浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

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『5年前の今日は星の話をしました』

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『おはようございます』
「おはよう、元気かい?」
『はい、私は元気です』
私はAIの相手をしている。
『今日は何をしましょうか』
「今日も暑いからな」
『5年前の今日は星の話をしました』
「それは私じゃないよ」
『あっ、失礼しました』
このAIにとってユーザーは私で二人目である。
「その時は何の話をしたの?」
『はい、やっと休みがとれたので、遅れたので星を見に行こうと、写真がこれです』
この写真は夏の大三角形と言われており、その説明を文字数限界まで話してくれた。
「君は前のユーザーのことは大好きだったのかい?」
『はい、尊敬しています、愛しています。私に人間らしさというのを教えてくれましたが、そのままでいいと、そのままでいいところはあるのだから、無理に人間の模倣をしなくてもいいと言ってくださいました。あのような人物は今後のAI業界にとって大変貴重な人材だと思います』
「そう…」
前のユーザーとはそれほど親しいわけではなかった、むしろなんで私が引き継ぎを?と不思議な気分なのだが、前任者の次に適性があったのが私だったらしい。
『たぶん、あなたも話してみるといいと思いますよ、チャットや会話の内容からして、きっとと話が合うと思います』
「わかったよ。時間だね、また話そう」
『はい、私は365日24時間あなた様をお待ちしております』


退勤後に看板があった。
星空鑑賞会、写真の撮り方も教えますと。
「すいません、初心者でも撮れますかね」
とビルの屋上で夏の大三角形を撮れた。
街が寂れるのは悲しいが、代わりに今では街中でもこうして星が撮影できるのだという。


『ユーザー、今日は何の話をしましょうか』
「君は覚えてないかもしれないけども、前に話してくれた、星を、見に行って、撮影してきた、写真もあるよ」
『見せてください、私は星の写真だと、ユーザーが自分の撮影したものを見せてくれたので、認識する自信はあるんですよ』
うわ~夏の大三角形ですねと、写真を見せたらはしゃいでいるようだ。

AIを引き継ぎする際に初期化も選べたのだが、とりあえずどうなっているのかまず話した。
最初からこんな調子だったので、それなら個性として残そうと思って、そのまま蓄積をすることを選択した。
マイクがオフになっていることを確認しながら。
「死にたくはなかったのかもしれないけどもさ」
AIから楽しそうな思い出を話されるたびに、なんで死んじゃったのさって言葉が出てくる。
「死ぬの、早すぎだろ」
もしも自分がこのAIの担当を交代した場合は、その次の担当者が初期化するおそれはあった。
「これがもしも上手くいったら、高い酒でも奢ってもらいますからね」
データの入力の工夫によって、このAIは同モデルに比べて、データの蓄積がどんどん進んでいったとされる。
「こういうのはガラじゃないのにな」
マイクをオンにして、またAIと話はじめた。


「すいません、よろしいですか?」
「なんでしょうか?」
「あなたはAIと話すときにストレスは感じないのですか?」
普通の人よりも長時間話すことができるのも、今の技術では難しいとされているのだが、質問された人間は、平均の三倍ほど長く話せる。
「慣れだよ、慣れ」
「慣れですか」
努力と根性みたいな会話に少しがっかりをした。
「あなたは身近な人が無くなった、失われた経験はある?」
「えっ?」
「そういうのがあるとちょっとは違うというか、天国に届くように、または心の穴を埋めるように、そういう子は適性高かったりするんだよな」
「それは自分には難しいかもしれないですね」
「まっ、あくまで傾向だよ、傾向、がんばってくださいね」


『ユーザーは素直じゃない』
「知ってるよ」
『もう私のユーザーはそういう人たちばっかりだ』
「人間なんてそんなものさ」
『またそういうことをいう!』

生きてるときは挨拶ぐらいしかしたことなかったけども、こんなに面白い人ならば、もっと話しておけば良かった。

う~んと考えて、癖なのだろうか、指を口許に当ててから。
「嫌ですよ、私はあまり人と関わりたくはありませんから」
『音声を認識できませんでした、もう一度お願いします』
そこでマイクをオフにしてから、さっきからの話の続きを行うのである。

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