蛍地獄奇譚

玉楼二千佳

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学園生活篇

19霊界へ

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 「どうしよう⁈警察に…」
「無駄だよ。君も分かるだろう?」
相手は妖怪だ。蛍に言われたからなのか、なずなは自分が冷静でない事に気づいた。
 「でも、あれは何なの?ブラックボールみたいな」
「いや、あれは境界面だ。あの世でもこの世でもない世界に連れて行かれたんだと思う」
蛍はポケットから、スマホを取り出す。そして、電話をかけ始めた。
「…もしもし、三吉。今どこにいる?…そうか、瑠璃も来ているのか…ん?しょうけらも?なら、丁度いい。連れてこい」
居場所を伝えて電話を切ると、蛍はにやりと笑う。



 ネリネは、何とか目を覚ますと、そこは花畑。だけど、そこがいい場所でない事は分かっていた。男の子二人はまだ目を覚さない。
 とりあえず、ネリネはカバンを確認した。
「何とか大丈夫みたいね…」
弘海の方の体を揺すり、弘海を起こす。寝ぼけた顔をしているが意識はある。続いて、真人も起こすとやはり、同じような感じだった。
「ん…?ここどこ?」
弘海は目を擦り、周りを見渡す。
「…分からない。けど、いい場所じゃないわ」
「あ、俺位置情報確認できるアプリあるよ」
真人がスマホを取り出し、アプリを開く。だが、それが無駄である事はネリネにはよく分かっていた。
「あ、あれ?確認できないって…」
「…行くわよ」
ネリネが立ち上がり、歩き出した。
「どこに行くのさ?」
弘海が訪ねるが、ネリネは着いて来いの一点張りである。


 ネリネに着いていくと、遊園地のような場所に着く。弘海や真人は目を輝かせるが、ネリネは怪訝な顔をする。
 「おやおや、皆来たんだね。お友達もいるよ」
さっきの坊主が居て三人は警戒するが、それすぐなくなる。
「あれ?真人君と吉永君じゃない?」
坊主の後ろから、女の子が顔を出す。それが乃亜だった。
ネリネは、カバンの紐を強く握りしめる。




 「…んで、俺に用事って何だよ?」
公園に来て、心底迷惑そうに翔一が蛍に尋ねた。
「ああ。ちょっとな、境界面を作って欲しいんだよ…霊界へのね」
霊界とは、人間界と地獄の狭間にある世界だ。人間は死んだ時、地獄へ行く前にここへ行き着く。
「霊界?…でも、なずなちゃんの弟はまだ生きてるだろう?それにお前の妹だって…」
 蛍に呼び出され、三吉にここへ連れて行かれた翔一は事の顛末を聞かされていた。
「確かにネリネはともかく、弘海君達が霊界に行く事は不可能だ。だけど、あの妖怪は現に子供達を連れて行った」
「その妖怪は多分、夜道怪でしょうな」
三吉の説明によると、夜道怪とは主に子供を狙う妖怪で子供が夕方遅くまで遊んでいると連れ去って行く妖怪。宿を貸してくれと頼む事もあるそうだ。
「…子供の魂は、新鮮で血肉もまた然り。元来、人間を食らう等あってはならん」
三吉は言った。
三吉は何故、人間の味方なのだろう。昔から、人間である母に優しかった。他の鬼達は、いつも母と閻魔の正室を比べて、正室の方がはやり優秀だと褒め称えた。だけど、三吉だけは絶対そんな事はしない。
そんな三吉だからなのだろう。蛍は三吉を信頼できるのだ。
「報酬は出るんだろうな?」
翔一は渋々、承諾したようだった。
「すみません!よろしくお願いします!」
なずなが丁寧に頭を下げる。
「いやあ、カワイコちゃんに頼まれるとお兄さん、嬉しいな!そうだ!報酬はなずなちゃんとのでぇとって事で?」
「…食い物を一週間、恵んでやる。それでいいな?」
調子よく喋り出す翔一を蛍は睨みつけながら言った。翔一は口を尖らせ、仕方がないとお経を唱え始める。すると、空中に空間が開く。
「さ、さっきの同じ…これが境界面…」
  なずなは、思わず口を抑える。
これを開く事が出来るのは、閻魔から許可を得たしょうけら族と、極一部の妖怪だけ。
それもかなりの妖力を使用するので、翔一はへとへとだった。
「…僕のスマホは、地獄製だから霊界でも繋がる。戻る時には連絡する」
そう言って、境界面に入ろうとする蛍。しかし、その時なずなに引き止められる。
「待って!」
「ぺんぺん?」
「私を連れて行って!」

蛍はしばらく黙っていた。翔一は、地面に這いつくばりなが止める。
「イヤイヤ、なずなちゃん!それはよしなよ」
「………坊っちゃん、なずなさんを連れてやれ」
「なんで?」
蛍は三吉を見るが、三吉はただ頷くばかり…。
「…分かった。ぺんぺん、だけど僕から離れないでね」
そう言って、蛍はなずなの片手を握り、それを返すようになずなも蛍の手を握りしめ。
「じゃあ、行ってくるよ」







 境界面に入ると、すぐに花畑に着いた。なずなは、蛍と手を繋いだままその中を歩く。
 「…変な感じ」
「何が?」
「だってもっと…」
なずなはもっと、不気味な世界場所を想像していた。
「凄く綺麗…だけど…」
なずなは、今日に立ち止まる。それに合わせて蛍も歩みを止めた。
「…どうしたの?」
「…ううん。何でもない…きっと」
二人は再び歩き始める。



──ねえ、蛍くん。私、この場所……知ってるよ
 
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