浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

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食道楽の何歩か手前

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「おや?今日はお早いですね」
そう声をかけると。
「よかったら、隣に座りませんか?」
「いいんですか?では…」
上着を脱いで、じゃあ何を頼もうとお品書きを見始める。
「今日はおでんが美味しいと思いますよ」
隣を見ると、おでんに熱燗という定番のセットを楽しんでいた。
「あぁ、それもいいね」
すいません!と注文する。
そのままニコニコしていたら。
「何か良いことでもあったんですか?」
「そういうわけじゃありませんが、笑う門には福来るというじゃない?だったらこうして笑顔を浮かべて、人に優しくあろうってね」
この二人は詳しい素性は互いにそうは知らないが、食べ物と飲み物の趣味が合うので、よく同じ店であっていた。
そこから交流が始まって、今はこんな感じの仲になっている。
最初に話しかけたのは、おでんを先に食べている男の方からだった。


「何をお飲みになっているんですか?」
その時別料金支払い、持ち込んだ酒を手酌でちびちびと飲んでいたら、話しかけてきた。
「だってなんのお酒かわからないような、ラッピングのまま飲んでいたから」
気になったらしい。
「そこまで人に知らせたくないものでもないんだけどもね」
ラッピングをめくってラベルを見せると、聞いたことがない酒であった。
「これは…」
「普段は一般販売されてないやつ、私も見たことないものだからね、これは何?って聞いて、それで試しになってみたら、当たりだった」
お猪口を頼むと、古伊万里のものが出てきた。
「はい、私の酌で勘弁してね」
そういって注いでくれると、お猪口の中に花が咲く。
「いただきます」
クイ!っといただくと、花の季節が広がった。
「…美味しいですね」
「そりょあ良かった」
そこから顔を見かけるたびに、話をする仲になったのだ。
「メッセージとか好きじゃないんですか?」
「あんまりね」
連絡先は交換しているが、話しかけても、短いか、スタンプだけで返してくる。
「そんなんじゃモテませんよ」
「モテなくていいよ」
「なんでですか?」
「いや~なんかもういいかなって」
「誰かいい人いたんですか?」
「いないよ」
「そんなの勿体ないですって」
「そっちこそ彼女とかいないの?…まあ、いたらこういう楽しみできないと思うけどもさ」
「そうなんですよね」
食道楽の何歩か手前である。
「美味しいものを食べたいっていうのがそんなに悪いことなのかなって、一時期はさ、それでも人と合わせなきゃって思ったんだけどもさ、同僚とか取引先とかともね、飲みには行った」
けども、あまりの合わなさに。
あれ?これって何のために来てるのかな?って思ったという。
「逆にさ、旨いものしか認めないってタイプとも合わないんだよね」
ジビエは…この時期の○○産しか認めない。
「こう…さ、もっとライトに美味しいもの食べたり、楽しんだりしたいって感じなんだよね」
「そこも俺たち趣味が合うと思いますよ」
「そう?」
「そうですって、今日は一緒に飲めるのかなって、すんごい楽しみにしているんですから」
「えっ?そうだったの?」
「酷いな、俺の片想いですか?」
「そういうわけじゃないけどもさ。片思いって何なのさ」
「片思いは片思いです」
そこでグイっと残りの酒を飲んだところに、おでん到着。
パクっ
「染み入るよ」
「猫舌じゃないんですか?」
「猫舌を忘れるほど美味しい」
「ダメじゃないですか?」
「ここは一気に行かないと、大根に悪い」
「またそんなこといって」
「いいんだよ、そんな調子でさ、相変わらずここは出汁が上手だよね」
昆布も良いもの使っています。
「気楽に通える値段で美味しいもの出してくれるお店が、どんどん減っていくのが辛い」
「やっぱりそういうの気のせいじゃないよな、相談とかも来るようになったし」
「相談なんかされるんですか?」
「されるよ、なんかどうにかならないですかねって」
「ざっくりすぎる」
「そこから話を聞いていくんだよ、悩みなんてものは、本人もなんなのかわかってないけど、困ってる。そんな状態なのさ」
「じゃあ、俺の相談も聞いてくれます?」
「何?悩んでいるの?」
お悩み話中…
「それは直接聞いてみた方が、相手もいる話だしさ」
「でも怖くないですか?」
「けど、見当違いのことばかりしても、上手く行かないよ、相手がどうしてほしいのか、君がどうなりたいのか、そこを知ってから現実的に落としどころを探していくってことが必要だしさ」
「そういうの苦手なんですよね」
「まっ、そういう場合もあるよね」
「そういう場合しかないです」
ここで玉子焼を追加。
「じゃあ、こっちは焼き鳥食べようかな」
つくねお願いします。
「後ですね、将来のことも最近見据えるようになりました」
「良いことだと思うよ」
「そこまで将来設計とか考えてなかったんですけどもね」
「何かきっかけがあったの?」
「美味しいものをこうして楽しく食べていけたらいいなって」
「そりゃいい、いい目標を見つけたんじゃないか?じゃあ、そんな未来が来ることを、乾杯!」
お猪口を鳴らした後、二人してお酒を飲み干した。
澄んだ水ような酒が体を潤してくれた。
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