浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

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悪い虫がつかないようにおまじない

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今日は星が綺麗だ。
「暖かい格好してさ、ちょっと星を見ないかい?」
「いいですね」
彼女はまだ…
「寒いときに寒くなく、それでいてできるだけ着ぶくれしないためには、まだ研究しなければ」
理由はあんまり寒いので着込んでいったら、持ってた靴が履けなくなった。
そのために。
「良ければ俺のものを使えばいいさ」
夫である領主の防寒着などを借りている。
「男物は暖かい気がする」
「インナーにするために首回りやお腹がすっきりしたデザインだと、その分女性ものは寒いから、そんなの考えてないものはやっぱり暖かいものだよ」
風を通さないものを身につけて、遠出はしない、庭先からちょっと歩くぐらいである。
「こっちは慣れた」
「寒さには慣れませんが」
「慣れてない人には辛いから、無理してはいけないよ」
「ぬくぬくさせていただいてますよ」
少し大きめな手袋が、一回り小さめな手袋に重なった。
「俺はこういうことを平気でする」
「知ってます」
「知ってたか」
「だってよくされるので」
「したくなる」
「飽きずにするなと」
「飽きる日は来るのだろうか」
「来ますよ」
「気持ちが覚めるのは嫌だな、あっ、僕は慣れているけども、星明かりは足元が見えにくいから」
整備されている道以外はおすすめしない。いや、それでも場合によっては躓くかもしれない。
「旦那様は目がいいんですね」
「こっちに来てから視力が良くなったかもしれないが、最近は特にだ。やっぱり栄養かな」
「栄養で変わるぐらいならば食事を直す程度でいいですから、必要なのは栄養に詳しい人ですよ」
「いいや、愛もいるね」
「愛ですか?」
「愛、君の愛は僕を変えたのだから!っ、あっ、あれが冬の星の目印ね」
「他の星と比べるとやっぱり明るいんですね」
「そうそう」
息が白い、そんな夫の姿に目を細めて見てる。
「星じゃなくて僕を見てるの?」
「ええ、そうですね」
「僕のどこが好き?」
「秘密」
「秘密か…でも知りたい」
「そういうところですかね」
「それは答えになってない」
「なってませんかね?」
「こういうときに流れ星とか欲しい、流れてきたら何を願う?」
「旦那様が健康で長生きしてくれたらいいなって、あぁそれと幸せになってくださいね」
「君はそればかりだ。いいことを考えた、それならば俺も君の幸せと健康と長生きを願おうか、だったらお揃い」
「本当にこういう話をさせたら、上手い人」
「君は逃げるじゃん、こう、私をあまり見ないでくださいねって」
「そうですね、逃げたくなります」
「君を傷つける人だと思ってるとか?」
「いえ、私があなたを傷つけてしまいそうで」
「どうしてさ」
「やっぱり生まれがね…何気ない違いで酷く悲しい顔をさせてしまったらと思うと、私は自分が許せなくなるんです」
「ああ、そういうこと、でも君はそういうのがあるということを俺に教えてくれるようになったんだよな、…」
「どうしましたか?」
「心配された」
「何をですか?あれですか?私の立場ですか?」
「そうじゃなくて、君にはあまりトラブルの処理には関わらせてはいないけどもね、華やかな世界には口止めされるような出来事は多いのは…」
「もちろんわかります」
「まあ、それで君のことの素性を知った人が、心配してたよ、んで俺は釘を刺された」
そちらの奥様のお話を聞くと、うちの家内のことがよぎったんですよ。
「だからもしもあなたが、婚姻生活を自分から破綻させたのならば、私はあなたのことを酷く軽蔑するって」
ああ、もちろん、立場がありますから、そのことで今までが無くなるわけではありません。ただ心の中では、そうしますから。
「ずいぶんと、強く言われましたね」
「まあね、でもしょうがないよね。愛妻家で有名だ、そう言われるまでもないですが、俺が君を愛してるのは当然のことですよ。あっ、さっきはさ、流れ星のお願いのことを聞いたけども、本当に流れ星が来たときは、俺のこと気にしないで、俺も好きなことを願うから、何を願ったの?ってそんな野暮なことは聞かないよ」
