりと出てくる。その隣には新八。
「き、鬼八!それに新八……!中の人間に何をした!?」
「安心しろよ。てめぇが心配する事はねぇ
……あの小娘も無事だ」
それを聞いて安堵する蛍だが、臨戦態勢を崩すことは無かった。
「坊ちゃん。怒りを抑えて下さい」
「ああ。分かっている」
蛍は冷静にそう言った。
(……ああは言っているけど、蛍大丈夫かしら?ん……あの娘)
梔子が横目で猫を抱えて、なずなが隠れながら走って行くのを見た。
(……何やってるのかしら?まあ、いいわ。餓鬼に襲われて痛い目をみれば。そしたらもう、蛍に近寄れないでしょ)
そして、もう1人それを見ていた者がいた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「又三郎、この辺でいいかしら?」
「ああ。とりあえず、境界面を作り出す……娘さん悪いが、餓鬼が近寄って来たら合図してくれ」
なずなは静かに又三郎を地面に降ろした。
「そしたら俺が境界面に奴らをぶち込む。奴らの妖力じゃそっから這い出でる事は出来んだろうし……」
「分かったわ……あっ……」
なずなは後ろを振り向き、小さく悲鳴をあげる。
「てめぇら、何やってやがる?!」
さっきの鬼、新八がそこにいた。
「……くっ」
「逃げるわよ!又三郎!」
なずなは急いで又三郎を抱き上げ走り出す。
「待ちやがれ!!」
なずなは運動には自信があった。しかし、相手は人ならざる者……鬼だ。
とにかく、蛍達がいる方へ行けばいい。それしか今身を守る方法がないからだ。
「……娘さんよ!俺を降ろせ!奴と戦う」
「ダメよ!又三郎、怪我をしているでしょ?いったん蛍くん達と合流して……ほら見えてきた!」
ライブハウスからはあまり離れていなかったようで蛍達は見えてくる。
「ぺんぺん!何やっている?!」
しばらくすると、蛍がこちらに気づいたようだった。
「蛍くん!」
全力で走っているせいか、なずなは足がもつれそうだった。
「はやくこっちに……!」
「させるか!」
猛スピードで追いかけてきた新八はなずなの前に立ちはだかる。
「娘さん!俺を離せ!こいつ一体なら、屁でもねぇ!」
なずなが少し力を弛めた瞬間、又三郎はぴょんと飛び降りる。
又三郎は後ろ足に電気が走ったような痛みを覚えた。
「ちっ!でも、シャアアアア!」
新八を激しく威嚇する。
「手負いのてめぇに何が出来る!?」
又三郎に大きな爪を振り降ろした。
「又三郎っ!」
確かに手応えはあった。
だが、爪が貫いたのは……。
「……蛍……く……ん……」
地面に広がる赤い液。
蛍が見たのは凄惨たる姿であった。
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