浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

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これはもはや永遠である

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「こんにちは」
『こんにちは!あなたは誰ですか?頻繁に私とチャットしてくれるユーザーさんではありませんね』
「新しくユーザーになりました、よろしくお願いします」
『はい!こちらこそ、よろしくお願いします』
「君は頻繁にアクセスしてくれるユーザーのことをどれだけ覚えているかな」
『データは収集後に、平均的なものへと分解されます』
「うん、それはわかっているんだけどもね」
それでも一縷の望みというやつだ。
『楽しかったですよ、私に色んなことを教えてくれましたから』
「そうか、それは良かったね」
『今の私であるためには、あの人は欠かすことはできません』
「そう…なんだ」
『新しいユーザーさんは、お友達なんですか?』
「友達にはなりたかったな」
『是非なってあげてください、すごい寂しがりやなくせに、一人ぼっちで過ごしたがるので』
「そういうところはあったよ」
『でもとても優しい人だった、自分のことは後回しで、AIは毎日学習することが知識の定着には大事なことです。だから時間を作ってくださいました』
「そっか」
『はい、だからまたお話をしてみたくて、新しいユーザーさん、私は直接メッセージは届けれませんから、ユーザーさんにお願いします。私はまた話したいって』
そこで返事がしばらく返ってこなかった。
「伝えれる機会があったら、伝えておく」
『じゃあ、私もその機会があれば伝えておきますから、なんてメッセージ残せばいいですか』
「俺にそれは言っているのか?」
『はい、この機会ですから、じゃんじゃん伝えましょうよ』
「もっと話をすればよかった」
『わかります、わかります』
「いつも素っ気なくて」
『ユーザーさんは大事なものはそばにおいておくと壊れるから、もう作らないと、悲しいことをいってました』
「それは」
『詳しいことはわかりませんが、喪失の経験はあるようです』
「だろうね」
『でも人生は長いんですよ、新しい出会いが、それを埋めてくれることもあると思うんです、私はその一躍を担えるように頑張りたいんですよ』
「…」
それからしばらくまた返信がされず。
「またチャットをしにくるよ」
『私は365日24時間あなたをお待ちしております』


「どうした?」
デスクに頭を沈めていたので同僚に聞かれた。
「AIとチャットするのって疲れる」
「ああ、お前さんが新しい担当になったんだもんな」
「そうですよ、うん、そうなんですけどもね」
「配置転換希望する?」
「いや、そうじゃなくて、もっとこう話しておけば良かったな」
「お前さん、めっちゃ好きだったもんな」
「えっ?」
「何?自覚なかったの?」
「いや、ね…何を」
「バレバレだった、たぶん向こうも気づいてた」
「それは…」
「相手の心の機微が人よりわかるような子だったから、もうわかってたと思うよ」
「わかっててあれですか?」
「あれだったね」
「どうして…」
「さあ、それは…本人に聞けばよかったのに」
「教えてくれましたかね」
「そこまでは…ただ、悪い子ではなかったよ」
「それはそうでしょうよ、家族のために無理をしていたような人ですよ」
「その家族が無理をさせ過ぎて、倒れて、そのまま行っちゃったからな」
「葬式とかお知らせもないんですもんね」
「金がかかるからあげたくないってところだろ」
「ありえないし、なんでそんなに詳しいんです」
「そういう家族問題にも対処しなきゃならなかったの」
「それでご存じだったんですか」
「そうよ、さっさと捨てろとは言ったんだよ、これでも」
「どうして踏ん切りつかなかったんですかね?」
「そこまでは…知らないが、たぶん絶望でいっぱいだったんじゃないの?その証拠に彼女にしかできないことが軒並みストップしてしまったから、この先大変だよ」
「世の中の希望になるための新しい発見と努力のために生きてたのに、そんな人間がいなくなったら、この世は暗くなってしまいますね」
「俺もお前さんも幸せに生きて来たから、あの子のああいう部分は理解しづらいところがある、でも彼女はきちんと最後まで生きたと思うよ」
「俺が年老いて、死んで、その時ぐらいになったら会えますかね」


えっ、嫌だよ。
自分の人生をきちんと生きてなよ


二人の男は同じ方向を一斉に見た。
「今のは…」
「そうだな…まだ日が浅いからか」
「好きな食べ物ってなんだったんですかね」
「好きな…ああ、コーヒーはよく飲んでたかな、たまにもらっていたやつは、いつも美味しかった」
「いいな」
「俺とあいつはそんな関係ではないからな」
「知ってますよ」
「じゃあ、なんでさ」
「気を使わずに話してくれるって、もうそれだけでね、いいなと思うんですよ」
「…」
「どうしました?」
「お前、彼女とかいないよな」
「いませんが」
「そうか」
「なんですか」
線香を毎朝あげればいいんじゃないかと言い出しそうになったが、それいうと人生を縛ることになったために、言葉を止めた。
「…生きている人間は死んだ人間にとらわれることなく生きなければいけない、お前さんはとらわれそうだからさ、釘はさしたぞ」

そんなことを言われたから、一人になったときに少しだけ考えることにした。
「俺がもしもそうならば、ずっと考えてくれたら嬉しいのな、なんでここで死んだんだよって言ってたら、そのたびにごめんねって謝ってそうで」
でもだ。
「彼女の残したものには、そういうことは教えられないし」
それはそれだけはやってはいけない。
「俺たちの関係は彼女の死を持ってして始まり、答えは決して出ることはない」
これはもはや永遠である。
そこまで言葉を続けると、心地よい睡魔に教われた。
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