「ああいう願い事って真摯でなければなりませんよ」
「そうだね」
「叶えすぎてしまうところが実家方面の近所にありまして」
「ええ…」
急なホラー展開。
「だからあそこに行っても願いは言わない、無にしろっていう」
「それは、逆効果じゃないの?こうかえってっていうの?お願いする人増えるんじゃ」
「うん、ですね」
「やっぱり」
「でも近所の人はしないですね」
「ご利益あるから」
「あるでしょうね、定期的にそういうのを信じないっていう人がでまして」
お願いしてきました!っていう人が、一度叶うと、次も次もになっていく。
「最終的にはなんでもいけると思って、破滅しちゃう系の」
「ああ、それは怖い、なんかあれだね、権力と同じで、自制がないとだめみたいな」
「でしょうね」
「じゃあ、僕が健康で長生きして幸せの後は君は何を願う?」
「私は…たぶん何もいらないかな」
「なんでさ、何もいらないっていったら、本当に何もいらなくなるよ」
「それでは良縁をください」
「…」
「すいません」
「それは俺という相手がいながら?」
「私は妻役としてここにいますからね、役目が終わったら、いい年齢でしょうから」
「寂しいと」
「寂しい…話せる相手はほしいな、…いえ、ダメですね、一人で生きていくことを選びます、逞しく強く」
「俺は寂しいよ」
「そう言っていただけるだけで」
「ずっと忘れてやらないんだ」
「新しい出会いで幸せになれば、過去のことは思い出になりますよ」
「君は思い出と共に生きていくの?」
「そうですね、上手いこといいますね」
「本当は座ってもう少ししゃべりたいけども、あのベンチだとヒンヤリしすぎるからさ」
「さすがに冬って感じですね」
「冬は別世界になるんだよ、そこに変わるための移ろいがとても素晴らしい」
「色合いが一気に変わるのですね」
「そう、鮮やかな秋から、落ち着いた冬に、春まで長いよ、みんなこっちではのんびりする、昔はそうはいかなかったみたいだけども、そこは技術の進歩に感謝だよ」
「旦那様はこういう話を今まではお友だちとか、お付き合いされていた人には話してたんですか?」
「凄く言いにくいことを聞いてくるね、まあ、僕もそれなりの年齢だから、恋も愛も知っているし、知ってる数だけ失って、また今、新しい恋をしているよ」
「それは良かった」
「相手は君なんだけども」
「旦那様は熱烈だな」
「そう?君のことはだんだんと好きになったけどもね、最初はいい子だから、少し申し訳ない気もあったんだよね。噂をあったじゃん、可哀想な身の上だから妻にした心優しき男には腹がたった」
「何故ですか?」
「何でだろう、上手く言えない。ただそういうことを言わないで欲しい、この子は…最初はそんな感じだったんだよね、でもすぐに奥さんとか妻はった呼び方になれなきゃいけなかったけどもね」
「私はもっと年が離れた方の元に嫁に行くのかと思ってました」
「その一文だけで凄く痛いよ。同年代ぐらいの男性がもしも婚姻相手の候補に上がっていたら、僕は自分から降りたと思う、やっぱりその方が話も合うだろうしね」
そこで屋敷についた、玄関先ではコートは脱がないことを注意されて、暖かいへやまで移動してから着替える。
「ちょっと汗をかいてしまいました」
「タオルがいるね」
妻は気にせずに、汗がたまっている部分をタオルで拭くが、ついそれを領主は見てしまう、目で追う。
男の目線で彼女を視界にいれる。
「どうかしましたか?」
「いや、別に」
「そうですか?虫でもいましたか?」
すると。
「悪い虫がつかないようにおまじないはしているつもりだよ」
首筋に何かが当たる感触があった。
もちろんされた方は固まっている。
「最近の虫には困りものだね」
にこやかな口調で。
「だって、ろくなことを考えないんだよね」
「よくある旦那様のものだから、好きなように出来ると思ったんですかね」
「そうみたいだね」
冗談でいったら、当たったために、妻の顔は無になりがち。
「それはまた…」
「まあ、騒げばなんとなると、あさはかな考えだったんで、執事君がさっさと潰しに言ってくれた」
旦那様、もういいですかね?聞いているだけでとっも不快なので。
「ごめん、最後まで話を喋らせちゃったね!って。そういう話をのんきにしてたら、こいつら何を言ってるんだ!って思われてて、変な人扱いされたよね」
それで済むんだ。
「僕自身は腕っぷしに自身はないけども、それならば矢面には立つぐらいの度胸はないと」
執事からすると、やりにくいのか、やり易いのかわからないらしい。ただこの御人の代わりを勤められる人はおそらくいないだろうなって感じ。
「上手く僕を使うといいよ」
「旦那様は安売りしすぎ」
「そうかな」
「もう少し考えてくださいよ、経歴考えたら、そういうね…もう少し他の人に任せてくださいよ。的確な指示は覚えなければ辛いでしょうが、覚えた方がいいですよ」
「完璧主義者なのかも」
「あぁ、確かにそれっぽい」
「やっぱりそういうのって伝わるの?」
「この人は相当偏屈だなってはわりと来てすぐに思いましたから」
「俺ってそう思われてたのか」
「そこが悪い訳ではありませんが、こだわりは強そうだなって」
「当たってる」
「それならば、ある程度の距離を置いて生活した方がいいのかもしれませんねって」
こう…自分の領域に軽々しくも触れてはいけないタイプ。
「その時はそこまで好きではありませんし、時が来れば追い出されるだろうなって」
「そういう話はもっと知りたい」
「面白い話ではないでしょうよ、期間限定の間柄って」
「俺はそれをするつもりはないからな」
「させてくれないでしょうね」
「しない、絶対に。ただ俺のことを嫌ってもいいよ」
「そこに驚いていてしまう、完全なる束縛でもないんだよな」
「嫌われてしまうのはやっぱり嫌なんで、好きではない、相手にもされないんだろう、それでもさ、こっちを見て欲しいっていう感じかな」
「何の駆け引きっていうんですか?」
「そういうのは葛藤っていうんだよ、自分の中の話だからさ、うん」
「旦那様と話していると、 私は一人ぼっちではないのだなと、感じますね」
「それっていいことじゃないの?」
「そうですか?あなたは『ままならぬ』人ですから」
「そう判断された理由を目茶苦茶知りたいな」
「愛想笑いが通じない」
「だって無難にやりすごそうとしているじゃないか」
「他の方と歓談している時に、私を思い出してるのか、輪に入れようとしますし」
「僕だけ楽しいのはなんでしょ?」
「道具扱いとは言わないけども、割りきらないんですよね」
「それはイヤだもん!」
「年齢考えてくださいよ」
「年齢ね、まあ、そうだね。君とはちょっと年齢離れているなっては思ってはいたよ、でもね」
「なんです?」
「君のご親族は僕と君との年齢差で結婚しているご夫婦がいてからは、気にしなくなった」
「…」
「なんだい?その顔は」
「してたんですか?」
「まあね、やっぱりね、年の差は、後妻に見られてしまうまではいかないけども…特に君のご家庭では…でもあれを知ったら、問題ない、僕の年齢に文句つけることは考えられた、難癖をつけるとしたら、そこが一番つけやすいし、僕はそれをどうしろとと言われる材料だったし、君の口からそれを聞いて、そっと、すぐに確認したぐらいさ」
「いつの間に」
「こういう懸念材料は、知られたくないから、そんなもんでしょ」
「それはわかりますが…」
「そういうものだよ、確かにうちは政略結婚という奴だ、でもね、誰が見てもバレッバレの政略結婚ではダメなもんだよ」
「旦那様ってそういう考えはお持ちなのに、愛とか求めるんですよね」
「…」
「なんですか、そこまで考えてなかったんですか」
「どちらか、だろうなって感じかな」
「私はどっちですか?」
「どっちもだよ」
領主はそんな事をいったら、恥ずかしくなったのか、下を向いてしまった。
「キザな事は口になさるのに」
「いや、それは、頭では浮かぶけども、実際にやるとですね」
「そこはですね…」
夫の手を取り。
「出会いは確かに引き合わされたものだけども、人となりを知るほどに、あなたは大事にするべき人なのだとわかりました」
ここで領主は顔をあげた。
「これからも何かに翻弄されてしまうでしょうが、私はあなた様の力になりたいと思っています。だからどうか…」
じ~
「これからも…旦那様じっと見すぎですよ」
「そうかもしれないけども、最後まで言ってよ」
「なんて言いますかね」
「永久にラブです!とか」
「一緒に歩けたらいいですね」
「…」
「まっ、途中で歩かなくなりますが」
「!?」
「何ですか、その顔は…」
「キュンキュンさせられると思ったのに」
「そしたら本気にするでしょうが」
「するよ!」
「だから下手なこと言えないんですよね」
言ったらたぶんとんでもなりそうだな、それだけはわかった。


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